あのひとの本棚。
     
第32回 blanc.さんの本棚。
   
  テーマ 「自分の基盤となっている5冊」  
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ミュージシャンとして活動していくうえで
考えかただったり生きかたにおいての
基盤となっている5冊を紹介いたします。
経済の本が多いのですが、
どの本も何かしらかのキーワードで繋がることに
自分でも驚きました。
   
 
 

『マニュファクチャリング・コンセント』
ノーム・
チョムスキー

 

『賢明なる
投資家』
ベンジャミン・
グレアム

 

『ヤバい経済学』
スティーヴン・
レヴィット

 

『U2:At the End of the World』
ビル・フラナガン

 

『週末
田舎暮らし術』

 
           
 
   
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これはファンの方からもらった本です。
自宅で家庭菜園を小さい感じでやってるんですが、
こういう本を読んで少しずつ勉強してます。
将来的には自給自足でやっていけたらいいなと思ってます。
いまはちょうどアスパラの収穫が終わったところですね。
あとはブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーなんか。
今年はトマト、レタス、とうもろこしなんかも始めました。

母方の兄弟がみんな農家なんです。
サスカチュワンっていう、カナダのものすごいド田舎で、
ワールドナンバーワン田舎はサスカチュワンじゃないか、
っていうくらいの田舎でして。
僕、わりとシティボーイなので、
そういうことに憧れちゃうんですよ(笑)。
どんどん夢は膨らんでいって、
それこそ道の駅で「メイナードブランド」として
いろいろ展開していきたいくらい。
でも、こういうことを言ってると、
弟(ブレイズ)から怒られるんですよ。
「もうちょっとかっこいいイメージで」って(笑)。

フォレストガーデンっていう
自然の中に庭を作り出すのにも興味があって。
将来的に真面目に取り組みたいと思ってます。
自然農法を提唱した福岡正信さんという方がいて、
その方が発案した方法でやっていきたいなと計画中です。
長い目で見ての話なんですけどね。
まだ、音楽でがんばれる気がしますから(笑)。

忙しくなっちゃうと
植物の面倒があんまり見られなくなっちゃうから
気になるんですよね。
でも、近所の農家の先輩方がいろいろと教えてくれたり
手伝ったりしてくれているので助かってます。
だから近所づきあいってすごく大事。

   
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※こちらは洋書のみです。
 

U2は最初に紹介したチョムスキーに繋がりまして、
ボーカルのボノはチョムスキーを
「飽くなき反抗者」と賞し支持してるんですね。
U2にはバンドマンとしていちばん影響を受けました。
彼らを見て、
「バンドってこういうことだ」と思ったんです。
僕もバンドやっていて、
自分がU2みたいなバンドを目指せるかっていうと
まず無理だと思うんです。
でも、メンバーに対する愛だとかフレンドシップだとか
人間としてステキな部分は目指してもいいかなと。

僕は「バンドはみんなU2みたいになればいいのに」って
思ってるんですね。
サウンドとかではなくメンバーどうしの結束
みたいなものの部分においてです。
彼らはバンド仲間というよりも家族に近いんですよ。
たとえば、デビュー前のU2にソニーが
「あなたのバンドはドラムを変えたほうがいい。
 ドラムをクビにすれば契約します」
っていう話を持ちかけたときがあるらしいんです。
彼らはそれをことわったんですって。
ドラムがリーダーだったし、
それはちょっと無理だって決断をした。
もう、そういうところからしてかっこいいんです、U2。

自分たちがリアルバンドになるべく、
彼らはすごく長い目でバンドを見ていたことが
この本からもよくわかります。
いい作品を作るために、キチンとしていなくちゃ
いけない部分をちゃんと知っている。
目先のおいしいオファーを断って、
ポリシーをしっかり守る、っていうところから
始まったバンドですからね。

この本は1991年にリリースされたアルバム
『アクトン・ベイビー』をリリース後ワールドツアーを行い、
最終的に次のアルバム『ズーロッパ』の製作に入るという
バイオグラフィ的な内容となっています。
この本がすごくいいと思える部分に
ショウビジネスとアートの矛盾をせめぎ合わせて
どう処理するかが描かれているんですね。
彼らはライブ中にボスニア・ヘルツェゴビナの紛争を生中継で
ライブの映像として使ったことがあって、
「こんなところで楽しく演奏して、盛り上がってるけど
 今、戦争が行われている国もあるんだよ。
 忘れないでね」っていう
エンターテインメントを利用して正しいメッセージを
広げなくちゃっていう気持ちを持っているんです。
でも、そのいっぽうで
お客さんが盛り上がらないときなんかがあると
「もうちょっと真ん中でやろうか」なんて
修正をしたりするわけです。
そのギャップというか矛盾が楽しめるんですね。
それこそ、
「うん、わかるわかるよU2。
 そういうことあるよね」って
頷けるようなこともあったりして。
U2好きじゃなくても多分おもしろいと思います。
だってワールドワイドナンバーワンバンドの裏話ですから。

