相双連合対喜多方高校

大会2日目、鶴沼球場、第2試合。
相双連合対喜多方高校の試合を観るため、
ぼくは会津若松駅で降りた。

鶴沼球場にどう行けばいいのかは
例によって行き当たりばったりである。
しかし、行き当たりばったりにもだいぶ慣れてきた。

鶴沼球場の最寄り駅は只見線の会津坂下駅。
しかし、最寄り駅にこだわると、
最後の数キロのところで
ちょうどいい交通手段がなくなったりする。

なので、会津地方の交通起点になってると
予想される会津若松駅でまずは降り、
そこからバスがあるのかタクシーを使ったほうがいいのか
只見線に乗り換えたほうがいいのかを、
ぶっちゃけ駅の人に訊くのである。

すいません、鶴沼球場に行きたいんですが、と。
車がつかえたらそれがいちばんいんですけどね。

駅の案内所に入ってみると
すでにルートを相談している初老の人がいて、
会話を漏れ聞くに、どうやらぼくと目的地は同じようだ。
「や、2時までに着きたいんですよ」と彼は言う。
相双連合と喜多方高校の試合は2時開始予定である。

バッグを持ってその人が出ていったあと、
案内所の女性に
「鶴沼球場に行きたいんですけど」と切り出すと、
案の定、「あら、いまの人もそうよ」と言われる。
タクシーで行くみたいだから、いっしょに行けば?
と言われる前に、ぼくもそうかなと思っている。
ありがとうございますと行って、
その人の白いシャツを追いかける。

タクシー乗り場の前で挨拶する。
そういう状況だから、話は早い。
お互い、ああ、それはいいですね、ということで、
後部座席へ滑り込む。冷房がありがたい。

行き先を告げて走り出すと、
話題は高校野球と決まっている。

相双連合ですか? と訊いたと思う。
そうなんです、と答えが返ってきて、
その人は、会社を定年退職してから、
全国の甲子園の予選を観て回っていると知った。

へぇ、と激しい興味を覚えたときには、
片手でICレコーダーを取り出して
録音ボタンをオンしていた。

ぼくは以前、そういうことをしていた経験があるので、
これは録音しておくべきだとピンと来たのだ。
まるでスナップ写真を撮るみたいに、ね。

スズキ
「大阪に勤めていたときはね、
 夏の大会の14日間のうち、
 10日間、通い詰めたことがあるよ」

すごいですねぇ。
今年はほかにどこか観たんですか?

スズキ
「今年は今日が最初なんだけどね。
 このあとは、神奈川大会かな」

ああ、神奈川ですか。いいなぁ。
もう何年くらい観られてるんですか。

スズキ
「いちばん観てたのは、
 昭和の終わりから平成元年にかけてかなあ。
 もう、20年以上前だね」

印象に残ってる選手とか、います?

スズキ
「あんまり記憶がないんだけどさ、
 でも、地方大会で一番印象に残ってるのは
 あれだね、作新学院の」

江川。

スズキ
「江川卓。あれは速かったねぇ」

あー、ぼくは観てないんですよ。

スズキ
「高校時代がいちばん速かったんじゃないかな」

高2の夏がいちばん速かったって聞きますね。
観たかったな。映像も残ってないですしね。

スズキ
「残ってないですよね。
 現場のネット裏で観てたらね、ほっと速かったもん」

へぇぇ。

スズキ
「あとはね、守備のうまさで憶えてるのは、
 ジャイアンツにいた篠塚」

はい。銚子商業。

スズキ
「そう。あれの守備はうまかったね」

そうですか。
打撃だけじゃなくて守備で憶えてるっていうのは
そうとうですね。

スズキ
「あと、福島で憶えてるのは、
 あれだね、小さな大投手」

田村投手。

スズキ
「田村、田村」

磐城高校。
あのとき準優勝した磐城高校のセンターが
いま、福島高野連の理事長をされている
宗像さんなんですよ。

スズキ
「あー、そうなの」

まさに、甲子園談義に花を咲かせながら、
車は鶴沼球場へと近づく。

駐車場が報道関係の車でいっぱいで、
タクシーの運転手さんが驚く。
やはり、相双連合への注目は大きい。

降り際、スズキさんに名刺を渡して、
自分の仕事を簡単に説明し、
ICレコーダーを見せながら、
いまの甲子園談義を掲載してもいいですか、と訊く。
そりゃ構いませんけど、とスズキさん。

最後に名字だけ教えてくださいと言うと
「スズキです」と彼は言った。
写真もお願いしたが、
そりゃかんべん、と言われたので、
後ろ姿だけ、撮らせてもらった。

もしも、ぼくがそういう年齢になって、
時間が妙に余ったりしたら、
初夏に地方の球場を回るのもいいなあ、と思う。

さて、目を転じると、鶴沼球場。
目的は、相双連合対喜多方高校。





この日の第一試合は、
会津農林高校対新地高校。

新地高校は、時間があれば
取材したいと思っていた高校だ。
震災の被害の大きかった相双地区にあり
(学校自体の被害は比較的少なかったという)、
1年生が7人入部してぎりぎりチームが成立した、
という高校だ。

一方の会津農林は部員数48名、
大会でも上位を狙えると評判の実力校。

途中経過をのぞくと、4回を終わって15対3。
5回を終わって10点差、
7回を終わって7点差がついている場合、
コールドゲームとなってしまうから、
新地高校としては厳しい展開だ。

球場の周りは報道陣をはじめ、
さまざまな人たちでごった返している。
試合を待つ選手たち。応援団。
近くの人たち、遠くから試合を観に来た人たち。

やがて第一試合が終わり、
観客席の応援団が移動をはじめる。
結果は16対3。新地高校が敗れた。

照りつける陽の下を、たくさんの人が行き交う。
その混雑のなかで、ぼくはこんなことばを聞く。
そしてまた、ある現実に直面するのだ。

「先生、ひさしぶり!」

見ると、応援団の一行のなかに
うれしそうにことばを交わし合ってる人たちがいる。
そろいのTシャツから、富岡高校とわかる。
相双連合を構成する3つの高校のひとつだ。

ああ、そうか。
震災以降、離ればなれになった人たちが、
ひさしぶりにここで会っているのだ。

「よぉーーー」「元気?」「どう?」

見れば、あちこちに再会の場面がある。
サテライト校に散った生徒たち。
転校してしまった生徒たち。
あるいは先生、父兄。
どこへ連絡すればよいかもわからぬまま、
散り散りになっていた友だちが、
ともに相双連合を応援することで、
再会を果たすことができたのだ。

喜びの悲鳴をあげて、ぎゅっと抱き合う女子生徒たち。
涙と、笑顔が、くるくると入れ替わる。





震災も原発の事故も、あまりにも唐突で、
きっと彼らは別れも告げずに離ればなれになった。
そんなつもりじゃなかっただろう。
そう、この震災のもっとも哀しい側面のひとつは、
人々が、きちんと別れも告げずに
離ればなれになったことじゃないだろうか。
友だちや、家や、風景や、思い出と。


相双連合の四番を打つ中村公平くんも
友人たちとの再会を喜んでいる。
富岡高校の野球部は、彼ひとりになってしまった。
彼も一時期野球をあきらめたが、
周囲の応援もあって、ぎりぎり踏みとどまった。
そのおかげで、今日、みんながみんなに会えたのだ。





試合の開始時刻が近づく。
ぼくは、喜多方高校の応援席に行ってみる。
多くのドラマが重ねられていることをわかりつつ、
喜多方高校はきっと全力で勝ちに行く。
そこには、ふだんとは違う集中が必要だろう。

震災があちこちに影を落とす複雑な状況のなかで、
そこに野球があるということは
ぼくにとってたいへんありがたいことだ。
というよりも、その拠り所がなければ、
ぼくはここにいることができないだろう。

喜多方高校のナインはどういう気持ちだろうかと
あれこれ考えているぼくの思考は、
キャッチャーミットが鳴らす、
ぱちっという気持ちのいい音で吹っ飛んでしまった。
見れば、投球練習している喜多方高校の須藤投手。

