その6 ガッテンするよ。

糸 井 ぼくはいま停滞期に入って、
停滞期のおもしろさっていうのを、
考えてる時期なんです。
振り返って思うのは、
土日の散歩って、ちょっと
散歩の距離が長いわけですよ。
北 折 はい。
糸 井 そうすると、余計に食っても
案外ひびかなかったなぁとか。
北 折 そうですね。
糸 井 自分を掘ってるんですよね。
h(how)のおかげで。
北 折 そうですね。
D(Do=動機)が小さくなったり大きくしたりで。
停滞期は必ず来るわけで、
来たときにつまらなくなるときの
こちらからの「待ち伏せ」も
やっぱり、必要かなぁと。
 
糸 井 それは、北折さんが
自分を観察することで
できていったことですよね。
北 折 はい、そこからしか、スタートしてないですね。
糸 井 他人にやらせて観察したことは、
ひとつもないんですか。
北 折 いや、ありますあります。
小野アナウンサーも何回もやりましたし。
糸 井 そういえば、いま、思い出したけど、
小野さん、飛行船に乗る前に減量したでしょ
飛行船って体重制限があったんですよ。
北 折 あ、やってました。そのときも。
糸 井 どうしてそんなことできるの、えらいね、
って言ったんだけど、これだ!
北 折 はい。
小野アナウンサーは何回もやってます。
なぜ、何回もやってるのかって、
それが問題ですけど(笑)。
糸 井 小野さん、当時、このこと言ってた。
そんなにたいへんじゃないんですよ、みたいに。
あんとき、オレ、全然聞こえてなかったわ。
北 折 でも、よくこの本に気がついていただけました。
ぼくは、糸井さんがおととしの暮れの頃に
吉本隆明さんの番組やってる関係で
NHKで講演をされたときに。
糸 井 会場にいらっしゃったんですね。
北 折 いました。自分に「迷い」がありましたんで。
ちょうどこの本書いてるときで、
なんでこんなに死にそうなまで忙しいのに、
仕事きらいなはずなのに、
なぜこういう
自分の番組以外のものもやってるのかな、
って思っていたら、
そのときに、糸井さんがおっしゃったんです。
「結局、NHKがどうなるかとかそういうのは、
 NHKっていう特殊な環境下だから鍛えられた筋肉を
 一人ひとりがフルに
 使うってことしかないんじゃないの」
ってことを、ポロッと。
糸 井 いいこと言いますねぇ。
観 客 (笑)。
北 折 もう、ぼくまさにそれだなぁって。
よくそこまで、ぼくがいましてることを
わかって言ってくれてますねっていう気持ちで、
あのとき、会場を
だーっと走って行きたかったぐらいでした。
観 客 (笑)。
北 折 ほんとですよ。
糸 井 いや、その通りですもん。
 
