── 本館5階は、リビングのフロアですね。
家庭用品、電気器具、家具、寝具。

ジョージ 伊勢丹新宿店の家具は、
ちょっと面白いのよ。
前に言った、千じゃなくて百貨店、
ということを実感するわよ。
つまり、ご近所の大塚家具さんのような
扱いはないんだけれど、
ちゃんと百はあるの。
でも、ヘンなのよ、たまに‥‥。
ル・コルビュジエの、
有名な椅子があるじゃない?

── LC1スリングチェアですね。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の
パーマネントコレクションに
なっているという‥‥

ジョージ そ! あれって、
黒にスティールが、デフォルトでしょう?
ひとつ置くならふつうそれなのよ。
それが、キャメル色の皮にスティールなんていうのを
平気で並べてしまうのが伊勢丹なの。

ヨーロッパの高級な椅子って
後ろがキレイにできているから
日本のお家に入れると
壁にぴったりくっつけちゃって
すっごくもったいない!
だから、ああ、これに座りたいな、って思う人は、
やっぱり伊勢丹が建て替えになって
上に分譲マンションができたら、
まっさきに買うと思う!

── そういう目で見てみると、
家電コーナーも、なんだかふしぎですよ。
だって、ほら、冷蔵庫系がないですよ。

伊勢丹の人 いえ、取り扱いがないわけではございません。
ぜひお声掛けください。

ジョージ なのに、ワインセラーはあるのよ?

── あこがれます!
でも、ワインセラーを置くような家には
住んでおりません‥‥。

ジョージ だったら、本館地下のワイン売り場が
自分のセラーだと思えばいいじゃない?

── ひゃあ!

ジョージ だいたいね、ボクもセラー持ってたけど、
めんどうなものよー?
湿度管理をずーっとしてないといけないの。
長期出張する時はだいたいどのくらいの湿度に
なってるだろうっていうのを考えて
プログラムしなおさないといけないんだもん。
ほんと、めんどくさぁい。

── やはり趣味の世界のものなんですね。

ジョージ そうよ。ほら、オーディオだって、
いきなり、
バング&オルフセン(Bang & Olufsen)



── 宇宙ステーションみたいな、
円すい系のスピーカーですね。

ジョージ この子、すごいのよ!
丸の内のフォーシーズンズホテル
メインダイニングに
この子たちがいるんだけど、
100席くらいのホールに
この2つのスピーカーだけで、
全部音が行き渡るようになっているの!

スイッチひとつでアンテナがあがって
その場所の空間を把握するの。
それにあわせて、アンプ部分がプログラムをして
どういう音をどの音に出せば
すみずみまで届くかというのを計算してくれる。
近くで聞いててもうるさくないし、
遠くでもちゃんと聞こえるの!

── ものすごく詳しいですね。

ジョージ この値段でこの大きさでしょ?
ウーハーがないほうは
半分の値段なんだけどね。
ほっしーい! これ、ほっしーい!
これが全てのコントローラー。
あのケーブルでつなぐと
テレビも全て連動するんだよ。
すっごいでしょ!
ほっしーいっ!

── これがまさに
「預かっていてもらっている商品」。
このテレビも、すごいですね。
テレビって価格破壊と言われているじゃないですか。
そんななか、200万円。
バング&オルフセンであることが
とても大事なんでしょうね‥‥。

ジョージ やだ、テレビ「売約済」ですって!
仕方がないか。
ご売約済みで引き取ってない、っていうことは、
べつに今なくてもいい生活をしている人が
買ってるってことですものね。

ジョージ かと思えば、すぐそばに、
ペルシャ絨毯がある!
このフロア、おそろしいわ。
なんかひとつ買ってしまうと
そっから次々連鎖的に
買わなきゃいけなくなってしまいそう。
でもおそろしさと同時に
たのしさもあるのよねー。



── さて、4Fにおりてまいりました。
婦人服と、時計宝飾売り場です。



ジョージ 知ってる? 伊勢丹さん側は
「売り場」って言わないんですって。

── は。

ジョージ お客様にとって、そこは「買う」場所でしょう?
なのに「売り場」は「売る」場所であるという意味。
それじゃあお客様の立場になっていない、
ということで
スタッフは「お買い場」って言うんですって!

── その姿勢、すごいですね。
表立って耳にしたことがないので、
きっと符牒のようなものなんですね。

ジョージ ということで、時計宝飾のお買い場よーっ!
‥‥ね、いまや、景気って良いんじゃないのって
思っちゃうわよね。

伊勢丹の人 はい、平日のこの時間(午前中)に、
こんなにお客様が‥‥。



ジョージ しかも、空気が軽い、明るい、ふわふわしてる。
きっと、中途半端なものを買うよりも
価値のあるものを買いましょうという人が
多いんだと思うわ。

── 販売員の数も、すごいですよ。

ジョージ 見て! 見ちゃダメ!

── どっちですか。

ジョージ まじまじ見たら失礼だから、
なにげなーく横目でね。



── もう通り過ぎちゃいましたよ。

ジョージ おじさまがパネライ(Officine Panerai)
お買い求めだったの!
まさにクレジットカードに
サインをしているところだったわ。
あのおじさんの満面の笑顔!
「てへ、買っちゃった!」みたいな、
あれはすごいステキだった!
ジャケットはもしかしたら
キートン(Kiton)かもしんない。

なんだか素敵ね、ここ。
みんなが、じぶんのお金をよろこんで使うための
言いわけをさがしに来てるみたいな感じがする。
だから気分はわるくないのよね。

ただやっぱりね、伊勢丹に来ると
ひとつじゃすまなくなるのよ。
パネライの腕時計買ったおじさん、
あのまんまの勢いでメンズ館行って
服買うと思うわよ?
ていうか、逆にそのぐらいしないとね。
そもそもパネライをなんで
伊勢丹で買ったんだろう?
お安い店が新宿にもあるのにね。

── 伊勢丹で買いたかったんですよ、きっと。

ジョージ そう、買いたかったのよね!

