体温のある指導者・番外篇。
藤田元司さんと、チーム論や石の話など。

ぼくは藤田元司巨人軍元監督を、無条件で尊敬しています。
いちばんひどい年には、ぼくは年間70試合を観戦しました。
藤田さんのやること、なすこと、考え方を、
和尚さんの後ろをついて歩く小坊主のように
全部吸収したいという気持があったのです。
たくさんの企業や組織のリーダーにお会いしてきましたが、
根元のところでぼくに大きな影響を与えてくれた方は、
この方だったとも言えます。

去年の暮れに大好評だった「体温のある指導者」から半年、
今秋の「300歳で300分」のイベント打ちあわせの合間に
ふと聞いた、まかないめしのような語りを、おとどけです。
何気ない1時間の会話だったのですが、
ぼくたちだけで聞いているのも、もったいないなぁ、
と思ったものですから。どうぞ、おたのしみください。

5 石から釣りへ。
 

糸井 藤田さんの石のお話は、はじめて聞きました。
藤田 ぼく、石は、長かったですよー。
糸井 長かったですか。
藤田 ええ。
六本木に住んでるころは、
ほんとに集めに集めてね……。
これぐらいの石、昭和30年や40年で
何十万とするものを買ってくるんですから。

相手だって、石好きで、売りたくないものを。
糸井 他人から見てたら、
何してんだろうと思うようなやりとり(笑)。
藤田 名古屋なんか遠征に行くと、
3日間、石を集めたその家に
通ってるんですから。
糸井 それは、出番があってもですか?
藤田 はい。
朝起きたら行って、試合前に帰ってくるんですよ。
その間、ずーっとその家の部屋を見てまわってね。
糸井 「あれはいいな」とか?
藤田 はい。
その前に座って離れなかったりね。
糸井 よっぽど欲しいんだな、と思わせるわけ?
藤田 はい。
それがね、またね、見事な石があって。

こう、ワラの家がありますでしょ。
ああいうふうなこうポッコリした屋根があって、
その下に灯籠のように舞台があって、
下にこう、台がついてましてね。
……という形の石が、自然にできてるんです。

ワラ葺きの屋根の上に
雪が積もったように白くなってましてね。
その下に、ちゃんとこう、
人が住んでるように窓枠がこうついて。
で、その下に土台があるっていう。
自然にそんなもん、できてるんですよ。
糸井 はぁー。
藤田 川上さんは削り出して、
いい形を作るのをやりたがるんですよ。
糸井 川上さんらしいですねぇ〜。
藤田 ぼくは、自然なままがいいから、
川行って、そういう石を探してみたりね。
糸井 ってことは、藤田さんは、
ピッチャーだった時代に、河原をフラフラしてた?
藤田 ウロつきましたよ。うん。
糸井 誰か見てて、あれ藤田じゃないか?とか。
藤田 そういう人は、あんまりいなかったですけどね。
だから、選手時代は、
上を向いて歩いたことなかったです、ぼくは。
石ばっかり見て歩いてまして(笑)。
糸井 (笑)そんなことしてたんですか。
飽きずにそれを続けて……?
藤田 やってました。
10年以上、やってましたね。

溜まって溜まって、当時住んでいた
麻布十番のところへ、鉄屋さんに頼んで、
鉄の棚を作ってもらっていたほどです。
普通の棚じゃあ、石が重くて崩れるものですから。
糸井 置けないんだ。石だから(笑)。
藤田 マンションなもんですからね、
床抜けたら大変ですよ。
それで、少しずつ人に、貰ってもらいましてね。
糸井 手放す時は、もう、平気になるんですか?
藤田 もう、あの、飽きてくるんですね、だんだん。
糸井 その景色に(笑)。
藤田 ええ。
それでまた、新しい石が欲しくなるんですね。
糸井 石に入った、きっかけがあるんですか?
藤田 あるとき、偶然ね、石の本を見たんですよ。
そしたらもう、いろんな石があるんですよね。
山の景色、海の景色、川上の景色。
みんな、見事にあるんです……。
石の前には、ちょっと盆栽やりましたけど。
糸井 よく、植物にいって、石にいって、
趣味はおしまい、っていう話を聞きますけど。
藤田 ぼくは釣りまでいきましたけど。
糸井 え? 石の後が釣りなんですか。
藤田 ええ、そうなんですよ。
糸井 じゃ、ずいぶん釣りは、遅く始めたんですね。
藤田 そうですね、
現役辞めてからじゃないと、
できなかったですから。
子どもの頃からずっと離れてたですからね。
糸井 あの、試合の途中、
遠征の途中で釣りに行った話とかは?
藤田 あれは高知キャンプの時。
だからもう、肉体労働派じゃなくなって……。
糸井 藤田さん、ひどいんだよ。
途中関係ないとこで降りて、釣りして(笑)。
信じられない。
藤田 遠征のバッグの中には必ずね、
これぐらいの竿を、入れとくんですよ。
伸ばしてもこれぐらいにしかなりませんけどね。
それでも、それを持っていって。
で、旅先では必ず土地の釣り道具屋行って、
そこの名物を探すんですよね。
糸井 あれ、釣りやってる間っていうのは、
水を見ただけでもう、ダメですよねー。
藤田 あれね、おかしなもんですねぇ。
糸井 今でも残ってますか?それは。
藤田 僕は、思い出してますよ。
さすがに水たまりには
竿出さなくなりましたけどね(笑)。
糸井 でも、ハマってる時には、
もう、水たまり見ただけでもう、なんか‥‥。
藤田 もう、燃えてくる。
糸井 (笑)「何がどういそうか?」って、見えますよねぇ。
どんな釣りでも、取り柄があるんですよね。
藤田 そうですね。ほんと。

台風の時にね、
川上さんが近所なもんだから、
雨がどしゃ降りなのに、
「オーイ」って声かけてきて。
「オイ、ちょっと川行こうか」っていって。
糸井 台風のときに(笑)。
藤田 山入っていったんですよ。
そしたら、ガンガン流れてんですよね。
釣っても釣れるわけない。
次の日に同じとこ行ったら、川じゃなかった。
溢れた水が、そこを流れていただけなんです。

特に、ぼくの場合は、メジナはよく釣りました。
よーく引きますから、鯛やなんかよりおもしろい。
グッグッグッグッ引きますよね……。
当たりでグーン!ときたときはね、
ちょっとやっぱり、ドキドキっとしますよ。
糸井 ぼくが釣りの中でいちばん好きなのは、
まぁ、いろいろな場面が好きなんですけど、
「当たり」なんですよ。
藤田 ええ。食いつく瞬間。いいもんですよ(笑)。
糸井 当たりのうれしさと言ったら……。
あの、ぼくは湖が多かったんですけども、
ひとりで誰もいないところに行って、
まわり誰もいないところでひとりで釣っている。
人間は僕しかいないですよね。
鳥が、まあ、チュンチュンいってて。
……それで、やってるときに、
最初に「プッ」てアタリが来た時に、
「もうひとり生き物がいた!」
っていう感じがするんですよねぇ。
藤田 (笑)あはははは。
糸井 「オレとおまえ」って(笑)。
もう、なんだろう?
友情ですよね、一種の(笑)。
藤田 そうなんです(笑)。
糸井 ねぇ……。
魚にとっては、悪いことしてんのにね。
なのに、ありがとう!って気分になんですよ。
(こんなように、ふたりの会話は続いていきました。
 ここ数日の対談は、今回で、いったん終わりにします。
 秋のイベントでの藤田さんの言葉を、おたのしみにね!)


  体温のある指導者・番外篇。
2003-07-01 第1回 スーパースターは不器用。
  2003-07-02 第2回 チームは人間そのものです。
  2003-07-03 第3回 そのさびしさに、驚いた。
  2003-07-04 第4回 石と禅のことなど。

  これまでの藤田元司さん
  「体温のある指導者」(2002.10.30〜11.18)

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2003-07-06-SUN

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