あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第35回 大森美香さんの本棚。
   
  テーマ 「心が自由になれる5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
小説も好きなんですけど、読み始めると物語にとらわれて
つらくなってしまうことがあるんです。
没頭して、登場人物の気持ちになりすぎたりして。
今回は、そうはならずに解放してくれる本を選びました。
ちょっと今は、
いろんな仕事が一気に終わって脱力しているところなので、
そういう本ばかりになったのかもしれません。
「人生何でもアリですよ」「もっと自由でいいよ」
そう語りかけてくれるような5冊を選びました。
   
 
 

『あたまわるいけど学校がすき
こどもの詩』
川崎洋(編集)

 

『ぼくには数字が風景に見える』
ダニエル・
タメット 

 

『快楽主義の
哲学』
澁澤龍彦

 

『やわらかな
遺伝子』
マット・リドレー

 

『ふしぎ!なぜ?大図鑑
いきもの編』

 
           
 
   
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これも『不機嫌なジーン』というドラマの
資料として買った本なんです。
動物行動学の研究者が主役で
テントウムシの研究をしているという設定だったんです。
私はぜんぜんそういうことに詳しくないので、
いちばんシンプルでわかりやすいものを探して
これを買ったんです。

資料として買ったんですが、
その後も愛読書になっちゃって(笑)。
気がつくと読んでるんですよ。
写真だけを「見る」のではなくて、読むんです。
解説をみっちりと読むのがたのしくて。

とくに好きなのは昆虫のページですね。
まずテントウムシには
すごく詳しくなったと思います(笑)。
あとはカマキリ。
かっこいいですよね、カマキリ。
すごいウエストがくびれててね、足が長くて。
チョウチョのページもいいですねー。



次に好きなのは恐竜のページかな。
そこもすごく読みました。
逆にあんまり読まないのが魚のページ。
将来、釣りが好きになったときのために
とっておこうとか思ってます(笑)。

もう、そんな感じでかなり自由に読めるのが
なんといってもいいんですよ。
「へえー、ビーバーって
 こうやってダムつくるのかあ、無茶するな」
とか言いながら(笑)。

世の中にはいろんな難しい図鑑があると思うんですが、
私はこれで十分。
なんといっても「いきもの編」ですからね、
いきもののことがぜんぶ入っていますから。
どこから読んでもいいし、
同じところを何度も読みたくなるんです。



実は、子どものころは嫌いだったんですよ、図鑑が。
なぜなら、怖いから。
虫とかほんとうに見られなくて。
水の生き物でもぐにゃぐにゃしてるのは
まったく見られなくて、
私にとってはただの「怖い本」だったんです。
それが今、大人になってこんなに楽しく読めるんだー
っていうのが、
実はいちばんうれしいですよね(笑)。

最後の最後にこんな、子どもの本ですみません。
でもほんとに、心が自由になれる本なので。
図鑑が苦手だと思っている方に、
子ども向けの図鑑、オススメです。

   
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これはね、ちょっと難しい本です。
難しいんですけれど、難しいところを
すっ飛ばしながら読むと、かなりおもしろい(笑)。



『不機嫌なジーン』という連ドラを書いたときに、
資料として買った本の一冊です。
遺伝子についてあまり知らなかったので、
いろいろ読んで参考になった本はいくつかあるんですけど、
これはとくに興味深かったんです。

私は「なんでこんなことで?」と自分でも思うくらい
小さなことで悩んでしまうことがよくあるんですね。
仕事がひとつ終わったあとなんかは強烈に(笑)。
「自分のこの性格は生まれつきなのか?
 それとも育ちとか環境のせいなのか?」
って思うこと、ありませんか?
私はそれをよく思い悩んでいたんですよ。
で、この本にその答えが書いてあったんです。
斜め読みなのでたいしたことは言えないんですが、
要は「どっちもあるんだよ」と。
「生まれか育ちか」の時代は終わった。
「生まれは育ちを通して」の時代が来たんだというのが、
この本が言っていることだと思います。

生まれたときには遺伝子的なスイッチがたくさんあって、
それが育ちを通してピコンとなったり
ならなかったりするわけなのである、と。
スイッチがオンになることもあれば
ならないこともあって、
その組み合わせはものすごい数になるんだそうです。
人格というのはそうやって変わっていくわけですね。
ひとりの人間にいろんな可能性があるのは、
そういう理屈だったのかあって、
なんだか読んでいてうれしくなりました。
「生まれか育ちか、それはどっちもあるんだよ」
と言ってもらって、だいぶラクになったんです。
啓発本みたいなものを読むよりは、
私はこういう本を読んだほうが
落ち着くとこが多いんですよねえ。



スイッチをオンにするかどうかっていうのは、
人生の選択みたいなものですよね。
「あのとき横断歩道を渡っちゃったけど、
 渡らなかったらどうなったんだろう‥‥」
というようなドラマみたいなことを
遺伝子論を唱る人が説明しているおもしろさが
この本にはあるんです。
すごいユーモアがあるんですよ。
まあ、遺伝子の本ですから、
ユーモアがない部分ももちろんありますが。
そういうページはパーッと読み飛ばして(笑)、
おもしろく理解できるところだけ、しっかり読む。
分厚くて難しい本でも、
自分に強く訴えてくる一行があれば、
それだけで十分だと、私は思っています。

   
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今日お持ちした中で、これがいちばん古い本です。
もうボロボロ、ほんとうにボロボロですね。
20代の半ばに友だちからもらったんですよ。
あの、20代の半ばって、
生きるのがつらいじゃないですか(笑)。
このまま自分はどうなっちゃうんだろう?
って思ってたんですけれど、
それがこの本を読んで
「自由に生きていいんだ」
とすごく楽になれて、とても感謝してる本なんです。

自由に生きるっていうのはつまり、
このタイトル通りのことです。
快楽主義。
だから、もう、深く考えるなと。
「人生には目的なんかない」のだと。
「食って、寝て、性交して、
 寿命がくれば死ぬだけの話です」と。



これ、今読んでも新しいんです。
たとえば‥‥。
「現代青年はドライだとか割り切っているとか、
 よくいわれます。はたして、そうだろうか。
 自分の感情や欲望を殺してまで、
 上役に対する受けや出世コースをだいじにしていて、
 そんな生き方でいいのか」と。
「これは合理主義とかドライとかいうのではなくて、
 むしろ自分の都合のよいように、
 自分自身の欲望をごまかしているだけじゃないか」
ということを1965年に言っているんです。
これ、そのまま今にも言えることですよね?
自分の欲望をごまかすな、
人生はこれきりなんだ、
好きに生きろという話ですから。

私は名古屋テレビ放送の東京支社で
事務の仕事をやらせてもらっていました。
その後ADをやっている時期があって、
この本は、その頃にもらったんです。
どうやったら自分が作りたい作品を作れるんだろう。
このままいったら私は、
きついADの仕事で体を壊して辞めることになるだろう。
親は親で帰ってこいって言うし‥‥。
みたいな時期だったんですね。
「あっちの方に行ったらどうやら幸せになれそう」
というのは何となくわかっていました。
でも、果たしてその波に乗ってしまっていいものか?
悩んでいた時期でした。
ですから、当時この本を読んだときには、
「深く考えすぎだ」と言われたような気がして。
「波に乗ってしまっていいんだ」と思えたんです。
今でも大事に取ってある一冊です、
ボロボロになっても。

ときどき読み返すんですけど、
今読むと、若いなあって思います(笑)。
この考え方は、自分にはもう明らかに若い。
今はこんなふうに考える時ではないと。
でも、真剣にこう思えた時期があったのは、
よかったなって思いますね。



若い人に、オススメしたいです。
こういうことを言ってくれる大人が今いない気がするので。
啓発本とかスピリチュアル本もすごくたくさん出てますが、
これはちょっと、そういうのとは違うと思いますよ。
読みものとしてもおもしろいので、ぜひ。

   
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小説以外の本を買うきっかけは、
仕事の資料として手に取ることがけっこう多くて、
この本もそうでした。
『エジソンの母』というドラマを書いてた頃に。



子どもたちは普通、
いい成績を取るためにがんばっていますけど、
そうじゃない考え方もあるはずだっていう
頭の転換がしたかったんです。
この本にそのヒントがあるかもと思って読んでみたら‥‥
おもしろいですよー。
難しいところも、多少あるんですけど。

サヴァン症候群というのかな、
その方の話なんですけれど、
数字が色とか形で見えるんですよね。
すごく難しい掛け算の場合、
「こういう形とこういう形の掛け算だから、
 こういう形になる」
というふうに数字が形でわかるという。
たとえば6は小さな黒いかたまりで、
1はブルーとか。
そういう感覚が子供の頃から自然にあるんです。
そんな方がいることさえ、私は知りませんでした。
映画『レインマン』で、ダスティン・ホフマンが
演じた役といえばおわかりになると思いますが、
計算とか、ある方面については天才的な才能があるのに、
その反面、集中力や落ち着きがなかったり‥‥。
この本に登場する人はたとえば、
外国語をすぐ覚えられるんですよ。
たしか10何カ国語ぐらいしゃべれるんです。
「数字が風景に見える」っていうのも、
ロマンチックですてきだなと思いました。
こんなに違う考え方をしてもいいんだ、と。



