ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-03-25-WED

インザーギ、300ゴール達成の日。

人生の大きな夢を叶えるのは、
なかなか難しいものです。
でも、鉄のように強い性格の少年なら、
その並外れた意志の強さで
夢を叶えることもあります。
ここに、そんな少年だった
ひとりのサッカー選手がいます。

ボールを蹴り始めた子ども時代から、
フィリッポ・インザーギは
この3月15日のような日を待ち続けてきました。
彼はこの日、
ゴールの公式通算記録300本を達成したのです。

プロのサッカー選手が300ゴールを記録することは
ひとつの目標ではありましょうが、
ほとんど実現不可能な夢とも言えます。
古今東西の全サッカー史上で最も愛された選手のひとり
ロベルト・バッジョですら、
318ゴールの記録はとんでもない快挙だったのですからね。

「でも、バッジョの残したような
 到達点にたどりつくためなら、
 どんな努力も惜しみませんよ。
 たしかに彼は並みのスターではないけれど、
 同じサッカー選手であることに変りはありませんから」
と、インザーギは言います。

アタッカーにとって、ゴールの才能は天からの授かり物。
でもインザーギの300ゴールにはさらに、
2倍も3倍もの価値があります。
それは、どれもが大きな素晴らしい勝利に貢献してきた
という価値です。

インザーギは、
「サッカー選手として勝ち取れるもの」
そのすべてを手に入れてきました。
スクデットを2つ(ユーヴェとACミランで)、
UEFAチャンピオンズ・リーグ優勝2回、
UEFAスーパーカップ優勝2回、
2年前には日本での決勝戦で
FIFAクラブワールドカップ優勝をもぎとり、
2006年W杯ドイツ大会でも
アズーリの一員として優勝を飾っています。

 

中でも素晴らしいゴールは?

ぼくは長年に渡って彼を知っています。
ですからこうして彼の300ゴール記録の感動を
読者のみなさんにお話しすることは、
1965年からジャーナリストとして働いている
ぼくにとっての「光栄のゴール」みたいなものです。

インザーギは8月で36歳になりますが、
ゴールを入れた時はいつでも、
素晴らしいプレゼントをもらった少年のような
ピュアな笑顔を見せます。

インザーギは言います。
「ぼくはいつでもチームの目標を
 ぼく自身の目標として尊重してきました。
 でも今、自分の記録より18本多い
 ロベルト・バッジョに追い付けたらいいなと、
 ぼく自身が願っていることも否定しません。
 いずれにせよ、ゴールというものは、
 ぼくの人生の経験に何かを加えてくれます。
 ゴールを決めることはアタッカーにとって、
 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むようなもの。
 自分をきれいにしてくれて、
 寿命ものびる気がするんです」

インザーギは、300ゴールのどれもが
素晴らしいゴールだと思っています。
でもその中の何本かは「とても素晴らしい」のだと。
「おおげさに言えば、
 ゴールは自分の子どもたちなんです。
 どの子も素晴らしい。
 でも‥‥でも、中には
 とっても素晴らしい子がいたり‥‥‥」

どのゴールが印象的だったのでしょうか?
「2007年のUEFAチャンピオンズ・リーグ決勝戦、
 2本目のゴールです。
 1本目は、PKでピルロが蹴ったボールが
 壁の中にいたぼくの腿に当たってゴールしたので、
 ぜんぜん満足ではありませんでした。
 ぼくは額に入れて飾りたいくらいのゴールで、
 その試合をしめくくりたかったんです。
 2本目をきれいに入れて優勝しましたから、
 リバプ−ルに勝ってからしばらくの間は、
 嬉しくて嬉しくて、夜も眠れませんでしたよ」

 

引退の決断は、自身で。

キャリア初ゴールについて、インザーギは、
どうもあまり思い出したくないようです。
「セリエAでの最初のゴールの時、
 ぼくはパルマに所属していて、
 2対2にしたのですがあまり喜べませんでした。
 対戦相手が、ぼくの故郷の
 ピアチェンツァだったからです」

8月には36歳になりますが、
世界中にいる彼のティフォーゾたちに
何かを約束してくれるでしょうか?
「あと300本ゴールするとは
 約束できませんけど、
 最高のレベルでキャリアを終えると約束します。
 もうダメかなと思ったら、
 引退の決断はぼく自身が下すつもりです」

なるほど。
たしかに彼ほどの選手なら
「主役」以外の役は
気に入らないでしょうねぇ。


訳者のひとこと

日本では
「色男、金と力は無かりけり」
なんて言いますが、
ベビーフェイスのインザーギ、
底力を見よと言わんばかりの
快挙ですね。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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