「はだか」の作品。 アンリ・ベグランさん、福森雅武さんと、 伊賀の「土楽」で。
 
その7 守ったってしょうがないよ。     わたしはわたしの一代目。
福森 糸井さん、
イタリーでやろうよ。
この雰囲気を。
糸井 おもしろーい。
福森 わたしイタリー行って料理するから。
アンリ 冗談抜きでほんとにいらしてください。
冗談ぬきで。
ぼくは裸になって、
ぼくのありのままを見せます。
福森 いや、おもしろいねぇ。
たまには、羽目を外して、
心を離さんといかん。
糸井 絶対自分のこと言ってる。
自分のことだよ、福森さん。
福森 たまにか? はははは。
いつもだな。
糸井さんはこんな飲み助と
一緒に行きたくないと思ってるからね。
糸井 ぼくは我慢ができるんです、意外と(笑)。
父親が飲み助だったから、慣れてる。
福森 わたしは案外ね、ひとりでゆっくり
がんばって飲むほうだから。
糸井 誰も飲まなくっても俺は飲むっていうね。
福森 そうそう、そうそう。
ふみこ
さん
ご家族の方はあんまり相手しない?
福森 子どもは飲むのよ。
うちの奥さんは飲まない。
だから、わたしの全部を
しらふのままの奥さんが知ってるから、
具合悪いよね。
アンリ だから奥さんなんですよ。
福森 はははは!
やっぱり、羽を広げるところが
なかったらいかんよ。
奥さんではもう、
ちょっと羽が狭まってるから(笑)。
アンリ 羽がない人もいますよね。
羽がない人は広げられない。
でもぼくたちは羽を持ってるんです。
ときには集中して、
そしてきちんと切り替えができるから。
羽を持ってない人が飲むのと、
羽があって飲むのとでは、
意味がちがいますよ。
だからぼくたちは
飲んでもいいんです。
福森 あはははは。
糸井 アーティスト同士、
おんなじこと言ってるね。
ふみこ
さん
ただ、日本語話してるか、
イタリア語話してるかのちがいですね。
アンリ 今度は一緒に陶器を作りましょう。
それとも陶器を縫いましょうか。
福森 なんでもいいの。
そんなんなんでもいいの。
だけど、それはね、
ほんとに情熱があるかどうかの差です。
ふみこ
さん
アンリもおんなじこと言ってます。
情熱。
糸井 うらやましい‥‥。
福森 ぱっとなんでも感動できるという、
そういうものがあるかどうかの問題だけですよね。
特別なことじゃないことでね。
だけど自分で感じてんのよ。
糸井 自分で感じて自分で決めている人達。
福森 わがままなのよ(笑)。
糸井 そうですね(笑)。
芸術家だから。
福森 いや、芸術家じゃない。
そんなんね、職人でも一緒なんだよ。
わがままを許す日本人が今いないんだよ。
昔はいたの、
「あの頑固親父!」って言って、
おったんだけど、
今ね、日本人はね、この、
なんか決まり決まったようなところがあるわけ。
糸井 立ち小便一つ出来ないですよね。
福森 日本の文化もね、俺はね、
ほんとに消えると思う。
表面だけの文化を守っているだけだもの。
三浦 だからぼくたちのやっていること(*)は、
糸井さんからは
断末魔って言われてるんです。

*三浦さんたちは、琵琶湖の底に沈んでいたような木や
 古いお寺の石などを引き継いで、
 現代の住宅などに使うような建築をしています。

福森 ははは、断末魔。
俺のとこね、芸大出とか預かって、
その習ったことをいかになくするか、
というのに一年かかるんだよ。
一年かけてもなおらないんだけど。
糸井 うん、うんうん。
福森 バカな概念だけを教えてるんだ。
大学ってね、概念しか教えてない。
だめ。
直感とかね、感覚の問題をね、
もっとちゃんと教えて。
糸井 メッキが邪魔しているんですよね。
福森 できる連中を集めてこないかん。
糸井 ひとりずつ探すしかないんですよね。
まとめて探せないんですよ。
ひとり会ったらその人と、
ひとり会ったらその人と、というふうに。
福森 昔はね、職人っちゅうのはね
「俺の技術をおまえできるか?」
というのが、いーっぱい、いたんです。
今ね、そんな奴がおらんねや。
糸井 イタリア、もっといないんですって。
福森 ああ、そう。
アンリ どういうふうにして、
陶器の世界に入ったんですか?
福森 子供の時から好きも嫌いもなくって
粘土があって。
このわたしで七代目だから。
アンリ ぼくは、まだ一代目なんです。
糸井 ああ、そうだ。
福森 わたしはね、一代目と思ってるから。
親父のことは全部ゼロ(笑)。
アンリ 今の言葉すごく、心に感じます。
福森 みんな、そうなんだよ。
陶器とか、先祖から伝わったことが
大事だと思って、大事に守ってるんだけど、
守ったってしょうがないよ。
自分が感動して、
自分が求めて行かなかったら
そんな伝統なんてない世界ですから、
わたしは。
糸井 福森さん、お酒を飲んでも
すっと、素になりますね。
福森 真剣勝負ですよ、そういう意味ではね。
でも楽しくやりましょう。あはは。

(つづきます)
2010-09-09-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN