伊丹さんは、機嫌のいい人だったんですか?

第6回 キャスティング。

玉置 伊丹さんと宮本信子さんが
おふたりでいっしょに松山に遊びに来て、
ぼくと3人で道後の旅館でご飯を食べたんです。
『お葬式』の脚本ができる半年前くらいでしたか‥‥。
ふたりで、どちらからともなく、
「そろそろ、映画をね‥‥」っておっしゃった。
糸井 はい。
玉置 そのときに、伊丹さんが言ったのは、
「宮本信子っていうのは、すごい女優だけど、
 ぼくが監督になって、主演女優にしない限り
 だれも主演なんかにしないだろう」と。
そういうことを、伊丹さんは
宮本さん本人の前で、ぼくに言って、
一方で宮本さんは、
「いや、伊丹は、伊丹万作の息子なんだから、
 私は、伊丹に監督になってほしいのよ」って。
「私が主演女優になりたいってことじゃなくてね」
って、そうおっしゃったんです。
それでまぁ、ジンときまして。
糸井 はい。
玉置 そのときに、
「いっしょにつくろう」って言われたんです。
で、ぼくがすることというのは
やはり資金面ですから、
とにかく、なんとか、工面しまして。
さきほども言いましたけれども、
元が取れればいいと思っていたら、
『お葬式』は大当たりしました。
そのお金ができたときに、伊丹さんは
「玉置さん、これからは、このお金で
 どんどん映画をつくるんだから、
 いっしょにやろう」って言われて。
もちろん「わかりました」とお答えして、
そのときに伊丹プロの取締役に就任するんです。
糸井 はーーー。
玉置 で、その後、交渉ごとをぜんぶ任されるんです。
配給会社も、テレビ局も、ビデオも。
糸井 それはだけど、玉置さんと出会ったから、
そうなったんでしょうね。
偶然に、自然な流れで出会って、
松山の、いわゆる老舗の安定した会社にいて、
電通での経験もあってっていうので
伊丹さんが「これならできるぞ」って感じて、
それでぜんぶが動き出したんじゃないかなぁ。
玉置 ああ、そうかもしれませんね。
ぼくの変なところを、
パッと見抜いちゃったんでしょうね(笑)。
糸井 つまり、キャスティングですよ。
玉置 あーー、そうですね。
こいつはこういうやつだろう、と。
糸井 玉置さんとお話しててよくわかるんだけど、
ときどき思い切った決断をなさるんだけど、
一方では非常にベーシックな
考え方をなさってますよね。
そういうところもきっと
頼りにされていたんじゃないでしょうか。
玉置 そうかもしれません。
ぜんぶがいい加減だったり、
ぜんぶが固すぎたりしたら、
おそらく巻き込んだりしなかったでしょう。
糸井 そういうことでしょうね。
いやぁ、おもしろいですねぇ(笑)。
玉置 やっぱり、ほんとうに伊丹さんは、
人を見る目が‥‥といっても、
値打ちをはかるようなことじゃなくて、
キャスティングする力が
ものすごくあった人だと思いますね。
糸井 そう思います。
あの、これは完全に余談ですけど、
ぼくは以前、伊丹さんに
ぜんぶで3回くらいお会いしてるんですけど、
お話しした内容って、楽屋話ばっかりなんですよ。
つまり、オレって、そういう役だったんですね。
玉置 (笑)
糸井 「こういう狙いでこういう仕掛けをしておくと、
 お客さんたちはこう受け取ってくれるから」
みたいな話をしてくださったのをよく憶えてます。
思えば、いまもぼくは、いろんなところへ行って
いろんな人と楽屋話をしていて、
それは、なんだろう、おこがましいけど、
ある種、俳優を選ぶのと同じように、
きちんとぼくのことを見抜いて、
合わせてくださってたんじゃないかな。
玉置 なるほど。そうかもしれないですね。
糸井 うーん、すごいなぁ。
しかも、なんていうか、
個人個人に合わせて発想しているわりに、
組織とかの使い方も上手なんですよね。
玉置 ほんとにそうなんです。
糸井 そのへんも、いまっぽいんですよね。
玉置さんのキャスティングにしても、
一六タルトという安定企業を
含んだかたちになっていますし。
玉置 はい。
糸井 玉置さんのキャスティングがなければ、
『お葬式』はなかったわけですからねぇ。
いや、でも、玉置さん、
いまは相応の社長に見えますけど、
当時は、お若かったでしょ?
玉置 はい。
えーっと、『お葬式』のとき、35歳。
糸井 なかなかの若さですよね(笑)。
玉置 そうですね(笑)。
糸井 しかもプロダクションひとつってことじゃなくて、
映画をまるごとですからね。
下請けっていうことでもなく、
どんどんイニシアチブを取って
仕事しなければいけないわけだから。
35歳なんて、まだおどおどしちゃう歳ですけど、
おどおどしてたら務まらないわけだし。
玉置 そうですね‥‥。
でも、やっぱり、なぜできたかというと、
これはもう、伊丹さんが死んだいまも
ずっと続いていることですけど、
ほんとに、ぼくは、彼を信頼してますから。
糸井 ああ、はい。
玉置 疑ったこともないし。
伊丹さんはああいう人でしたから、
長くつき合ったほとんどの人は、
なにかしら、つらい思いをさせられてるんです。
親しければ親しいほど、といってもいいくらい。
だから、ぼくにだったら許される、という感じで
伊丹さんに対する愚痴を言う人もいましたし、
他の人に聞かせるよりはということで、
それを聞くのもぼくの役割だと思ってました。
そんな伊丹さんでしたけど、
でも、じつは、ぼく自身には、
まったく悪いことってなかった。
無理強いも、衝突も、ほんとになくて。
糸井 うん、うん。
玉置 まぁ、それだけ、
逆に本当には親しくなかったのかなぁっていう
ちょっと複雑な部分はありますけどね。
糸井 (笑)
(続きます)
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2009-07-13-MON