「ほぼ日」中年陸上部 マイナスからのランニング。
23来年もヨーロッパに行くざんすよ!
ハードなトレーニングで追い込み、
ロッテルダム・マラソン
自己ベストを狙った西本であったが、
ランナー貧血のため自己ベストはならず。
本人いわく、「ロッテルダム特有の
アツイ応援がなければ完走もできなかった」という。
ロッテルダム・マラソンが高記録が出るのは
平坦なコースレイアウトだけでなく、
この応援も大きな要因というが。
シェフ これまで何度もフルマラソンを完走している
にしもっちゃんなんだから、
「応援に助けられた」というのは
おおげさなんじゃない?
西本 走りだしちゃえばテンションがあがって
スピードが出るので、「なんとかなるだろう」
と、思っていたんですが、
時計をみると最初の1kmが、
体感スピードより15秒も遅れてたんです。
体感スピードとズレがここまで開いているということは
身体がコントロールできていない、
ということですからね。
何度も走っているからこそ、
「こりゃ、かなり厳しいレースになるぞ」
ってことはわかるんです。
べっかむ3 体感スピードで何分くらいとか、
そんなのわかるもんなの?
西本 ええ。景色の流れる感じとか、
身体の余裕度とかで、
だいたい身体が覚えているんです。
シェフ おれも指でつまんだ感じで
塩加減がわかるぞ。味見しないぞ。
西本 ある意味近いです。
そしたら、3時間15分のペースメーカーが
目の前にいたので、
「これは自己ベスト更新は諦めて
 きっちり3時間15分を切ろう。
 背の高いオランダ人を風よけにして
 30kmまで体力を温存しよう」と。
シェフ あの人達はとにかくでかいしね。
なぜ移民当初は小さかったオランダ人が
あそこまででかくなったかというとね。
西本 怪しい都市伝説はけっこうです。
でもたしかにでかいですよね。
男性用トイレも
つま先立ちじゃないと届かないですからね。
シェフ そうそう、空港のトイレで驚愕した。
バレリーナのようにつま先立ちで用をたしたよ。
そして個室は、便座の位置がやったら高くて、
ぴょんと乗ると、足がぶらぶらしちゃうんだよ。
べっかむ3 童心に帰るね!
で、風よけ作戦は成功したの?
西本 それがうまくいかなかったんですよ。
身体が重いとはいえ、
それまで順調に練習も積んできてたので、
足取りもフォームもしっかりしてるから、
傍目には安定したペースに見えるです。
屈強なオランダ人たちに
「おっ。この日本人、安定してるな」
と、ターゲットにされてしまいまして、
集団の前にはじき出されて
屈強なオランダ人を引っ張って走っていくことに(笑)!
シェフ ほんとだ。にしもっちゃんも
日本人としては、小柄ってわけじゃないのに、
この写真だとコドモのようだ‥‥。
西本 ぼくに合ったフルマラソンの走り方は
30キロ過ぎまでは余裕をもって、
そこからペースをあげていくという
「ビルドアップ型」なんですけど、
25kmを過ぎたところで、
本来は余裕をもって走れる3時間15分ペースも
いっぱいいっぱいになってきたんです。
3時間15分ペースの集団にいて
お祭り騒ぎのような
大声援を受けながら走っていたんですが、
とうとう、そのペースも維持できなくなって
集団から離れるんです。
べっかむ3 うわ、きつそうだね。
西本 ええ。ずるずるとペースが落ちていくばかりですし、
「サブ4、いや、完走もムズカシイかも」
と思ったとき、沿道から
「Takeshi!」
と声がかかったんですよ。
シェフ こらたけし! なんばしょうとかいねこの子は!
‥‥九州のおかあさん来てたの?
西本 違いますよ。
ロッテルダム・マラソンのゼッケンには
それぞれの選手のファーストネームが
印字されているんです。
だから沿道の人たちが名前で
応援してくれるんですよ。
ほら。
シェフ おおっ。
『風が強く吹いている』の寛政大学ユニフォームだ。
作者の三浦しをん先生も密かに応援してくれている。
西本 さらに今回はゼッケンに
「国旗」のシールを貼り付けました。
で、声援をよく聞くと
「Allez! Takeshi!」「Vamos! Takeshi!」とか。
オランダ語だけでなく、
いろんな国の言葉が飛んでくる。

(沿道との距離も近いんです。)
べっかむ3 へえ。ぼくらの感覚だと同胞を応援する
っていうのは理解できるんだけど、
地元のオランダ人だけでなく、
フランス人やポルトガル人が
にしもっちゃんを応援するんだ。
西本 レース前に事務局長のマリオさんに
「ロッテルダム・マラソンとはどういうレースですか?」
って質問をしたら、
「A race without race.」
マラソンのraceと人種のraceをかけた言葉で表現されてて
そのときは「うまいこというな!」くらいにしか
思ってなかったんですが、
ああ、マリオさんが言ってたのは
これのことだったのか! と。
おおげさな言い方ですが
「俺の(わたしの)声援で
 ランナーを走らせるんだ!」
という空気があるんですよ。
異国の地でうれしいじゃないですか。
「おおっ!ありがとう!」と手を振ったら
「Takeshi! GO! GO! GO!」
と周囲から、また声援が飛ぶんですね。
そんなことが続いているうちに
ふと、身体が楽になっていることに気づいたんです。
どうやら、人間、身体のちからが抜けると、
楽に走れるみたいなんですよ。
これは大発見でした。
「身体はきつくて悲鳴をあげているけど、
 笑顔をたもって走れば、なんとか完走できるかも。
 こりゃ、積極的に声援をもらおう」と。
そこで笑顔をキープするために
沿道に向かって「もっと声援をくれ!」と
アピールしながら走りつづけたんです。