そして、午後2時。試合がはじまる。
先攻、喜多方高校。
守備につく相双連合の先発は、林くん。

サードは相馬農業から、八巻くん。

ショートは富岡高校の中村くん。

さぁ、プレイボール!
しかし‥‥。

ヒットと守備のミスもあり、
あっという間に2点を失う。

守備の要、キャプテン遠藤君の強肩で
盗塁を阻止し、流れを止めたかに思えたが‥‥。

さらにヒットを許し、この回、3点を失う。

しかし、またしてもピンチを救ったのは
キャッチャー遠藤くんの肩。
1イニングにふたりを刺した。
さすがキャプテン。



1回裏、相双連合の攻撃。
しかし、あっさりと三者凡退。

その後も得点を重ねられ、
じわじわと引き離されていく。





7点差をつけられて迎えた4回裏。
いまだノーヒットの相双連合、
ベンチ前で円陣を組む。

先頭の大山くんがフォアボールを選び、
ノーアウトからのランナー。

ワンアウトを取られたあと、
遠藤くんもフォアボールを選ぶ。
一、二塁。反撃のチャンス。

しかし、あと1本が出ない!
相双連合、この回も無得点。

5回表、はじめて林くんが
喜多方の攻撃を0点に抑える。

5回裏、喜多方の先発須藤くんは、
けっきょく1本のヒットも許さぬまま交代。
しかし、2番手の小寺沢くんが、
また、いいんですよ。

5回裏、相双連合、無得点。
うーん、まったく流れがこない。

逆に、疲れの見え始めた林くんは
6回表、追加点を奪われ、8対0。

しかし、このままだと、コールドゲームだ。
7回を終えて7点差がついていると
その時点で試合は終わってしまうんです。
とにかく、なんとか塁に出たい相双連合だけど、
小寺沢くんのピッチングが、なにしろ、いい。

ややサイド気味のフォームから
キレのある直球を投げ込んでくる小寺沢くん。
とくに右打者は背中から球が来ますから打ちにくい。
そして、相双連合は左打者が少ない。

6回裏、じつに、三者三振!
小寺沢くん、ナイスピッチング!

6回を終えて8対0と喜多方高校リード。
ひょっとしたら、この点差を見て、
こんなふうに思う人がいるかもしれない。
「やっぱり、相双連合は
 急いでつくったチームだから
 実戦も練習も不足してるんだよ。
 しょうがない」
もちろん、そういう面はあるだろう。
けれども、この試合展開を、
ただそれだけをもって説明してしまうのは
ちょっと乱暴だと思う。

野球ファンとして忘れず記しておきたいことは、
喜多方高校が強い、ということである。

まず、ふたりのピッチャーがすばらしい。
二番手の小寺沢くんのよさはさきほど説明したが、
先発の須藤くんもじつによかった。
たぶん、ふだん野球を観てらっしゃる方なら、
つぎの1枚を写真を観れば
彼のよさがわかるのではないかと思う。

右足がすーっと低く伸びてくる。
工藤投手や杉内投手を彷彿とさせる理想的な体重移動。
しかも須藤くんは、適度に荒れていた。
一方、変わった小寺沢くんはテンポがよく、
とにかくびゅんびゅん投げてくる。

喜多方高校のよさは単に投手陣の充実に限らない。
たとえば、喜多方高校は
ツーアウトからでもしぶとくヒットが出る。
そして、林くんの持ち味である、
アウトコースへ逃げるボール球に手を出さない。

また、喜多方高校は控えのメンバーが
ものすごくよく声を出す。
一塁コーチャーズボックスに立つ
2年生の山田くんは、
攻撃時の喜多方のムードをつくっている
といっても過言ではない。

打っているときも、守っているときも、
喜多方高校はつねに集中を切らさず、
一度掌握した試合の「流れ」を相手に渡さない。
同じ8点差でも、ビッグイニングによるものでなく、
しぶとく点数を重ねているあたりが強さである。

