「はだか」の作品。 アンリ・ベグランさん、福森雅武さんと、 伊賀の「土楽」で。
 
その8 抱きしめたかったら、     抱きしめたらいいんだよ。
アンリ 福森さん、糸井さん、
ぼくたちは恵まれていますね。
福森 ああそう、おお、いいねえ。
当たり前だ、
恵まれなかったら選ばれないんだから。
そらね、静かに選ばれるっちゅうのはね、
いちっばん大事なことです。
これはねぇ、もう大変なことです。
表面で流行るという問題じゃないからね。
その辺をね、この人はね──、
糸井 わかってますね。
一代の人ならではの、わかり方を。
ゼロからですもんね。
福森さんは、結局ゼロからに
しちゃったんですよね?
福森 そう。
わたしとこの先祖は信長に殺されたから。
糸井 アンリさんに通訳して、
急に信長が出てきたら
びっくりするでしょうね(笑)。
アンリ あの、失礼な質問ですけれども、
なぜ殺されたんですか?
福森 信長が伊賀の忍者が怖かったんです。
糸井 福森さん忍者なんですよ。
福森 あはははは。
糸井 実際そうでしょう?
福森 先祖は忍者なんだけど、
わたしはね、地図がわからない(笑)。
ふみこ
さん
地図がわからない(笑)。
糸井 道歩さんを見てると、
忍者ですよね、あれ。
福森 ああ、そうかねぇ。
糸井 このあたり、
道に何か食べられる花が
咲いてたりするじゃない。
それを車を運転していて横目で見つけて
「あった!」って言うんだもん。
ふみこ
さん
あははは。
福森 そら当たり前よ。
糸井 当たり前じゃないですよ(笑)。
福森 家訓ですわ。
車で走ってて、食えるもんか、きれいな花か、
ちゅうのを見分けるのは、あたりまえじゃろう。
一同 (笑)
アンリ じゃあ全ての草はご存知なんですね。
福森 うん。
でね、忍者というのは、
上忍、中忍、下忍っていうのがあって。
下忍っていうのが走ったり、
手裏剣投げたりするんです。
お殿様と対話して、
その情報を得るというやつは、上忍。
俺らのところは、下忍だよ。
ふみこ
さん
ほんとにみなさん忍者なんですか?
福森 そうですよ。
糸井 ここは、名古屋も、京都も、奈良も、
全部近いんですよ。
ここで情報仕入れて
あっちに売ってとか、
そうやって生き延びてきた場所です。
福森 敵味方じゃなしに、
高く買ってるところに情報を売ったんだから。
ふみこ
さん
今でいえば、ジャーナリスト?
福森 そうそう、
ジャーナリストの祖先ですよ。
ははは。
一同 (笑)
三浦 そういう意味では、
糸井さんっていうのはね、
現代の忍者ですよ。
福森 ああ、そうやな。
糸井 落ちこぼれのね(笑)。
三浦 いや、ほんとに。
だから、今のね、
福森さんが言っておられることを
たぶんね、素でやっておられる。
糸井さんは。
この場だって、
糸井さんが仕組んでいるから。
それは忍者ですよ。
福森 俺なんか、仕組まれてんだね。ははは。
この糸井さんっていう、
こんなおもしろい男が
いるちゅうのも腹たつんやけどね、
こんなんいらんと思うんやけど、
やっぱり出てくるんや。
ははは!
ふみこ
さん
糸井さんが福森さんと
アンリとをつなげるっていうのは、
すごいなと思って。そういう勘が。
糸井 だって、おんなじ人じゃないですか。
ふみこ
さん
よくわかりましたね。
糸井 同じ人だったでしょ?
きっと、悩みも同じなんですよ。
ふみこ
さん
ほんとですよね。
アンリ 初めて感じたことかもしれないんですけど、
日本人は、あんまり目も合わせないし、
はじめて会った時も握手もしないし、
それが日本の文化でもあるんですけれども、
なのに、今日は、もうほんとに‥‥。
それが、とてもうれしくて、
糸井 アンリさん、結構、
気つかってんだよね。
ふみこ
さん
ほんとはさわっちゃいけないんじゃないかとか、
抱きしめちゃいけないんじゃないかとか。
ほんとはアンリはみんなを抱きしめたいんです。
福森 抱きしめたかったら、
抱きしめたらいいんだよ。
そうでしょう?
日本も昔はそうだったの。
ただね、表現がちょっと江戸時代から
変わってきただけの話なんですよ。
いや、すばらしい。
こないしてね、イタリーの人とね、
こころが一緒になるなんて、
うれしいことじゃないの。
アンリ 糸井さんの知性と愛情がなかったら
ぼくたちを引き合わせるっていうことは
なかった。
福森 いや、そうです、そうです。
この人に任したらいいの。
任す、ということは、
一緒に死ぬというくらい
信用してるということなんだから。
糸井 はい、一緒にいきましょう。
一同 (笑)
福森 しかし俺は酒飲みだからね。
酒を飲まない糸井さんを信用できるか?
これ、信用できるか?(笑)
アンリ そう、ぼくも、
今それを言おうと思ってた。
それでも糸井さんの信頼っていうのは、
当然のことっていうか、自然ですよね。
次元の違う信頼っていうことですね。
信用する前に、もうぼくはひきつけられてる。
福森 そう! そう!
次元の違うところでやろうや。
糸井 ふたりの話を聞いていて
今も思ったんですけど、
“丸裸しかない”ですね。
ぼくね、
そういうお通夜がやりたかったんです(笑)。
一同 (笑)
糸井 お通夜で、そういういろんなうわさ話されるの、
一番楽しいじゃないですか。
生きてるうちじゃ、もったいないから。

(つづきます)
2010-09-10-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN