あのひとの本棚。
     
第9回 平岩紙さんの本棚。
   
  テーマ 「いのち、共存、思いやりの5冊」  
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ふだんからすごく本を読むタイプではないので、
5冊選ぶのはちょっとたいへんでした。
でも、ちいさいころから動物が好きだったなぁって‥‥
そういうふうに考えたら、すぐに浮かんできたんです。
いのち、共存、思いやり。
生きている者どうし、お互いを思いやって、
互いのことをちゃんと知りながら暮らしていけたら
どんなにいいだろう‥‥。
みんなに読んでほしい、知ってほしい5冊を紹介します。

   
 
          『ビッグイシュー日本版』  
           
 
 
 
 
『ビッグイシュー日本版』  ビッグイシュー日本/300円(税込)

これは、一冊の本というか、
ホームレスの人たちが販売する「雑誌」なんです。
本屋さんにも売っていなくて、
ホームレスの人からだけ、買うことができる雑誌です。

はじめて買ったのは1年くらい前のことでした。
自宅の最寄り駅の前で、雑誌を掲げて立ってるおじさんに、
「これなんですか?」と尋ねてみたんです。
そしたらおじさん、
「自分はこれを200円(現在は300円)で売っております」
「じゃあください」って、買って、読んでみたら、
売り上げの55%は販売者の収入になります、
というようなことが書かれてあったんです。
「へぇー、こういうのがあったんだ」と驚いて、
それから毎号買うようになしました。
ボランティアじゃなくて、お金をあげるんじゃなくて、
ホームレスの人に仕事を提供するっていうのが
いいなぁと思って。

雑誌の内容もおもしろいんですよ。
薄いんですけど、ぎっしり情報がつまってて。
有名人のインタビューとかもあるし。
わたしが好きなのは「人生相談」の記事なんですけど、
これ、ホームレスの人が一般の人の悩みにこたえるんです。
「息子が嘘をつくようになりました(34歳・主婦)」
「貧乏ゆすりがとまりません(42歳・サラリーマン)」
みたいな相談に、
「そんなん気にせんとったらええねん」ってこたえたり。
でっかい人だ!って読んでいて、
すごいあたたかくなるんです。

わたしがいつも買っているおじさんは、
自分で用意した透明のビニール袋に一冊ずつ入れて、
とてもきれいにして売ってくださるんです。
口下手なかたで、
「きょうは暑いですね」って話しかけても
「‥‥ああ、ですね」くらいしか言ってくれないんですけど
「ありがとうございます」というひと言には、
すごい伝わってくるものを感じます。
あのおじさん、
いつアパートを借りられるようになるのかな。
私みたいな人間が少しずつでも
応援できているかもしれないことが嬉しいです。
それまで応援したいなって思っています。

ほかの場所でも売っているかたをみかけて、
「ごめんなさい、もう買ってるんです」と、
素通りするのが心苦しいんですけど‥‥。
『ビッグイシュー』を売っている場所は、
ホームページに紹介されています。
みなさんも、ぜひ買って、読んでみてください。

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『ごんぎつね』 新美南吉 黒井健=絵 偕成社/1470円(税込)

新見南吉さんと黒井健さんの絵本を、もう一冊。
これもやはり、母に読み聞かせてもらった絵本です。
とても有名なお話ですよね。
読み聞かせをされているお母さんは、
一度は手にされた絵本だと思います。
わたしは家で読んでもらって、
図書館にいってもいつも読んで、
もう、何度も繰り返し読んできました。
同じ作者の絵本でも、『手ぶくろを買いに』とはちがって、
「そんなに都合よく人と動物は共存できない」ということを
思い知らされたような、これはそんなお話で‥‥。

罪滅ぼしをしようとしたきつねが、
いっしょうけんめい人間に食べものを運ぶんです。
でも、その思いはどうしても人間に伝わらなくて、
最後にきつねは鉄砲で撃たれてしまうんです。
あとになって人間は、すべてを知るんですが、
そのときでは、もう、遅くって‥‥。