そんなわけで試合は完全に喜多方高校のペース。
しかし7回表、林くんは、
5回に続いて喜多方打線を0点に抑えた。

さあ、7回裏だ。
この回、2点以上取らないと、試合は終わってしまう。
ベンチ前で組まれた円陣を観客席からのぞき込むと、
服部監督の短い指示が聞こえた。

「ランナーをためろ! いいな!」

そうだ、とにかくランナーをためないと。
なにしろ、相双連合は
まだ1本もヒットを打っていない。
このままでは終われない。

打席にキャプテンの遠藤くん。
ファウルで粘る。

しかし、三振! ワンアウト。
あとふたり。
どうにかしてほしいが、
小寺沢くんのボールに力がある。
観客席で、ぼくはある種の覚悟をする。
それはもう、しかたのないことだ。

しかし、せめてヒット1本、とぼくは願う。

打席に四番、中村くん。
富岡高校からただひとり参加。

どうなったと思う?

どうなったと思う?







相双連合、初ヒットがホームラン。
8対1。

「ホームラン」というのは
野球というスポーツのなかにあって、
かなり特殊である。

打球がスタンドへ入った瞬間、試合は止まる。
しかし、それは、チェンジになったり、
ファウルを打ったりしたときのように、
完全に止まっているわけではない。

ホームランを打った人が
3つのベースを踏んで一周して戻ってくるまで
ほかの人がなにもしないという、
極めて特殊な止まり方をする。

この一周のあいだ、試合は彼のためだけに動いている。
たんなる儀式ではなく
たしかに試合が動いているということは、
打者がベースを踏み忘れてアピールされた場合、
アウトになってしまうことからも明らかである。

つまり、ホームランを打った人は、
打球がフェンスを越えることによって、
ダイヤモンドを一周するあいだ、
試合の時間を自分だけのものにする権利を得る。

プロ野球でホームランを何本も打つような選手は、
その特殊な時間を噛みしめるように
ゆっくりとじっくりとベースを回る。
かつて元阪神の掛布選手は
「満員の球場で、試合が自分だけのものになる。
 それは最高に気持ちいいんです」とおっしゃっていた。
個人的な好みをいえば、
松井選手が一周するときの速度とテンションが
ぼくはいちばん好きである。
あの、淡々と、しかし味わいながら一周してくる感じが。

しかし、高校野球において、多くの場合、
ホームランを打った選手は
ダイヤモンドを全力疾走に近い速度で回ってくる。

高校球児は試合中、
どんなときも全力疾走を心がけているから、
ホームランを打ったときも
その基本姿勢が表れてしまうのかもしれない。
けれども、それだけではないとぼくは思う。

高校球児がホームランを打ったのに、
あんなに急いでホームへ帰ってくるのは、
仲間が待っているからではないかと思う。

はやくみんなのところに帰って、
いっしょに喜びを
分かち合いたいからではないかとぼくは思う。

















そして、その後に起こった小さなドラマも
忘れずに書き留めておきたい。

ツーアウトとなったあと、
林くんがライト前へヒット。

根本君もセンターへヒット。
ふたりの3年生がつなげて
一、二塁とランナーをためる。
球場のムードが明らかに変わる。





喜多方高校のキャッチャー、
飛弾くんがタイムをかけて
この試合はじめてマウンドへ。
いいチームだ、とここでもぼくは思う。
点差を考えれば、マウンドに集まるほどではない。
しかし、ちょっとした間をとってあげて、
ピッチャーに笑顔をとどける。
見事な配慮だなあと思う。



2年生の渡辺くん、空振り三振。
試合後、相双連合の服部監督は
それが全力の空振りであったことを高く評価する。

相双連合の短い夏は終わった。







両チームの健闘に大きな拍手。
「8対1」という数字だけでは計れない
すばらしい試合だったと思う。



そしてもうぼくには書くことがない。

























残念でした。

服部監督
「うん。
 しゃあないな。
 勝負だ」

大会歌を聴きたかったですね。

服部監督
「理事長に捧げられなかったから
 申し訳ねぇな」

最後のホームランがすばらしかったですね。

服部監督
「‥‥あれが3年生の思いだ」

はい‥‥‥‥。

服部監督
「まだまだダメなんだな、監督がな」

‥‥どんなチームでした。

服部監督
「まぁ、いいチームになったよ」

ありがとうございました。



この日のために駆けつけた
双葉翔陽の元キャプテンを囲んで。
ほんとうは、このメンバーで夏を戦うはずだった。

そして、光南高校から贈られた
千羽鶴を勝ち残る喜多方高校へ託す。

負けたチームから勝ったチームへは
「がんばって」「優勝して」でいいとして、
勝ったチームから、負けたチームへ
なんて言えばいいんだと思う?

