第4回  セイウチをホッキョクグマが襲うのを見たい。
 
糸井 関野さんは、お金について、
どんなふうに考えていらっしゃいますか?
関野 それで言えば、ぼくはお金は、
なければないで、大丈夫なんです。
糸井 「ない」ことへの覚悟が、最初にあるんですね。
関野 それは、ありますね。

「グレートジャーニー」をはじめたばかりのころ、
途中でお金がなくなって、
撮影隊に帰ってもらったことがあったんです。

それで、ぼくはひとりで動き続けたんですが、
使えた生活費が、1日100円。
食事は毎日、パンと牛乳とリンゴが、
各1つずつくらい。
糸井 それは、大変な‥‥。
関野 でも、ぼくは別に、
まったく辛いとも思わなかったんです。
ぼく、お金がないのって、気にならなくて。
糸井 そうなんですか。
関野 お金がなくて歩みが遅くなっても、
「時間」をかければ
ゴールには、たどりつけるし。
糸井 「やりたいことをやれる」なら、
お金も「なければない」で大丈夫、ということですか?
関野 そうですね。
あればあったで、いいけれども。
糸井 ‥‥ちょっと寄り道をしますけど、
いま、ぼくらは被災地の仕事を
事業として、やろうとしているんですね。
「儲かる会社をつくり、
 その会社ごと、被災地に寄付する」
ということをしたいんです。
関野 儲かる会社ごと、被災地に。
糸井 そうしたいんです。
それで、先日、その「やりたいこと」が、
「お金」に影響を受けそうに
なってしまったことがありました。
関野 ええ。
糸井 儲かる会社を作りたいといっても、
そんなに簡単にはできません。

それで、被災地の仕事ですから、
「ある基金に応募すると、
 大きなお金を援助してもらえるらしい」
という話があって、
応募しようかという話が出たんです。

忘れちゃいましたけど、
けっこう「あったらいいな」という額で、
それがあると、
ずいぶん楽になりそうだったんです。
関野 なるほど。
糸井 ‥‥ですが、ものすごく考えた結果、
ぼくらは
そこに応募することを、やめました。
関野 あ、やめたんですか。
糸井 なぜかというと、
大きなお金をもらって何かやることで、
ぼくらの、純粋な「やりたい気持ち」が
損なわれるような気がしたんです。

「自由に使っていいですよ」という
お金でしたけど、
どう使ったかの報告もしなければいけないし、
その用途が、
わかりやすく目的に符号してなければならない。

そういうお金を貰ってしまうと、
ぼくら自身、
「こういうことをやれるといいね」ではなく
「このお金があるからどうしよう」と、
考えはじめかねない可能性があるなと。
関野 ああー。
糸井 ‥‥もし、関野さんのところに
たとえば、
「じゃあ、10億好きに使いたまえ」と
ポンとお金を渡されたとしたら、
「グレートジャーニー」どうだったと思いますか?
関野 ああ、どうでしょうね‥‥
おそらく、ぼくは旅を続けていたと
思うんですけど、
番組が続けられていなかったかもしれませんね。
糸井 なるほど。
旅の「動機」がものすごくある
関野さんは大丈夫だけど、
周りの人は、影響を受けてたかもしれない。
関野 かもしれないですね‥‥いや、
ぼくも、だめかもしれないけど(笑)。

ただ、おそらくぼくは、10億もらうと、
10億ぜんぶ使いきっちゃうと思いますね。
糸井 使い切っちゃう。
関野 ええ。ぼくにとってお金は
「なくても大丈夫」なものだから、
なくなることが恐くないんです。

その、お金がなくなることが恐くないのは
ぼくの強みだと思いますね。
糸井 なるほどなあ‥‥。
お金はいらない、ってことではないですよね?
関野 もちろん、
あればあったで、ありがたいです。

お金がなくてもやるけれど、
あればあったで、
「もっとよくできる」ということなんですよ。

「グレートジャーニー」の番組って
ぼくがプロデューサーですから、
いいものができたほうがいいに決まってて。
糸井 ええ、ええ。
関野 たとえば、
ロシアにウランゲリ島という島があるんですけど、
ものすごい島で、
セイウチが、大量に集まってくるんです。
‥‥そして、その場所を、
ホッキョクグマたちが、襲うんです。

それを‥‥見たくて。
糸井 うわ‥‥話、でっかいですねー。
関野 でも、やっぱりお金がかかるんですよ。
取材費として1ヶ月につき400〜500万を
ロシア政府に払わなければいけない。
向こうにしてみれば、資源ですから。

お金があれば、そういうこともできるんです。
糸井 大量のセイウチが
ホッキョクグマに襲われるところも、見られる。
関野 もちろんそれを見られなくても、旅はできるけど、
行けたら、より、いい。

「あったらあったでいいし、なければないでやっていく」
そういう感覚ですよね。
糸井 関野さんは、そういうお金とか
そういった「周りの都合」みたいなものに
ほとんど影響を受けなさそうですね。
関野 そうですね、
ぼく、いつも、「都合」より
やりたいことをやるんです。
違うことを言いたいときには、言っちゃうし。

‥‥「グレートジャーニー」でシベリアを通ったとき、
ビニールハウスで畑をつくっているところで、
ごはんを食べたんです。

ただ、川の近くだから
イクラはあるし、キャビアがあるし、
あとフナのたまごとかもあって、たまごづくしで。
食パンにたまごを山盛り「どうぞ」なんて貰って。
糸井 脂っこそうですねえ(笑)。
関野 そのとき、
ディレクターがカメラを持ってやってきて、
聞いてきたんです。
「どれがいちばんおいしいですか?」って。

で、ぼくはつい、思っていることを
そのまま言うから、普通に
「‥‥ジャガイモが、いちばんおいしいよ」と。
糸井 山盛りのイクラやキャビア以上に、
ジャガイモが(笑)。
関野 だって、とれたてのジャガイモが
すごくおいしくて。
たまごは、けっこう飽きてきてたんです。
‥‥まあ、ちょっと怒られましたが(笑)。
糸井 わかる。どちらの気持ちもわかります。
関野 それとか、
シベリアに「ビッグホーン」という野生の羊がいて、
それも狩りで穫ってきて、食べたんです。

このときもディレクターが
「関野さん、おいしいですか?」
って聞いてくるから‥‥
糸井 そうしたら?
関野 「‥‥ま、肉だからね」って(笑)。
糸井 「ま、肉だからね」(笑)
関野 そうそう。決め手は味付けですから。
糸井 (笑)
関野 これもディレクターが呆れて、
「関野さん、ぼくに意地悪したいんですか」
って(笑)。
ぼく、言いたいこと、言っちゃうんですよ。
糸井 お互いにフリーで、
テレビの番組でなければ、
どんなコメントでもありだと思いますが‥‥ねぇ。
関野 あ、ただ、
「グレートジャーニー」のスタッフは
みんなフリーランスなんです。
糸井 そうでしたか。
関野 ぼく、フジテレビと契約するとき、
「どこへ行くか」「誰と行くか」「何を撮るか」は
任せさせてもらうようにしてて。
糸井 ‥‥よく最初に、
そのやり方を思いつきましたね。
関野 そうじゃないと、ぼくはできないんですよ。
糸井 そのことが、旅の前から
わかってたということですか?
関野 いや、単純にぼくは
やりたくないことって、やりたくなくって。
糸井 ‥‥お見事。
(続きます)
 
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2013-03-28-THU
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