母に読んでもらったときのことを覚えています。
わたしは二段ベッドの上にいて、
母が絵本を抱えてのぼってくるんですよ。
いつもはわたしが寝るまで読んでくれるんですけど、
これを読んでもらったときは、
わたし、ぜんぜん眠れなくなっちゃって。
「なんで? なんでこんなふうになっちゃうの?!」
鼻血を出すほど興奮して、イライラして、
その夜は、鼻にちりがみを詰めて眠りました。

どうしてなのか、動物が死んじゃう話っていうのは、
すごくこころに焼き付いてしまうんです。
これも、まだ読まれていないかたは、ぜひ。
童話ですけれど、
リアルな生活につながる何かを感じられると思います。

   
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『手ぶくろを買いに』 新美南吉 黒井健=絵 偕成社/1470円(税込)

これもちいさいころ、母に読んでもらった本です。
絵がすごくきれいで、この色とか、大好きでした。
最近、この絵を描かれた黒井さんの展示会にいって
原画をみてきたんですよ。
やわらかい絵で、動物たちの目が愛らしくて‥‥。
『手ぶくろを買いに』も、ずいぶん昔に読んだのに、
ぜんぶの絵をいまでもはっきりと覚えているんです。
それは、お話が印象的だったということもあると思います。

雪が降った寒い日、お母さんのきつねが、
子ぎつねに手ぶくろを買ってあげたいと思うんですね。
けど、お母さんきつねは人間が怖くて町に近づけない。
結局、子ぎつねがひとりで
手ぶくろを買いにいくことになるんです。
お母さんきつねは、
子ぎつねの片方の手を、魔法みたいなことで
人間の手に変えてあげて、言うんです。
「戸の隙間から、この手を出して手ぶくろを買いなさい」
なのに、町へいった子ぎつねは、
まちがえて、きつねの手を戸の隙間から出しちゃう。
ところが、人間のおじさんは、
気づかないふりをして、手ぶくろを売ってくれるんですよ。
よろこんで帰ろうとする子ぎつねの耳に、
人間の家のなかから親子の会話が聞こえてくるんです。
「今日は雪が降ってて寒いから今ごろ森の子ぎつねも
 お母さんと一緒にくっついて寝ているのかな」みたいな。
それを聞いてたら、子ぎつねもお母さんが恋しくなって
ピューっと森に帰っていって、そして、
「人間ってそんなに悪くないよ」って報告するんです。

‥‥読み終わって、
「ああ、よかったなぁ」って思ったきもち、
ずっと忘れずにいます。
人と動物の共存はむずかしいのかもしれないけれど、
この絵本のなかでは、それが起きている。
でも母ぎつねの
「ほんとに人間はいいものかしら‥‥」
という最後のひと言で現実に引き戻される。
夢物語だけでは終わらせず、読んだ後に考えさせられる
正しい絵本だと思います。
わたしにとっての「理想」がある、一冊です。

   
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『かわいそうなぞう』 土家由岐雄 武部本一郎=イラスト 金の星社/945円(税込)

かわいそうな‥‥
ほんとにかわいそうな、ぞうたちのお話。
有名な実話なので、知っているかたも多いと思います。
わたしは、幼稚園だったか小学校の低学年のころ、
母に読み聞かせてもらった絵本のうちの一冊です。
母が、「戦争はあかんで」って言いながら
読んでくれたのをよく覚えています。
読んでもらいながら、もう、ほんとに悲しくて‥‥。
人間ってなんて勝手なんだ。
地球に住んでるほかの動物たちと、
どうして思いやりをもっていっしょに暮らせないんだ。
勝手な戦争のせいで動物園の動物が殺されるなんて。
みんな『かわいいかわいい』言ってたくせに‥‥。
ちいさかったのでうまく考えが整理できないんですけど、
そんなことを感じていました。

この子たち、芸をするぞうなんですね。
芸をみせて子どもたちをよろこばせていたんです。
それが戦争になって、逃げ出したら危ないとかで、
殺されることになってしまう‥‥。
毒を入れたエサをあげても、ぞうは頭がいいから食べない。
仕方なく餓死させることになるんですけど、
おなかが減ったぞうたちは、
飼育係の人に芸をしてみせるんです、いっしょうけんめい。