北 折 はい。
それをいま、やってるだけなんです。
自分の中で、やっぱり、
言葉にはならなかったことを、
あそこで、きれいに言葉にしていただいて。
糸 井 あのときに、それ、
本気でぼくが思ってたんでしょうね。
きっと、NHKの話をしてるんだけど、
自分もそうありたいって気持ちが、
あったんでしょうね。
吉本さんのお手伝いしてるのも同じで、
吉本さんの手伝いする人は
いくらでもいると思うんですよ。
それこそ、なんて言うんだろう。
車椅子を押すこともそうだし、
ご飯つくることもそうだし、
あれはすばらしいって感想送ることも、
みんなそうだと思うんだけど、
ぼくが、一番役に立つ方法っていうのは、
ぼくが鍛えた筋肉を吉本さんのところで
使うことなんだなと思って。
ぼくは、それを言葉に
してたわけじゃないんですけど、
吉本さんを仕事にすることが、
ぼくは一番得意なんだと思ったんです。
作家も老人になると、
仕事をしなくなりまして、
隠居になっていったら、
大学の先生とかで恩給もらってる人以外は、
食っていけないですよね。
その、食っていけないっていうの、
あんまり言うのも失礼だけど、そのときに、
ずっと仕事ってできるはずだって思ってるんです。
まぁ、ある種無形文化財みたいな人だと
思ってますから、
いるだけで仕事なんだ、
とさえ、言いたかったんで、
それを仕事にするっていうところに、
ぼくの仕事があるんだなと思ったのが、
吉本さんのプロジェクトなんです。
北折さんの本も、そうですよね。
ぼくは、これ、テレビのノウハウだ、
って思ったのは、まさしく、そうで、
これを、後にほぼ日のみんなが読めばいいのに、
って思ったのは、
こういう順番でものを言われたら
みんな納得するよ、っていう。
ガッテンするよ、って。
北 折 ははは。
観 客 (笑)。
糸 井 これ、ガッテンのスタッフの衛星圏みたいな場所に
ぼくがきっといるんですね。
で、見てるんですね。
カレーのときにも興味あって見てたんですけど、
いまでもぼく、それを守ってますけど、
ちゃんと鍋を火からおろして、ルーを入れる。
ほら、レシピ通りにつくったやつが
一番おいしかったじゃないですか。
スタジオでも、
わたしは、コーヒーをちょっと入れるんですのよ
みたいな人が、みんなあら残念みたいになって。
北 折 (笑)。
糸 井 で、あのときに、見て覚えたことが
飯島奈美さんの仕事の原点です。
北 折 はい。
糸 井 つまり、飯島さんがせっかく、
あんなに一所懸命、厳密にちょっとずつ、
ちょっとずつ決めていったことを、
わたしはちがうと思うの、なんていうので、
まずくされたんじゃ、かなわないから、
とにかく、しつこくレシピ通りにって、
あんなにしつこく言ってる理由っていうのは
そこなんですよ。
うちにひとり、娘がいまして、
それは、料理とか得意じゃないんですけど、
わたしのカレーはうまい、って言い張るんです。
北 折 うーん。
糸 井 なんでか、って言ったら
箱に書いてある通りにつくるからだと。
観 客 (笑)。
北 折 はい。
糸 井 それギャグとして好きだったんだけど、
「ガッテン」見たら、あ、そうか! と思って。
全部つながった。
北 折 はははは。
 
糸 井 で、それがひとつと、もう一個は、あんときに、
隠し味でちょっと砂糖入れるっていうのが
あったんですよね。
北 折 はい。
糸 井 あれについて、ぼくは
番組つくってる人がいたら、
ぜひ言いたかったと思ったんだけど、
砂糖入れるって隠し味は、
遠近感をつくることですね、
って言いたかったんです。
北 折 ああー!
なるほどー!
糸 井 すぐにわかってくれた(笑)。
観 客 (笑)。
糸 井 つまり、砂糖入れることで
近い距離でのおいしさを味わわせる。
その近さをものさしにして、
遠さが表現できる。
北 折 はいはい。
糸 井 スパイスが混在して
いろんな距離があって
わからなくなっているところに、
甘さが見つかった途端に、
そのものさしひとつもらったおかげで、
一番淡い、なんだかわからない
スパイスのことまで、
距離が、わかるようになる。
それが言いたかったことでしょう。
これ、会えたらぜひ言いたかったんです。
北 折 あー、すごいですねえ。
ありがとうございます(笑)。
観 客 (笑)。
糸 井 「ためしてガッテン」の中にそういう仕組みが
あるんですよね。
つまり、ある卑俗な言葉で、
一回ぽーんと投げ出しちゃって、
そのものさしを一個つくったおかげで
他のことが理解できるようになるという仕組み。
北 折 うん。
糸 井 さっきの、脂肪燃やしてようがなにしてようが、
いいじゃないですか!
っていうのも、砂糖ですよね。
北 折 あ、そういう意味で言うと。
そこがくっつくとは、まったく
いままで、思ったことなかったですけど(笑)。
観 客 (笑)。
糸 井 くっつきますよね。
北 折 怖いですね。
糸 井 一緒になんかやりましょうか。
北折さんがわかってて、
オレが、きっと、追っかけてわかることと、
オレがわかってて、北折さんが
それはなんかあるんじゃないか、
ということとが、
合うチャンスがあったら
おもしろいですよね。
北 折 そうですね。
それは、すごくそうですね。
 
(つづきます!)
2010-05-30-SUN
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