   
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日本語だとこういうタイトルですが、
英語だと「freakonomics」っていうんです。
変わっているとかそういう意味の「freak」と
経済の「economics」を足した造語なんですが、
経済学をいろいろな視点から見た本で、
そのデータの取りかたがすごくいい。
社会のことがもっとよくわかるようになる本だと思います。

たとえば‥‥
「子どもにとって
 プールと銃はどちらが危険か?」っていう質問。
これって「銃」っていう意見になると思うんだけど、
統計的にいうと銃で撃たれて亡くなった子どもよりも
プールで亡くなった子どものほうが多いんです。
それこそ、何百対1くらいの比率で。
でも、なぜか親はハンターの家で遊ばせたくはないけど
プールがある隣の家では
「どうぞ遊んでいらっしゃい」って送り出す。
身近に感じるものは怖くないんですよ。
あとは、保育園に迎えに来るお母さんが
時間にルーズになっちゃって、保育園側が困って
遅刻したら罰金を払うルールにしたんですね。
そうしたら、払える程度の額にしたら
みんな「払えば遅れてもいい」っていう
気持ちが芽生えちゃって
ルーズなまんまだったとか。
そういう、例として挙げられている
彼なりの視点で調べてきたデータがすごくおもしろい。
こういう事例がたくさん載ってるんですよ。

あ、あとこれは言っておきたい例があった!
「どうすればいい子育てができるか?」って
親は考えるじゃない。
どうやって叱ればいいかとか、
ときには叩いたりしたほうがいいのかとか。
この本のなかではそういう育てかたのまえに、
まず名前が大事って言ってるんですよ。
名前で将来が決まるって。
この人は上流、中流、下流の名前を
徹底的に年代別に調べ上げたんですよ。
そうすると白人の女の子だと
サラ、エミリー、ジェシカなんかが中流くらい。
さらに、10年単位で移行していくのもわかって。
たとえば60年代で上流の名前は70年代で中流くらい。
で、80年代で下流になっちゃうんですね。
隣を見て「あの名前がいいな」って思えてくる。
まさに隣の芝生がグリーンに見えちゃうわけです(笑)。

この本って経済学の本じゃなくて、
「経済っていったいなんなの?」って
再考させるきっかけになる本だと思うんです。
と同時に、僕がさっき言った
「経済は社会、社会は経済」ということを考えると
もっとも経済的な本なのかな? とも思えます。
ほんと不思議な本です。

日本ではビジネス書として売られているみたいですが、
サラリーマンよりも、サラリーマンじゃない人が
読むべきって感じがする本です。

   
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兄が投資をしていたので、
この本の作者のベンジャミン・グレアムとか
ウォーレン・バフェットの話を聞いているうちに
その流れで僕も少し株に興味を持ったんです。
で、この本を買ってみたわけ。
でも、投資をしようと思って買ったわけじゃないんですよ。
だってそんなお金なかったし(笑)。

ただ、僕の中で思うのは、人間って
自分の資本っていうのがないと生きていけない。
資本って、ある意味、人生じゃないですか。
だからそういう資本に対しての責任みたいなものを
持つべきなんじゃないかな、と思ったわけです。
そういう考えから本を読むことから始めようと思って
なんとなく落ち着いた人間性のある本を選んだら
この本になったわけです。
あ、これも原書の方で読みました。

本来はどうやって儲けるかが書いてある本なんですが、
第8章に、投資だけでなく、
人生にもアドバイスになることが書いてあったんです。
要約すると「どんなことでも長い目で見なくちゃダメ」。
音楽に関してもそういうことって
毎日考えなくちゃいけないと思うんですよ。
今の売れているような曲の時流に合わせて
曲を書く、とかじゃなくてね(笑)。

社会は経済であり経済は社会だと思うんです。
こういう本から哲学的なアドバイスがもらえるのは
ありがたい限りですよ。
自分の未来に対して、
経済的な部分でも、スピリチュアル面、メンタル面でも
全部の側面から考えなくちゃいけないと思います。
ってこれ、ぜんぜんアーティストらしくないですね(笑)。

   
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僕は大学で演技と政治経済を専攻していて、
そのときにノーム・チョムスキーと出会うんですね。
彼は「言語はもともと人に備わっているもの」という
言語機能の初期状態についての理論
「ユニバーサル・グラマー(普遍文法)」や
「ジェネラティブ・グラマー(生成文法)」を説いた人で、
そういう言語学をやってるような人が
マスメディアに関するこの本を出したときに
すごく驚きました。
「この人はスゴイ!」って思ったほど(笑)。
マスメディアで取り上げられることが
すごく大きい力を持つということが書いてあるんです。
テレビとかで痩せる食材として取り上げられる
「納豆」とか「バナナ」とか、
それこそ最近だと「新型インフルエンザ」なんかのことを
イメージしてもらえればわかると思います。

