原辰徳プロフィール
第1回 想像してないことが起きうる。


糸井 よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします
糸井 まだキャンプがはじまったばかり‥‥
のはずなんですけど、
もう、全員、きびきび動いていて、
ちっともそんな感じじゃないですね。
まぁ、そうですねぇ(笑)。
去年、11月の終わりに、最後の練習をして、
そのなかで、選手に伝えたのはですね、
キャンプがはじまる2月の1日は、
全力で投げて、全力で走れて、
そういう状態で、来てくれと。
糸井 ああー。
FAで移籍してくる選手だとか、
あるいは新人、外国人においてもですね、
そういったメッセージを伝えて、
2月1日を迎えたと。
キャンプの前に、
あまり、そういうことは言わないんですけど、
今年は、それをきちんと言いました。
糸井 あえて、通達したんですね。
準備してこいよ、と。
なぜかと言うとですね、
一昨年、2012年はもう完全制覇でしたね。
糸井 そうですね、2012年は、
リーグ優勝、日本一はもちろんのこと、
ぜんぶ勝ちましたもんね。
5つでしたっけ?
5冠ですね。
(交流戦優勝、セリーグペナントレース優勝、
 クライマックスシリーズ優勝、
 日本シリーズ優勝、アジアシリーズ優勝)
糸井 そうでした。
そういうすばらしいシーズンがあって、
その翌年、2013年は、まだその勢いのあるなかで、
非常に気持ちよく戦えたシーズンなんですね。
で、結果的に、悪いシーズンではなかったけれども、
最後の最後、やっぱり日本シリーズで
「3勝4敗」と、あとひとつ勝てなかった。
糸井 ほんとに、最後の1勝ができずに、
二年連続日本一になることはできなかった。
はい。
連覇を達成することはできなかった。
それでジャイアンツの勢いというのはですね、
ま、私は止まったというふうに思いました。
糸井 ああ、そうですか。
そう思ってます。
まあ、2013年のチームが、
去年、「7」で終わったとしますよね。
そこで今年、同じ「7」から
スタートできるかっていったら、
もうぼくは勢いが止まったという意味においては、
「1」、あるいは「2」、ぐらいまで。
糸井 そこまで戻りますか。
うん、そこからのスタートなんだと。
糸井 はーーー。
そういうふうに、しっかりと
自分たちを位置付けなければ、
一回止まった勢いを動かすというのは
これはもう、容易なことでない、と。
そういう意味で、選手たちにはまず、
厳しく、そういったことを課した状態で
キャンプに臨ませると、そういうことですね。
糸井 あえてお訊きしますけど、
去年は、悪いシーズンではなかったですよね。
悪いシーズンじゃなかったですよ。
とくに、クライマックスまでは、
このうえない戦い方をしたと思います。
ま、優勝しただけではなく、
セントラルリーグにおいても
全チームに勝ち越したわけですし。
糸井 そうですね。
ただやっぱり日本シリーズにおいて、
力が、こう、5割も出なかったっていう。
糸井 あー、そういう印象ですね。
ええ、当然がんばった人もいるけれども、
実力を発揮できない選手が多かった。
先発ピッチャーは先取点を取られたし、
主力バッターはヒット数本に
抑えられてしまったりした。
まぁ、現実問題、いくら選手に力があっても
短期決戦の勝負というのは、
どう転ぶかわからないということですよね。
糸井 そうですよね。
どんなにいい選手でも、
数試合、よくないときはありますから。
ああいう短期決戦のときに、
原さんがなにをどう考えていたのかというのが、
ぼくはすごく気になっていたんです。
その、どういうふうに考えるものですか。
一年の総決算ともいえる短期決戦を迎えるときに。
うーん、なんていうんでしょうねぇ、
まぁ、あの、日本シリーズっていうのは、
4勝すればいい。
糸井 はい。
ま、逆に言うならば、3回は負けられる。
その負けてる内容というものもありますけれども、
3回までは、たとえ負けたとしても、
つぎの日、つぎの試合を、「勝ちに行く」。
基本的には、そういうふうに考えますね。
糸井 それで、3勝3敗まで、行きました。
ええ、そうですね。3勝3敗。
しかも、昨年の日本シリーズにおきましては、
2勝3敗から、大事な試合を勝って、
3勝3敗にしたわけです。
糸井 はい。2勝3敗で、
楽天の先発は田中将大投手でした。
はい。こちらは菅野。
その試合を取ったということでね、
よし来たぞ、と。
これでジャイアンツに流れが来た。
ですから、3勝3敗になったときはですね、
私のなかで、負ける材料はない、と。
糸井 ああ、そこまで。
はい。
そういうなかで、第7戦を迎えてですね、
ま、結果は‥‥完封負け(0ー3)でしたからね。
完封負けっていうのは、
正直、頭の片隅にもありませんでした。
糸井 ああ、そうでしたか。
もちろん、完封負け自体は、野球のなかでは、
それほどめずらしいことではありませんけれども、
あの流れのなかでは、頭になかったですよね。
はい。それで、やっぱりぼくが、
あらためてまた勉強したというのはですね、
やっぱり勝負というのは、
どんなことでも、ありうる。
想像してないことが起きうる。
それを、勉強しましたね。
糸井 いままで、原さんは、
選手の時代にも、監督になってからも、
おそらく何度も、ありえないようなことが
起こるようなことを経験されていて、
それでも、やっぱり「まだある」
っていうことなんですね。
そうですね。
これは心のなかで思ったことですから、
伝わりづらいかもしれませんけど、
あの、第6戦をとって3勝3敗になったとき、
「負ける材料はない」と。
ほんとに、心底そう思った。戦う前に。
糸井 はい。
でもそれは選手に伝えることではないですから、
試合前、選手に対しては、
「さあ、ここまで来たぜ」と、
「もう3勝3敗だ」と、
「あとは思い切っていこうじゃないか」と、
「こっちに流れが来たぜ」というようなことで、
第7戦に向けて送り出しましたけれども‥‥。
もしも、ぼくのなかで、仮に、心のなかでね?
そういうふうに思わない心があったならば、
どういう結果になっていたのかなと。
逆に「負ける材料はない」と思う心があったから、
こういう結果になったのかな、というふうに、
反省しているところですねぇ。
糸井 監督のなかに
「100パーセントの確信」があったゆえに、
予想もしなかった結果になったんじゃないかと。
あの、「プラス思考」という言葉がありますが、
その「プラス思考」ということは
たいへん正しいことだと思うんですね。
前向きにもなれるし。
しかし、どこかに限度はあるのかな、と。
糸井 「プラス思考」で立ち向かっていくことの
限界というか、マイナスのようなことも。
はい。どこかに限度があるのかな、
ということは、今回、勉強しましたね。
糸井 ああー。
ですから、今後は、
状況をどれほど的確に分析したとしても、
ああいう心理には、ならないと思いますね。
糸井 それは、さらに真実に近づいた、
ということでもありますよね。
そうかもしれませんね。
だから、ぼく自身が考えた通りに
行くはずがないのが野球なんだ、と。
そういう考えが、根本には必要だな、と。
糸井 うーん、なるほど。
2014-03-28-FRI
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第1回	想像してないことが起きうる。
第2回	野球の品格。
第3回	受け継がれる、監督の振る舞い。
第4回	悔しさを超えた満足感。
第5回	まったくの白紙です。
第6回	自尊心なき監督。
第7回	リスクはベンチが負う。