(声援をくださいとアピール。)
シェフ 笑うと楽になるっていうのはいいね。
笑顔はアンチエイジングにもいいというしね。
西本 どんなにきつくても
笑顔にするだけで、楽に走れるんです。
名づけて笑顔走法。
そこでわかったんです。
ロッテルダム・マラソンで好記録が出るのは
コースが平坦だからだけではなくて
一番きついレース終盤に
素晴らしい応援に背を押され
笑顔で走れるからだということに。
べっかむ ホントだ。写真を見ると、
他のランナーも笑ってるよね。

(たしかに笑ってる‥‥。 )
西本 観客をずっと煽りつづけながら走っていたんで
ぼくの周囲だけが
やけに盛り上がっているですよ(笑)。
ゴール前は長い直線になっているんですが
観客を煽り続けているぼくを
コースDJがみつけてくれて
「Takeshi Nishimoto ホニャララ〜ホニャララ〜」
って、何を言ってるかはわからないんですが、
ぼくの名前を読み上げてくれて
大歓声が沸き起こりました。
最後は村上春樹さんの教えどおり、
全力ダッシュでゴールいたしました。
べっかむ3 最後は笑顔じゃないじゃん!
西本 ええ。もう体力を使い果たしましたからね。
アパートに戻ってからも、
1時間くらい動けませんでしたよ。
シェフ なるほどねえ。
記録更新はならなかったけど、
ロッテルダム・マラソンだけでなく、
ロッテルダムそのものを楽しめたんだね。
西本 ところが、これで終わりじゃないんです。
アパートでぶっ倒れていたら、
スタート前に歌っていた
「You’ll never walk alone」が
また大音量で流れ始めて
なんだか外がもりあがっているようなので
バルコニーに出て、コースをみたら、
白バイ20台を引き連れた最終ランナーのゴール。
それがこれですよ。

(2時間39分くらいまで早送りしてごらんください。
ちなみに17分45秒あたりで、ゴール後のぼくもでてました。 )
べっかむ3 うわー。最終ランナーが!
西本 そして、トップでゴールした選手が
ゴール地点で最終ランナーを待ち構えていて、
メダルをかけるところで、
ロッテルダム・マラソンは終了です。
   
海外マラソンいいじゃん! 来年はどうする?
西本 どうです? 素晴らしい大会でしょう?
シェフ 感動したっ!
べっかむ3 いいじゃん。いいじゃん。
来年、ぼくらもロッテルダム・マラソンを走るってのはどう?
にしもっちゃんは記録更新を目指して
ぼくと武井さんは最終ランナー狙いで。
西本 それは狙うもんじゃありません。
シェフ ぼくはみんなのごはんを作るよ。
べっかむ3 いまからなら、全然、練習もできるし、
スケジュールも調整できるよねえ。
西本 べっかむ3、いつになく前向きですね。
走った直後はぼくも
「来年はロッテルダムで記録更新でリベンジだ!」
と、思っていたんですが
その思いを胸に、ぼく、パリ経由で帰国したんですよ。
シェフ そうだったよね。
セーヌ川沿いをジョギングしたりしたんでしょ。
写真見せてもらったけど、
楽しそうだったじゃない。

(ランナーなら一度は走ってみたい、
 世界屈指のジョギングコース セーヌ川)
西本 ええ。パリはジョギングするのに
最高の街でしたよ。
そして、つい最近、来年のパリマラソン
エントリーが始まりましてね。
これが世界中からエントリーが殺到する人気大会で、
当然、抽選なんですけど、
「ま、走れたらいいや」
くらいの軽い気持ちで申し込んでいたら
なんと‥‥。
べっかむ3 えっ。まさか。
西本 ええ。そのまさかです。
東京マラソンでさえ、
応募し続けても当たったことのないぼくが、
なんと、パリマラソン。当選しました!
シェフ じゃあ、ロッテルダムもパリも両方?
西本 いや、これがまたロッテルダムもパリも、
4月12日、同日開催ということが
後からわかりまして。
こんだけ応援してもらって
大感動させていただいた、
ロッテルダムのみなさんには申し訳ないんですが、
当選したパリを走ろうかと。
だってコースが。
シェフ 凱旋門からシャンゼリゼを抜けて
リヴォリ通りをバスチーユ方向へ。
ヴァンセンヌの森をぐるっとまわって
バスチーユにもどったら、セーヌ右岸を西へ。
エッフェル塔を左に見ながら、
ブローニュの森を抜けて、凱旋門でゴール!

(たぶん、このあたりもコース)
べっかむ3 世界で一番美しいと言われている
パリマラソンのコース。
西本 人生で一度は走ってみたいじゃないですか!
べっかむ3 と、なると、この中年陸上部の
今後の方針もRoad To Parisということに。
西本 ええ。来年の東京マラソンに
仮にあたったとしても、
ぼくにとっては、パリへの調整レース扱いです。
べっかむ3 ナマイキー。
シェフ パリでごはん作るのはまかせておいてくれ!
いまからメニューを考えるよ。
西本 武井さん、たとえレースに出なくても
パリを走るのは最高ですよ。
旅とランニング。
もう少しつづけてみましょう。

(つづきます)
2014-06-09-MON
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