── 「格安店で買ったパネライ」って、
思い続けて一生というのは
なんだかイヤなんだと想像します。

ジョージ そうよね!
値段には代え難い、なにかの充足感、
買えたんだ、これを買ったんだ、という
満足を味わうために、伊勢丹は存在していて、
その消費はまだだいじょうぶだってこと。
値段のことを考えると買えないものが多いけど。

── じゃあなんで伊勢丹なんだろうというと、
たとえば高級デパートなら和光さんもあるわけで‥‥

ジョージ あ、和光さんで時計買うと
すぐくれないんだもん。

── すぐくれない?

ジョージ だいたい和光さんで
「これください」って
包んでもらうのって
150万以上の時計なんだよ。
もう一回再調整が必要なのね。
「これください」って言うでしょ、
するとね、
「数日お時間を頂戴しますので
 1週間後に取りに来ていただけますか。
 もしなんでしたらばお届けに参ります」
だもん!

── 「今ほちいのにぃ!」と
言ってもダメなんですね。

ジョージ 「今ほちいのにぃ!」はダメ!
そんな子には、売ってくれません!

── ということは伊勢丹は
「今ほちい!」がOKなんですね。
あと「安く手に入れたいけど、
格安店で買ったという想い出は要らない」
という人は、海外旅行での免税店でしょうか。

ジョージ 海外旅行に来てしまった、っていう異常事態。
その中において、免税であるという安さの理由。
税金がかかってない、という落としどころ。
ロレックスはたいていそうよ。
ピカピカのロレックスしてるオヤジが
「この前ハワイで買ったんだよ」って言うの。

── そう! 場所を言いますよね。

ジョージ 「安かったんだぞ」って。
免税で安かったのは良いのね。
なんでかっていうと
ハワイまで行ってるから。

── そういう言いわけはオッケーで、
そういう時代が
いまも長く続いてるんだと思いますよね。
そういう中に伊勢丹が
ぽんっとあるんですね。

 















■ 有名な椅子
作品と呼ばれるモノって、大体において心地よくはないものなのね。洋服、建物、インテリア。使い手や住み手にかなりの覚悟がないと、デザイナーの主張を受け止めることができなくなっちゃう。けれど「有名な椅子」。なぜそれが有名かっていうと、心地よき作品であるから。美術館にさえ収蔵される芸術作品でありながら、「買って」「使って」、快適さえも手にできるのね。


















































■ バング&オルフセン
音が鳴っていないときですらうつくしい、この世界に唯一無二のオーディオを作ってる会社ネ。プレーヤーにしてもスピーカーにしても存在感がある。でも邪魔じゃない。邪魔なじゃないどころか、その存在をいつも感じたくてしょうがなくなる。しかも、そのうつくしい機械から流れて出てくる音がこの上もなくうつくしい。買わない理由はそれほどないけど、買えない理由は沢山あって、バング&オルフセンを平気で買える人になりたいって思う人生は、
バング&オルフセンと同じようにうつくしいと思うわけ。




■ 丸の内フォーシーズンズホテル
それまでの高級ホテルの常識をことごとく覆した、ボクが東京で最も愛するホテルのひとつ。超高層ビルの上じゃなくて下のフロア。見応えのある眺望が窓の外にあるのでなくて、部屋の中に存在してる。引きしまったインテリア。そこに佇む人をうつくしくみせるしつらえ、機能美あふれる快適さ。滞在中、一度も窓のドレープを開けることなくプライベートな時間をたのしむ‥‥、つまり都会のど真ん中にあるリゾートホテル。シルクのパジャマと一緒にいきたい‥‥、ダーリンと。

















































































































































■ パネライ
イタリア海軍のためのダイバーズウッチ‥‥、だったのよね、コレ。だからゴッツイ。分厚く、コロンと愛嬌のある形をしてて、メカ好き男子の物欲くすぐる。でもネ。実際、腕にはめるとこれが予想以上に大きくて、まず体を鍛えてからじゃないと買っちゃダメだなぁ‥‥、って思うのよね。そうそう、だって、トランスポーターでジェイソン・ステイサムの手首にあった。よく似合ってたぁ‥‥。
つまりそういうコトなのね。

■ キートン
フワッとしてるの‥‥、とてもやわらか。上等な生地をカチッとしたてて、大人の財布でないと買えないジャケットなのに、威張ってないのね‥‥。着る人の体をやさしく包んでくれる。ナポリのおしゃれなおじさまがするみたいに袖を通さず肩の上にフワッと置いて羽織るのに、一番、似合ったような気がする。そんな姿がフーテンの寅さんみたいに見えない自信が、今のボクにはまだないから、買わずにいるわ‥‥、まだ修行中。






















■ 和光
ニューヨークの五番街にはティファニーがあり、東京の銀座4丁目には和光がある。ただそれだけで、東京に住んでるコトがシアワセに思える店よね。時計があって、カバンがあって、食器があって、洋服もある。どの商品にも、どのフロアーにも御用達感が横溢してて、だってココ。ハウスカードがダイナースクラブなんですモノ。アメリカン・エキスプレスじゃなくて、ダイナースクラブっていうところが銀座の和光‥‥、っていう感じ。


























■ ロレックス
すべての持ち物に換金性の高さを要求する、香港の人が大好きな時計。以上‥‥、おしまい!

















高いものいっぱい見ちゃいました。
うらやましい、というより、
おもしろーい。
次は婦人服を見に行きますよー!
2012-07-04-WED