南会津高校

こんな高校がありますよ、と
朝日新聞の方から聞いた。

南会津高校。
3年生、3人。
2年生、0人。

過去2年間、部員不足により、大会には参加していない。
しかし、今年、3年生の熱心な勧誘により、
5人の1年生が野球部に入部。
ついに、晴れて夏の大会に参加することが‥‥んん?

3年生、3人。
2年生、0人。
1年生、5人。

‥‥8人じゃん。足りないじゃん。
えっ、残りはスキー部員がヘルプ?
それが、南会津高校である。

3年振りの大会参加。
3年生にとっては、最初で最後の夏となる。

取材したい、とぼくは強く感じた。

調べてみたところ、
南会津高校は福島県を縦断する東北本線の駅から
ずいぶん離れたところにある。
っていうか、その、ここ、どうやって行けばいいんだ?

とりあえず、取材を申し込み、
趣旨を説明したついでに、
どうやってそちらにうかがうのがよいでしょうかと
素直に訊いてみる。
東京からなんですけど。

電話口の先生は、しばし考えたのち、
「車でいらっしゃいますよね?」とおっしゃる。
いいえ。あの、できれば、
電車と、あとは、バスとかそういう交通機関で。

「ちょうどいい交通機関が、ないんですよね」と先生。
ない? ないってどういうことですか、先生?

さまざまなルートを検討した結果、
新幹線で新白河まで行って、
そこからレンタカーを借りることに決定。
久々だな、レンタカーって。

ともあれ、晴天の日曜日、西へと走る。
仕事だし、取材で来てるんだから、
きれいな風景には目もくれず、
ただの移動行為として、西へ。













え? 途中で蕎麦を食べてる?
食べてません、食べてません、
仕事ですから。取材ですから。
いや、しかし、あの卵、ぷりっぷりだったなぁ‥‥。
福島の美しい風景を堪能しつつ、
着きましたよ、
福島県南会津郡南会津町、南会津高校。

日曜日とあって、校舎に人影はない。
ほんとにここでよかったのかな、と思っていると
どこからともなく夏の効果音が聞こえる。
つまり、野手のかけ声と、金属音。


いや、しかし、部員がぎりぎりの人数なのに、
どうやって練習しているのかなと思ってたら‥‥
おや? 練習試合?
にしては、しかし、相手チームが
高校生らしからぬ風貌‥‥。


「取材の方ですよね」と
歩み寄ってきた若いおにいちゃんに軽く自己紹介し、
監督さんはいらっしゃいますか、と訊く。
「ハイ、私です」とおにいちゃん。
わっ、あっ、こりゃ失礼いたしました。

「いま、OBチームと練習試合をやってるんで、
 終わるまで待ってもらってもいいですか。
 すいません、ぼくも試合に参加してるんで」

ああ、もちろん、もちろん。
じゃあ、適当にうろうろしてますね。
写真は撮ってもいいですか?

もちろん、と言い残して、若き監督は守備についた。
うーん、失礼ながら、野球部の監督というより、
草野球に興じる社会人、という感じである。
しばし、練習試合を見学。













練習試合だからといって、
OBチームが現役チームを指導しているかというと
まったくもってそんな様子はない。
それどころか、OBチーム、
長打をかっ飛ばしたりすると、大喜びしている。

あの、なんていうんでしょう、
こういうことを言うのはたいへん失礼ですけれども、
ちょっと、入れてもらいたくなる。

あれ、俺はなにしに来たんだっけな、
という気分になる。
そう、あまりにものどかで豊かな風景だし。











しかし、あれだ、1年生が中心のチームだけあって、
パッと見のルックスがやっぱり高校らしくない。
だって、この春まで中学生だった子たちだからね。







たっぷりのんびり写真を撮ったりしていると、
練習試合は終了。
スコアボードとかなかったんですけど、
なんか、OBチームが勝ったみたいです。

いやぁ、お待たせしました、と、
おにいちゃん、あ、いや監督さんがやってくる。
どうぞよろしくお願いします。

猪股監督
「よろしくお願いします」

監督も、南会津野球部のOBでいらっしゃるんですか?

猪股監督
「いえ、わたしは実は野球は専門じゃないんです。
 いちおう、この学校の卒業生ではあるんですが、
 スキー部です」

スキー部OB。

猪股監督
「というか、スキー部の監督です」

スキー部監督!
あの、失礼ですけど、
いまおいくつでいらっしゃいますか。

猪股監督
「33です」

若い! 全国的に見ても、
参加校の中でずいぶん若い監督じゃないでしょうか。
しかし、あの、どういう経緯で野球部の監督を?