この本はその方の、
伝記というか、自叙伝ですね。
人生の話です。
思春期になって恋をして悩んだこととか、
友だちがなかなかできなかったこととか、
男の人が好きなんだけど
それをなかなか認められないこととか‥‥。
いろいろと一般的ではないことが起きるんだけど、
両親が「それでいいんだよ」と言ってくれたので
僕はここまで来ている、そういうお話なんです。

当時書いていた脚本にも、多少は反映していると思います。
『エジソンの母』の頃は、
本を読んでいる時間なんかないはずなのに
一気に最後まで読んでしまいましたから。
新しい世界を見たという気持ちになって、
はしゃぐように読んだのを覚えています。
いろんな人間がいて、
いろんな可能性があるんだ、
それはすばらしいことだなあ、と。

私は凡人として生きていますし子どもがいないので、
本当のところはわかってないのかもしれません。
でも、
「何かの才能を持っていても、
 どんな人に出会うかで
 その人の人生はぜんぜん違うものになる」
ということは間違いないんじゃないかと思いました。
この本の方の場合は、やっぱり両親なんです。
当然、苦労もあるんだけど、
「それでいいんだよ」と言える両親。
すばらしいと思いました。

   
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読売新聞に川崎洋さんの
「こどもの詩」という欄がありまして、
それを読むのをいつも楽しみにしていたんです。
これは、それをまとめた一冊ですね。
コーナーに寄せられる
子どもたちの詩もすばらしいんですけど、
川崎さんの一言コメントが
いつもすごく温かくてすてきでした。
5年ほど前に川崎さんはお亡くなりになってしまって‥‥
このコメントが読めないのはほんとに残念です。



これを買ったのはたしか、
『風のハルカ』という朝ドラを書く前か、
ちょうど書いてるくらいの時期でした。
主人公の子供時代からの変遷を書いていくときに、
ちょっと参考にしたのを覚えています。

この本は泣きながら読むことになるんですよ、必ず(笑)。
とくに最初のほうに載っている
母親をテーマにした詩なんかは、もう‥‥。
やっぱり無償の愛が入ってるんですよね。
すごい純粋で。
実は昨日、この取材にお持ちすると思って読み直してたら、やっぱり‥‥(笑)。
お恥ずかしい話なんですけど、
泣いちゃうんですよね、大好きな一冊です。
結局、昨日も頭から終わりまで読んでしまいました。
これとかね、

ねえ おかあさん  せかいでいちばんだれがすき?  “みんな”はダメだよ  ひとりだけ  ちいさいじゅんにゆってね

あとはこれとか、すごいかわいいんですよ。
読みますね。

 くつってはんたいはくと
 けんかしてて
 ちゃんとはくと
 デートしてるんだよ

‥‥ああ、なるほどなあって。
自分もちっちゃいころっていろいろ考えてたんですよね。
「私もこういうこと考えた時があった」
って思い出すのが楽しくて。
今はやっぱり大人の事情とか忙しさで
いろいろがんじがらめになっているけれど、
自由に考えてた時がちゃんとあったんだよねなあ、と。
子ども時代って、不自由なんですけどね。
親の庇護で生きているからすごく不自由なんだけど、
でもやっぱり、何も知らない分、
発想はものすごく自由で豊かだったなって思います。
ほかにもオススメの詩はたくさんあるんですけど、
きりがないのでご自分でぜひ読んでみてください。
疲れているときには、とてもいいと思います。

 
大森美香さんの近況

『カバチタレ!』(2001年、フジテレビ)
『不機嫌なジーン』(2005年、フジテレビ)、
『風のハルカ』(NHK連続テレビ小説2005年)、
『エジソンの母』(2008年、TBS)、
『ブザー・ビート
 ~崖っぷちのヒーロー~』(2009年、フジテレビ)、
映画『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)、
映画『ヘブンズ・ドア』(2008年)、
映画『カイジ』(2009年)などなど、
数々の脚本を手がけてきた大森美香さん。