さらに言うと、報道なんかも
そういう大きな力が働いているとも思うんです。
いまっていろいろなマスコミがあって
どのニュースを読む、見るかは
消費者が選り好みができる時代だと思うんですね。
そうすると、マスコミもいろいろとやらないといけない。
だって新聞売れなくなっちゃいますから。
だから、なんかドラマチック仕立てだったり、
ストーリー仕立てだったりして記事を作り上げるわけです。
そういうこととは無縁な、
価値のあるニュースを書きたいとライターが思っていても
売り上げに繋がるほうを優先されちゃうから
難しいのが現状なわけで。
マスコミであっても、なかなか
上司のハンコをもらうまでが大変だと思うんですよ(笑)。

やっぱり英語の方がスッと入ってくるので、
今回ご紹介する本は原書で読んでいるものが多くて、
これも、そうですね。
最初に読んだときは
「あ、マスメディアっていうのはこういうものなんだ」
ってショックでした。
それこそ、眠りから目が覚めて
自分が違う人間になった気がするほどの衝撃を受けました。
こんな時代だからこそ、いま読んでもらいたい本です。
日常生活しているうえで
誰にでも関係のあることだと思いますから。

 

カナダ人2名、日本人2名のバンド
モンキーマジックとして活躍する傍ら
ご自身のソロ名義「blanc.(ブラン)」としても
活動しているボーカルのメイナードさん。
なんとモンキーマジックは、
全員が宮城県仙台市に住みながら活動を続けてるんです。

そんなメイナードさんが
blanc.としてのセカンドアルバムを
6月10日にリリースしました。





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バンド形態のモンキーマジックとはまた違った側面を見せる
ハウスとエレクトロニカ主体のアルバムとなっています。
また、タイトルの「canvas」っていうのは
またいろいろな意味が込められていそうです。
そういったことをメイナードさんにお訊きしました。

じつは、1枚目のアルバムを「canvas」っていう
タイトルにしようかと思ってたときがあったんです。
でも、「new world」っていう案が出てきて
「そっちのほうがいいな」と思ってそっちにしました。
「じゃあ、つぎがcanvasかな」って。
まずは新しい世界を見せてから
キャンバスに色をつけていこうと。
blanc.って「白い」っていう意味があるんですね。
だからblanc.のcanvasだと白いキャンバス。
響きと意味合いも含めて好きだったんですよ。
このblanc.っていうのは、何もないところから生み出す
というコンセプトにしようと思ってたから、
今回のアルバムは色を着けてもいいかな、
っていうレベルになったと思いますね。

今回のアルバムでは、自分の中にある
「プロデューサー」というキャラクターを
もうちょっと育ててあげたいなと思ったんです。
だから今回は、ゲストボーカリストふたり、
SayuleeちゃんとAMWEちゃんに歌ってもらいました。
ふたりともすごく魅力あるボーカリストで
オリジナリティがあるんですよ。
個性があってかっこいい。
その彼女たちのために曲を作ってあげたほどです。
AMWEちゃんが歌っている12曲目の
「solstice」は彼女をイメージして作りました。
で、ほかの曲といっしょに何曲が提示したときに
彼女は見事その曲を選んでくれたんですよ。
ほんと偶然というかラッキーというか。
こう見えない何かが合致した感じでした。

もっともっといろいろなボーカリストと
やってみたいんですよ。
そういうフィーチャリングからいろいろ発展して、
いろんなプロジェクトが動かせそうな気がするので
そこから楽しいことをまずしてみたいですね。

あと1曲目「coast」のビデオクリップがあるんですが、
なかなか不思議な作品に仕上がりました。

 

いろいろなものをピアノ線で宙づりにしてるんですが、
ジャケット写真ではあえてピアノ線を消してないんです。
コンピュータを使えば最終的には
消すこともできるんですが、それをやっちゃうと
全部がコンピュータでやってるように思われちゃうから
あえて消さずという方向にしました。
なんかややこしい時代になったなぁ(笑)。
blanc.のオフィシャルサイトで全部観ることができますので、
ぜひ観てみてください。

メイナードさん、ありがとうございました。
セカンドアルバム「canvas」は現在発売中です。
ポップだけど、とっちらかった感じではなく、
「blanc.ワールド」と呼べるような
共通の世界観で括られた曲の数々を
ぜひともお楽しみくださいませ。

blanc.の公式ページはこちら。
ニューアルバム「canvas」の試聴ができる
myspaceはこちら

2009-06-23-TUE

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