猪股監督
「わたしはこの高校の保健体育の教員でして、
 この学校はスキーの強豪校なので、
 スキー部の監督もさせてもらってるんですが、
 ご存じのように、ここ2年、野球部が
 人数が少なくて大会に出られなかったんですね。
 で、このあたりの地方は、
 少年野球はふつうに盛んなんですが、
 やっぱり、高校で野球部が活動してないとなると、
 進学してくる子が少なくなるんですね」

ああ、なるほど。

猪股監督
「ですから、学校としては、やっぱり、
 野球部をなんとか存続させたいと。
 それで、誰か‥‥ということになって、
 わたしに矛先が向いたと」

白羽の矢が立ったと。

猪股監督
「ああ、そうそう、白羽の矢が。
 ま、なんとかやってくれと。
 しかし、スキー部との両立なので、
 家庭のこともあるので、
 いろいろ揉めたんですが‥‥」

ま、家庭のことはさておき。

猪股監督
「わたし、こう見えても子どもが3人いまして」

ま、家庭のことはさておき。

猪股監督
「ええ、家庭のことはさておきね、
 1年か2年ならということで、
 やらせてもらってるんですけど。
 あ、でも、野球は趣味でやってましてね、
 野球のおもしろさはすごくわかってますので、
 まぁ、高校で野球をやりたいっていう子がいれば
 それはぜひ力になってあげたいな
 と思ってやってるんですけどね」

なるほど、なるほど。
このチームにスキー部が5人いるんですよね?

猪股監督
「はい。
 今日投げた2番手はスキー部です」

あ、そうでしたか。
けっこういい球投げてましたね。
あの、最後に投げたちっちゃい子も?

猪股監督
「彼もスキー部です」

スキー部とはいえ、野球経験者なんですよね?

猪股監督
「そうですね、みんな中学校で経験して、
 会津大会や福島県大会に出ていたような子です」

うん、そうじゃなきゃ、
あれだけできないですよね。

猪股監督
「スキー部として、走ったり、筋トレしたりして、
 からだはちゃんとつくってますから。
 けっこう、野球もいけるんですよ、スキー部。
 あと、わたしのなかで、
 どんなスポーツでもできたほうがいい
 っていう気持ちがあるのでね。
 スキーだけっていうより、
 野球もふつうにできたほうがいいと思うんですよ。
 スキーはシーズンオフが長いので
 夏のあいだにモチベーションが
 維持できないという部分もありますし」

ああ、なるほど、なるほど。

猪股監督
「ぜんぶ、ちゃんとやってれば、
 じぶんに活きてくることだと思うので、
 真剣に、一所懸命やってもらってます」 

チームの仕上がりとしてはどうでしょう。

猪股監督
「うーん、やっぱり、いままでは、
 人数がそろわなかったところがあるので、
 最近ようやくまとまってきたところで。
 昨日も他校と練習試合ができて。
 まぁ、大敗しましたけど、
 もう、はじまってしまいますのでね、
 なんとか、1回戦、試合になればなと」

観ていると、けっこう
1年生とは思えない子もいますよね。

猪股監督
「ああ、そうですね」

ショートとか、そうとう上手だなと。

猪股監督
「‥‥‥‥ショートは、スキー部です」

あ。し、失礼しました。

猪股監督
「いや、でも、ショートの彼は打撃もいいですし、
 守備も安心して見てられます。
 彼は中学のとき軟式野球をやっていて、
 県で優勝したチームにいたんじゃなかったかな」

ああ、そうでしょうね。
もう、見るからにセンスがいい。

猪股監督
「そういうところでやってた子たちが
 けっこういるんですよ」

おもしろいですね。
3年生は、最初で最後の夏になります。

猪股監督
「そうですね。
 3年生は、いままでずっと我慢して、
 試合にも出れずにやってきたので、
 とにかく試合に出してあげたいっていうのと、
 あとは、あの夏の独特の雰囲気と、
 緊張感を味わうだけでも、
 なにか感じでもらえるんじゃないかなぁ
 と思っているんですけど。
 あとは、まぁ、3年生が卒業したあと、
 1年生が5人になってしまうのでね、
 スキー部を5人入れたのは、
 3年生が卒業したあとも、
 なんとかチームを維持できないかと
 思ってのことです。
 10人いれば、なんとか秋の大会まで
 つなげるんじゃないかなと」

