第3回 隆明さん、肝心なとこで。

糸井 吉本さんが『dancyu』に連載してるときには
こんなに赤裸々なエッセイだと思わなかったんだけど、
さわちゃん(=ハルノさんのこと)は、
連載当時は読んでたの?
ハルノ 解読するときに、読むはめになりました。
糸井 なるほど、ゲラでね(笑)。
一般的には、食いものの話というのは、
自分に寄せずに書けるんですよ。
気楽に、自分の正体をあかさないで書ける。
でも、吉本さんのケースは逆でした。
ハルノ 逆ですよね、攻撃的です。
糸井 そうだよね。
エッセイのように書いているんだけど、
やっぱりあの「吉本」が出てきちゃうんですよ。
ハルノ ごりっと分析したり。
糸井 本文と解説をひとりの人が書いたことにして
一冊の小説だといえば、
この本はまたおもしろいよ。
ハルノ うーん、こういう形って、
意外にないですよね。
糸井 ない。
まず、一方が死んでますからね。
ハルノ そうですね(笑)。ずるいことですね。
糸井 かわりばんこに書いたものや、
往復書簡集はよくありますけど‥‥、
だから、さわちゃんが書いたものに対して吉本さんが
もういちど反論するわけにはいかないんです。
俺も、さすがにないんじゃないかと思ったのが、
「おから」についてのくだり。
ハルノ ああ、おから。
糸井 さすがに吉本さんだって、
おからが豆腐を作るときにできるもんだ、
というのは知ってたんじゃない?
ハルノ (笑)いや、意外にそういうことを
父は追求せずに放っておくんですよ。
糸井 たしかに吉本さんは、いろいろ間違ってる(笑)。
知らないことに関して、
ざっくりそのままにしておいたりします。
そういう人だなとも思う。
だけど、おからを米と思ってたのは
無理なんじゃないか、と。
ハルノ いや、父は妙なところを知らないんですよ。
あれは、知る必要がないんでしょうかね?
糸井 うーん‥‥もしも必要を感じてたら
料理もうまくなってたかもしれない。
ハルノ まぁ、そういうことでしょう。
糸井 (笑)あのね、いま思い出したんだけどね。
吉本家の開催するお花見は、谷中墓地で
たいがい肌寒い頃に行われましたが、
まずは吉本さんが、朝から
敷物を担いで自転車に乗って出かけます。
場所取りのために敷物を広げ終わったら、
そこで本を読みはじめて、昼間ずっとひとりで過ごす。
で、夜になるとみんなが集まります。
ガスコンロやなんかが揃ったところで
鍋みたいなことをするんだけど、
鍋の前には当然主人(吉本さん)がいて、
その主人がみなさんにサービスするということで
鍋をつくります。
それが、サービスにならないくらい、雑なんです。
ハルノ うん(笑)。
糸井 誰もが息を呑むようなかんじで、
‥‥ざん! と、材料を入れるんです。
豆腐でも肉でも青菜でも根菜でも、いっぺんに。
ハルノ いやぁ(頭をかく)。
糸井 誰も注意もできない。
ハルノ できないです。
父はすべてにおいてだいたい
ああいう感じです。
糸井 それぞれの材料は切りわけて
別々に盛ってあったはずですよね?
ハルノ そうなんだけど。
糸井 主人は鍋の前で
その皿を斜めにするだけなんです。
ハルノ そう。
糸井 ぼくはちょっと、「あっ、あっ!」と
言った憶えはあるんだけど。
ハルノ そうなんですか(笑)。
糸井 でも吉本さんは、反論することもなければ、
言い訳もなくて、
「ああー」と言うだけなんです。
‥‥毎年そうでした。あれはなんなんですかねぇ。
ハルノ まぁ、それはしょうがないでしょう。
作り方にどうこう言っても(笑)。
糸井 あれだけいろいろ準備をしてねぇ‥‥、
すべての材料が斜めにされたとき、
一同の「これをいっぺんに入れるのか」という心の声。
息を呑みます。
さわちゃんは、ああいう人を扱って、幾星霜。
ハルノ ほんとにそうです(笑)。
糸井 吉本さん、ぼくらがいないときは
怒ったりするんですか。
ハルノ 怒るっていう意味では怒らないけど、
特に最後のころは、あれこれ因縁つけられましたよ。
糸井 因縁を。
ハルノ 本の最後のほうのエッセイにもありますけど、
父に「さわちゃんいるか」って言われると、
ちょっと引くんですよ。
いったん心構えをつくっておいて、返事します。
2〜3時間、いろんな思想の話とか(笑)
なにか聞かされたらやだなとか、
そういう構えを持って対応しないと。
糸井 一方で、お母さんが2階に寝てるから、
そこからもさわちゃんに
指示が出されてるわけですよね。
ハルノ そうですね。ふたりを介護してたわけだから。
糸井 縦軸、横軸、すごい。
ハルノ すごいです。

阪神タイガースリーグ優勝の際の吉本家。
1枚目は1985年、隆明さん後方右から3人め、
ハルノさんは左端。
2枚目は2003年、吉本さんは手前で阪神のお酒を手にし、
ハルノさんは後方でだるまに目を入れている。
お料理はハルノさんによるもの。
ともに「Vマーク」のちらし寿司あり。
  (つづきます)

2013-05-13-MON

画:ハルノ宵子