‥‥この絵本に書かれていること、
みんなに知っていてほしいと思います。
ですからもし、このお話を知らないかたがいらしたら、
手に取って読んでみてください。
昔、わたしが読んでもらったときと同じ、
ちょっと古い絵のタッチのままで、
今も本屋さんにあると思います。

   
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『いのちの食べかた』 森達也 理論社/1050円(税込)

スーパーマーケットにいくと、
パックに入ったお肉が売られていますよね。
牧場にいけば、生きた牛をみることもできます。
でも、その「あいだ」のこと‥‥。
それについては、子どもたちはもちろん大人だって、
ちゃんと知っている人はすくないと思うんです。
売られているお肉は、どうやってこのかたちになったのか。
わたしは一時期、そのことを考えすぎて、
お肉やお魚を食べられなくなってしまったんです。
そんなとき劇団の先輩の猫背椿さんが、
この本を貸してくださいました。
ショックでした。
でも、知ってよかった。
感謝して、食べられるようになったんです。

この本を書かれた森達也さんというかたは、
実際にご自分で何度も取材にいって、
いのちある動物が人間の口に入るまでのことを、
ぼやかすことなくレポートされています。
中学生にでも理解できるやさしいことばで、淡々と。
‥‥へんな言いかたかもしれませんが、
この本を読んで安心できたんです。
知らないことが、いけなかったんですね。
知らないから、よけいなことばかり考えて‥‥。
わたしひとりが食べないからって、
逃げられることではないんですよね。
自分はすごい薄っぺらいことを考えてたんだと思いました。
この本には、
「知ろうとすることをやめてはいけません」
「考えることをとめてはだめ」
ということが何度か繰り返されて書かれていました。

わたしに、「ありがたい」を教えてくれた一冊。
「いただきます」という言葉の大切さを
再認識することもできました。
もし自分に子どもができたら、
この本に書いてあることはぜったいに教えてあげたいです。

 
 
平岩紙さんの近況

大人計画に所属の平岩紙さん。
舞台はもちろん、TVやCMでもご活躍ですが、
ここではやはり、10月20日に公開された
この映画をご案内いたしましょう。

『クワイエットルームにようこそ』


公式ホームページはこちら。

「われら、ほぼ日感激団。」というコンテンツでも、
ご紹介させていただいたこの作品。
あらすじですとか、「ほぼ日」乗組員の感想などは、
そちらでお読みいただくといたしまして、
こちらでは、せっかくですので、
ナースの役で出演された平岩紙さんの視点から、
映画の魅力をうかがうことにいたしました。
それでは、平岩さん、お願いします!

「わたし、自分が出ている作品を観ることが
 苦手なんです。
 でも、『クワイエットルームにようこそ』は、
 すごく自然に観ることができたんです。
 
 脚本をいただいたときから、すごいと思ってました。
 これが映画になったらどうなるんだろう?! って。
 で、撮影に入ったら、やっぱりたのしくて、
 ワンシーン撮るたびにモニターでみて、
 それがもう、ぜんぶおもしろくて
 ほんとうにカッコイイ現場だったんです。

 わたしは、山岸という名前のナースの役なんですが、
 原作の小説にはじっくり出ていません。
 わたしは何も役をつくることなく、
 素のままの自分でカメラの前に立つことができました。
 こんなに素直に演じられる役をいただけて、
 松尾さんにはとても感謝しています。
 
 すごくやさしい現場でした。
 患者役の方たちが大勢いらして、
 ふつうにカメラをセッティングすると、
 どうしても何人かは映らなくなっちゃうんですね。
 そんなとき、松尾さんが
 『ちゃんとみんな入れてあげて』って。
 ずっとこの現場にいたいって思っていました。
 わたし、演技でちゃんと泣けたのって、
 この映画が初めてで‥‥。
 それだけ、あの世界にどっぷりとつかっていたんですね。
 
 これから先、自分のプロフィールに、
 『クワイエットルームにようこそ』が加わることを
 こころからしあわせに思っています。
 わたしにとって、特別な作品。
 劇場まで足をはこんでいただけると、うれしいです」

 
 
2007-10-29-MON
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