時間と空間と中枢神経の映画。
鈴木敏夫さんと

無邪気に語る。
映画の基本とは、観客の中枢神経を狂わせること?
日本人の特質は、時間と空間を歪めることにある?
押井守監督の新作『イノセンス』を、深夜に語っていたら、
会話は、黒澤明さんや宮崎駿さんの手法にまで及んだんだ。

3月6日公開の『イノセンス』のプロデューサーでもあり、
宮崎駿作品『ハウルの動く城』も製作中の、鈴木敏夫さん。
いつもながらの、脱線気味な雑談を、おたのしみください。
「六本木ヒルズ・朝まで文化祭」の対談を、まとめました。

第8回 時代の北極星

糸井 いま鈴木さんと話していた
『ハウル』のコピーのむずかしさって、
たぶん、北極星が見えないこと、なんですよね。

時代の北極星、というか。

「北極星」って、明るさとしては
あんまり明るくない星なんですけど、
あれが見えてることで、
自分がどっちに行くかっていうのがある。
そういうような指標。


時代を示す「北極星」の位置っていうのは、
もちろん、映画とは関係ないんですよ?
 
鈴木 はい。
 
糸井 今の時代を示している、
その「北極星」が見えていれば、
『ハウル』という映画が、
どこにどう流れていくかが見えるんですけど、
今回いちばん困ってるのは、映画のこと以上に
その「北極星」が見えないということなんです。


ぼく自身にしても、
「北極星は見ないで走る」
っていう立場で、今、生きてるんですね。
 
鈴木 あ、そうなんですか?
 
糸井 はい。
北極星とは関係なく、
「オレは生きる」なんです。

ただ、自分はそうなんですけど、映画は違う。
時代を示す、その「北極星」との関係で、
見える角度がある
んだと思うんですよ。
角度なり、長さなり、重さなり……。
 
鈴木 はい。
 
糸井 時代の「北極星」がどこにあるのかについてが、
「生きろ」のときの苦しさとぜんぜん違っていて。
簡単に希望を語るのも、
不潔な感じがするんです。


もちろん、絶望をかきたてるために
作ってる映画なんか、ひとつもないわけでしょう。
その意味では、宮崎さんも、
ものすごく楽観主義で暗い人ですから。
 
鈴木 そうですねぇ。
 
糸井 そこの「北極星」の加減のところで、
軸が見えないんですよね。

海外で評価を受けちゃってからは、
より普遍化して見ているから、どうも、
「外人は何でも説明しようとする」
という病気に、ぼくも
今は、かかってるのかもしれない、と。
鈴木 まぁ確かに、宮さん(宮崎駿さん)の映画では、
絵コンテは映画を作りながらできていくものだし、
何しろ時代の影響を非常に受ける人なんで、
とにかく、長丁場なんですけどね。

今回も、映画作りはじめたときに、
ちょうどイラク戦争が勃発したりしまして。
今回は、原作を扱ってる作品で、
この原作の中でも戦争を扱ってたことがあって、
そこらへんも描きはじめたんです。


そうすると、主人公っていうのが、
戦争に対して、どうしていくのか。


これがまあ、今回のひとつの
ポイントにはなってるんですけどね。

で、まあ、これは、映画を理解するために
役に立つかどうかはわからないんですけど、
宮さんとしては、堀田善衛っていう人の本を、
このあいだ、読みまくっていました。

それで、戦争っていうものに対して、
自分がどういう態度をとるかを探している。

平安時代の終わりには、
平家と源氏が戦っていますよね。
藤原定家っていう、新古今集を編纂した人は
そのときに、日記を書き残していたんですよ。

「世上乱逆」
世の中がすごい乱れとる、と。

「追討耳ニ満ツト雖モ」。
要するに、むちゃくちゃになっちゃってる、と。

「之ヲ注セズ」。
それを俺は注目はしない、と。

その次に、
「紅旗征戎、吾事ニ非ラズ」ってあるんです。

これは何かな?と思ったら、
「紅旗」っていうのは、
朝廷が戦うときに立てる旗だったんですよね。
そういうことは、知ったことじゃないんだと。

堀田善衛は、かつて戦争中に
藤原定家のその言葉を見つけて、
自分の支えにしたわけなんですけどね。

まあ、宮さんなんかもその言葉が大好きで、
どうもこのあたりに、
大きな影響を受けてるんですよねぇ。
 
糸井 なるほどなぁ。
……なんか、公開打ち合わせになっていますが(笑)。
 
鈴木 じゃ、糸井さん、よろしくお願いします!(笑)
 
糸井 (笑)……はい。
 
  (ふたりの対談は、ここでおわりです。
 読んでくださり、ありがとうございました!)


『イノセンス』についてはこちら。

これまでの「時間と空間と中枢神経の映画。」
2004-02-27 第1回 六本木で、こんばんは
2004-02-29 第2回 この一族のやりクチは
2004-03-01 第3回 神経中枢を狂わせるのが、映画
2004-03-02 第4回 「また、観なきゃ」って思う
2004-03-03 第5回 映画監督の動機
2004-03-04 第6回 セル画で作るアニメーションの頂点
2004-03-05 第7回 いちばん気になること

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2004-03-06-SAT

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