ああー、なるほど。
たしかに、ここで終わってほしくないですもんね。

猪股監督
「そうですね。
 まぁ、田舎の子どもたちなのでね、
 県大会のような大きな舞台に連れて行くだけでも、
 十分、違った世界が見られるかなと思ってます」

ありがとうございます。
いや、来てよかったです。

猪股監督
「こんな遠くまで、ありがとうございます。
 今日は、車ですか?」

そうです。新白河から、レンタカーで。

猪股監督
「あ、そうですか。
 新白河だと、2時間くらいですか。
 2時間はかかんないかな」

そうですね。
ただ、今日は途中でのんびり蕎麦食っちゃったんで。

猪股監督
「ははははは」

しばし、この近辺の蕎麦談義をしたあと、
選手にも取材させていただくことにした。
まずは、じつに高校球児らしい精悍な印象のある、
キャプテンの馬場駿くん。

馬場くん、ポジションはどこですか。

馬場くん
「レフトです」

はじめての大会ですね。
ようやく、という気持ちですか?

馬場くん
「はい。自分が1年生のときは、
 先輩方が2人しかいなくて、
 自分たちと合わせても5人だったんですけど、
 そのときから、いまの1年生の学年の人たちが
 野球部に入ってきてくれるっていうのを聞いてたので
 2年間、野球を続けてきました」

あ、じゃあ、はいってくれるっていう
約束をたよりに、2年間、待ってたんだ。

馬場くん
「はい」

そっかぁ‥‥‥‥。
こないだ、会津地方の大会があって、
それがはじめての公式戦だった聞きましたけど。

馬場くん
「はい。負けてしまったんですけど」

ちなみにスコアは?

馬場くん
「16対0でした」

ああ、そうですか。
もう、来週は、大会がはじまります。

馬場くん
「はい。公式戦は、最後の大会を合わせて
 3年間で2回だけになりますけど、
 その2回で、ぜんぶ出し切ればいいと思ってます。
 後悔しないように」

後悔しないように。うん。
目標は?

馬場くん
「出場するからには、勝利を」

勝利を、言い切れるまっすぐさに、
じーんとしてしまってヤバいのですが、
ぼくの目標は「できるだけ泣くまい」ですから、
空とか見たりしてごまかします。

せっかくですから、3年生全員に話を聞きます。
もっともシャイで、言葉数の少ない3年生、星圭吾くん。
このチーム、「星くん」が3人いるので、
圭吾くんと呼びますね。

ポジションから教えてください。

圭吾くん
「ライトです」

1年生を熱心に勧誘したそうですね。

圭吾くん
「はい‥‥そうですね」

メンバーがそろって、よかったですね。

圭吾くん
「‥‥はい」

来週、いよいよ大会ですけど、
1回戦、不安と、たのしみと、
どちらのほうが大きいですか?

圭吾くん
「‥‥たのしみ」

ああ、そうですか。
いい試合になるといいですね。

圭吾くん
「ありがとうございます」

カメラを向けると、ますます表情が硬くなって、
マイクを向けると、ますます無口になる、圭吾くん。
たぶん、器用になんでもこなせるような
タイプじゃないと思うんですが、
最初で最後の夏、がんばってほしい。

さて、最後の3年生は四番でサードです。
芳賀有貴哉くん。
みんなからは「ユキヤ」と呼ばれています。


今日は、サードからいい声が出てましたね。
みんなを引っ張ってる感じがしました。

ユキヤくん
「ありがとうございます!」

最後の夏にかける気持ちを聞かせてください。

ユキヤくん
「やっぱり、勝ちたいですね」

あー、そっか。
やっぱり、一番最初にそれが出てくる。

ユキヤくん
「はい(笑)。
 やっぱり、出るからには勝ちたいですし、
 ここまでいろんな人に助けられたり、
 支えられてきたところもあるので、
 その恩返し的な部分も含めて
 やっぱり、勝ちたいと思ってます」

これまで、人数が足りなくて、
たいへんだったと思うけど。

ユキヤくん
「そうですね。
 去年の夏がおわって、上級生が引退してから、
 ほんとに3人だけになっちゃって、
 そのころやっぱ、さみしくなったというか、
 ちょっとみんな腐ってしまったというか、
 やる気がなくなるようなこともあって、
 そこらへんがちょっときつかったですけど。
 でも、1年生を集めるために、
 チラシをつくって、くばったりして」