喜多方高校の選手たちが
相双連合の中村くんに、
口々に言っていたことばを聞いて、
ぼくは「そうかぁ」と目からうろこが落ちた。

彼らは「ナイス・バッティング!」と言った。
なぜだか泣けてしょうがなかった。
あ、いや、泣いてませんよ。

そして最後のミーティング。
服部監督から、選手たちへ。

服部監督
「全国のみなさんが何を観たかったのか。
 それは、一所懸命全力でプレーする
 あなたがたの姿を応援してくれたんだと思います。
 
 ほんとに7回の練習しかさせられなくてな、
 我慢させて、やってきたっていうのは、
 ほんと申し訳なかったと思うけども、
 やっぱりなんていうの、できることがあるんだ。
 限られたことでも、なんかはできるわけだ。な。
 その積み重ねが今日のゲームだ。
 ほんとに、最後の、7回裏の攻撃、な。
 タケシが振ったから、コウヘイにつながって、
 コウヘイが打ったから、ユウタロウたちにつながって。
 3年生の思いだ、これは。
 やっぱり伊達に3年続けてきたことが、
 無駄ではないということだ、これな。
 そこのところ1年生はしっかり見習え、いいな。

 誰がやっていったかっていうんじゃなくて、
 それぞれが一人ひとりがやってきたものが
 ああやって、最後にグランドで出るんだよ。
 まぁな、勝負はまだまだなのは、
 それは俺の責任なんだから。
 お前らがあそこで結果出してくれたっていうのは、
 俺自身ほんとうれしかたったです。
 そんで最後、ヤストモ、2年生、
 全力の空振りで三振だ、これ。
 これがいまの力なんだね。

 ただ何にもやらないで、負けただけではない。
 いまの1、2年生も、
 来年に向けて力つけるしかねぇ、これ。
 で、いまの3年、2年生、1年生にしたって、
 今日できねぇのは、明日やればいい、
 10年後やればいい。
 そういう気持ちを持って。
 これからな、苦しいこと、いっぱい待ってます。
 それに負けないでほしいなっていうふうに思うし、
 ただな、おめぇらが
 ほんとに財産にしなきゃならないのは、
 おまえらがいちばん好きな野球やるために、な、
 どれだけの人がおまえらを支えてるのか。
 応援してくれてるのかっていうの、わかっとかないと。
 その思いを、今度はな、自分の行動で報いれるように、
 まぁ3年生はこれで終わりだから、
 後輩なり、今度は父ちゃん母ちゃんに返す番だ、これ。
 1、2年生は来年まだあんだから、
 そういう思い胸に積み重ねろ。
 いいな。

 ほんとにな、7回の練習ごくろうさまでした。
 でな、今日も、なんていうのかな、
 勝ち負けは別にして、俺らが持ってる全部をな、
 グラウンドで出してくれました。
 ほんとに、感謝の言葉しかないので、
 最後は、感謝の言葉で締めたいと思います。
 みんな、ありがとう。
 いいな、来年もあるんだから、がんばるぞ。
 いいな。
 じゃあ終わります。
 自分の荷物片付けろ」

服部監督は女子マネージャーを含む、
3年生全員と、握手をした。

ホームランボールを手に、
久しぶりに会った富岡高校の仲間と
笑顔を分かち合う。
ちなみに、このホームランが、
中村公平くんの公式戦初ホームランだった。

最後の夏の、最後の試合の、最終打席で、
チーム初ヒットとなるホームランが
彼にとっての最初のホームランだったのだ。

そんなことって、あると思う?

(つづきます。次回は7月25日月曜日の予定です)

参考:にっぽんの高校野球 東北特別版(ベースボール・マガジン社)



2011-07-22-FRI