そんな大森美香さんが脚本と監督も手がけた映画、
『プール』が9月から絶賛公開中です。




『かもめ食堂』と『めがね』のチームによる新作!
と聞いて、われわれほぼ日乗組員も当然ながら、
けっこうな人数が映画館に足を運びました。
フードスタイリストは飯島奈美さんですから、
それはそれはもう、
おいしそうな料理が次から次に登場して、
そのたびにお腹がグウグウ鳴ってたいへんでした。
‥‥と、われわれの感想はともかく、
すでに観られた方もたくさんいらっしゃると思いますが、
あらためてこの映画のお話を監督にうかがいましょう。
まずは『プール』の見どころから。



「 "人と人がいつも一緒にいることだけが
  幸せかどうかなんてわからない"
 という小林聡美さんのセリフが
 映画の中にあるんですけれども、
 この映画自体が、人と人とのつながりって
 どうなんだろうということを
 すごくシンプルに静かに描いているなと
 脚本の段階から思っていました。
 抱き合ったり、好きだよって言うだけじゃなくて、
 例えばご飯を一緒に食べたり、
 ただ隣にいて本を読んでいたり、
 それだけでもやっぱり伝わるものはあるわけで。
 でも、そこをどうしても、
 今の私たちは疑いがちなんですね。
 電話やメールで連絡を取り合っているのに、
 すごく不安になってしまったりしますよね?
 もっとシンプルな世界に行けば、
 "離れていても相手のことを想っている"
 ということが素直に信じられるかもしれませんよ?
 ‥‥ということが伝わるといいなあと、
 この映画を作りながら思っていました。
 すごく緩やかな流れで進むこの映画の中で、
 観ている方がそういうことをどこまで
 拾ってくださるかはわからないですけれども、
 伝えたいのは、そういう部分ですね。
 ただ、感じ方は自由ですから。
 ご自分のご家族のことを思いながらでもいいし、
 "こういう料理をあの人と一緒に食べたい"
 と思っていただくだけでも楽しんでいただけるかと。
 あとはそう、この映画の登場人物たちと一緒に、
 本当にタイのチェンマイまで旅行に行っているような、
 そんな気持ちで観ていただけると
 うれしいなと思いながら作ってました」

どうしても飯島奈美さんの料理のことが
気になってしまうのですが、
いかがでしたか? 飯島さんの料理は。



「おいしかったですよー。
 本当においしかったです、幸せでした。
 劇中で出てくる料理は、みんなおいしい。
 撮影とは別で
 飯島さんがご飯を作ってくれる会というのがあって
 そのときに日本食も作ってくださったんですが、
 それもおいしかったです。
 ‥‥あ、そういえば私、
 ひとつだけ食べてない料理があるんですよ。
 お鍋があったでしょ? 加瀬亮さんが作る鍋料理。
 トマトと、すごい大きな鶏肉と、
 野菜がいろいろ入ってて、
 レモングラスが風味付けとして入っている‥‥。
 あれは食べられなかったんですよねえ。
 おいしそうでしたよねえ、残念です(笑)」

役者さんたちの静かな演技もすばらしかったです。
現場の雰囲気はいかがでしたか?



「伽奈さんが映画が初めてで、
 すごく緊張して現場に入られてたんですけれども、
 小林聡美さんやもたいまさこさんが
 一緒にご飯に連れていってあげたり、
 みんなでご飯食べたりして、
 だんだん馴染んでいったんです。
 その感じがそのまま映画に出ていると思います。
 小林さんともたいさんは連続ドラマのお仕事で
 何本かご一緒させてもらっているんですけど、
 やっぱり映画の現場で会うと、
 "あ、やっぱり映画女優さんだな"
 という雰囲気があってすてきでした。
 加瀬亮さんとは初めてのお仕事だったんですけど、
 一番ディスカッションしたのは加瀬さんですね。
 "こういうふうにしたい"というのがいろいろあって、
 現場全体を見てくれて。すごく楽しかったです。
 それと、ぜひお話ししておきたいのは、
 小林聡美さんのギターの弾き語りですね。
 いや、女優さんってすごいって思いました(笑)。
 劇中の曲をご自身で作詞作曲されて、
 弾き語りまでしてもらって。
 あれ、ワンカットで撮ったんです。
 "演技するよりもうずっと緊張する"って
 ご本人はおっしゃってました(笑)。
 その意味では、小林聡美さんの
 新しい表情もご覧いただけると思います」

大森監督、ありがとうございました。
小林聡美さんの弾き語りは、すばらしいですよー。
飯島さんの料理は、見ているだけでもおいしいです。
おなかを減らして映画館へどうぞ。
映画を見終わったらタイ料理店へ行くのがオススメです。
(われわれはそうしました)

上映スケジュールなど、
詳しくは『プール』の公式サイトで、ご確認を。

 
 

2009-10-24-SAT

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN