怪・その17
「お送りしたあとに」
勤務医をしています。
患者さんに関わる内容ですが、
30年以上経ったので
投稿できるかもしれないと考えました。
1990年の冬頃の体験です。
当時、医師国家試験合格後3年目
(現在でいう後期研修医)の立場でした。
今のような緩和医療は
あまり行われていなかった時代です。
長く入院なさっていた末期癌の患者さんが
亡くなる間際に、ご家族のご希望も強く、
心肺蘇生を行いましたが、
やはり蘇生はかないませんでした。
看護師さんたちと一緒に
ご遺体にエンゼルケアをして、
その日のうちにお送りした頃には、
未明近くになっていました。
当直室のベッドでうつらうつらしていたら、
私の顔のすぐ前で、
先程お見送りした患者さんの声が聞こえたのです。
少し怒った感じでした。
「胸を強く押されて苦しかった」
と仰って、ほら、と
私の胸をかなり強く押してきたので、
ほんとうに息が出来なくなりました。
目を開いたら、もう、
どなたもいらっしゃいませんでした。
(y)