熱心に勧誘したと聞きました。

ユキヤくん
「はい。新入生の合格発表のときから。
 そのときから、いまのキャッチャーとか、
 ご両親にもきちんと野球部のことを話して、
 いっしょにがんばろうみたいなことを話したりして。
 だから、今年は、絶対やってやろうと思って」

スキー部の応援も含めて人数がそろって、
夏の大会に出られるとわかったときは、
どんな気持ちでしたか。

ユキヤくん
「うれしかったです」

たぶん、実戦経験とか、
ぜんぜん足りてないと思うけど、
不安とたのしみと、
どっちが大きいかっていうとやっぱり‥‥。

ユキヤくん
「たのしみです」

そうだね、やっぱり(笑)。

ユキヤくん
「人数がそろってはじめて試合は、
 中学生のチームとの軟式の試合だったんです。
 そのときは、まぁ、負けちゃって、
 そのあと、OBの方とも試合をしたんですが、
 めちゃくちゃな点差で負けたんですね。
 でも、今日はずいぶんいい試合ができたし」

うん。見てる限り、互角にやってましたよ。

ユキヤくん
「はい、だから、
 どんどんうまくなってる実感があるので
 この調子でどんどんやっていきたいです」

ありがとうございました。

ユキヤくん
「ありがとうございました!」

きっと、もっともっと、
野球がやりたいんだろうな、とぼくは思った。
だって、なにしろ、
「どんどんうまくなってる実感がある」んだもの。
どういう気分だろうなぁ、
「どんどんうまくなってる実感がある」って。

よし、3年生、3人で写真撮ろうぜ。

1年生のエース、
五十嵐脩晴くんにも話を聞いてみました。
ナイスピッチングでした。

五十嵐くん
「ありがとうございます」

見てると、1年生とは思えないほど
きちんとしたピッチングをしてて、
人数の足りない野球部に入るって決めるのには、
決断が必要だったんじゃないかなと思ったんですが、
そのあたりはどうですか。

五十嵐くん
「まぁ、最初はずっと悩んでたんですけど、
 入試の前とかで、文化祭とかそういうときに、
 いまの3年生の先輩から、
 野球部、人足りないから入ってくれって言われて。
 それでも、やっぱり人がいるチームに
 入るべきかなって思ったんですけど、
 でも、中学校も一緒にがんばってきてたので、
 やっぱりいっしょに戦って
 高校生活のいい思い出を
 つくってもらいたいなって思って」

ああ、中学のときから先輩だったんだ。

五十嵐くん
「はい」

それは、3年生のうちの誰?

五十嵐くん
「全員です。3人全員」

ああ、そうだったんだ。
3人が全員、中学校の先輩で、
足りないから入ってくれよって言われて。

五十嵐くん
「そうです。
 だから、3年生のためにも、
 いいピッチング、バッティングして、
 1回戦は絶対勝ちたいと思っています」

ああ、もう、話を聞いてると
つい、じーんとしてしまって、
無意味に空とか山とかを眺めてしまう。
最後に、3番手で投げてたスキー部の1年生、
平野亨くんに聞きました。
パッと見、ちっちゃいけど、
いい球投げてたんですよ、トオルくん。

スキー部ですけど、
もちろん野球経験はあるんですよね。

トオルくん
「はい。
 いちおう、キャプテンとかやってました」

でも野球部じゃなくて、
スキー部を選んだのは?

トオルくん
「スキーのほうで大会とかに出て、
 けっこういい成績が残せたので、
 それで、スキー部に入りました」

ひょっとしたら、
マウンドに上がるかもしれないわけだけど、
どんな気分ですか?

トオルくん
「やるからには、がんばって、
 足引っ張らないように。
 少しでも貢献できるようにがんばりたいです」

どうもありがとう。
あ、その髪は、そのまま?

トオルくん
「あ、そうですね(笑)」

切ってこいって言われなかった?

トオルくん
「言われ‥‥ちょっと言われました」

ははははは。

正直、もっと簡単な取材になるかなと思ってた。
でも、やっぱり引き込まれてしまった。
たぶん、高校の数だけ、ドラマがあって、
入り込めば入り込むほど、
どんどん引き込まれてしまうのだと思う。

たぶん、それは、福島県だけではないし、
野球部だけに限らないのだと思う。

取材を終えて、
南会津高校の初戦を見届けようと
ぼくは決めた。

そしてレンタカーで、新白河の駅に向かう。
運転しながら、
福島県は広いなとしみじみ感じた。

(つづきます)



2011-07-20-WED