嘘に共感し、嘘に怒り、嘘に感動する。
ニュースやSNSを見ていると、
客観的な「事実」よりも、
感情に訴える「嘘」が人々を動かす
「ポスト真実」という考え方が、
より広がってきているように思います。
そもそも、なぜ人は嘘をつき、
嘘にだまされてしまうのでしょうか? 
許される嘘と許されない嘘のちがいは、
どこにあるというのでしょうか? 
世界中のセレブを魅了するマジシャンとして、
「嘘をつくこと」「人をだますこと」に
人生をかけてきた前田知洋さんに、
嘘とマジックにまつわるお話を、
たっぷりと教えていただきました。
担当は「ほぼ日」の稲崎です。

マジックの世界

──
プロのマジシャンというのは、
他のマジシャンのトリックを、
かんたんに見抜けるものなんですか?
前田
ぼくはトリックを見抜くことに、
価値があるとは思っていませんが、
そういう目で見れば、
だいたいのトリックは見抜けると思います。
──
へぇーー。
前田
というのも、
マジックの基本的な構造は、
じつは数えるほどしかないんです。

たとえば、
お客さんが選んだカードを
当てるというマジックは、
「そのカードを選んだあとに知る」
「そのカードしか選ばせない」
の2択しかありません。

そういう意味では、
トリックを見抜くのは、
それほど難しいことではないんです。
──
もしどんなトリックでも
かんたんに見抜けるなら、
前田さんにとって、
マジシャンの上手い下手って、
なにで決まるのでしょうか。
前田
うーん、そうですね‥‥。
プロマジシャンに必要なことって、
「マジックが見たいから」
という理由で呼ばれているようでは、
まだまだなんです。
──
‥‥と、いいますと?
前田
ぼくらが目指すべきは
「誰々のマジックがみたい」なんです。

服だったら「グッチがほしい」、
車だったら「フェラーリがほしい」みたいに、
「他のマジックじゃなく、
前田さんのマジックがみたい」
と思ってもらわなければ、
プロとしては成りたちません。

その差別化をどうするかは、
マジックの技術とは、
あまり関係がないような気がします。
──
技術だけの話ではないと。
前田
もちろん技術は必要なんですが、
それだけではダメなんです。

ときどき見てる人のなかにも、
マジシャンという職業は
「選んだカードを当てられるからすごい」と、
思っている人がいます。
そういう人はタネがあかされると、
マジックの価値が下がると思ってしまいます。
──
ああ、なるほど。
トリックという「秘密」に、
価値があると思っているから。
前田
ぼくからすると、
その発想は
ちょっとナンセンスなんです。

だって、ぼくたちの仕事って
「どうやったらお客さんに、
自分を好きになってもらえるか」を
考えることだと思っているので。
──
なるほど。
前田
現実的な話をすると、
「前田さんのマジックを
お金を払ってでも見たい」とか
「お金を払ってでも前田さんを雇いたい」
と思ってもらわないと、
ぼくは生活ができません。

お客さんにどうやって、
ぼくのことを好きになってもらうか。
どうやってショーをたのしんでもらうか。
そこの部分に関しては、
タネやシカケはあまり関係ないんです。
──
いまのお話をうかがって、
落語にちょっと似ていると思いました。
オチもストーリーも知ってるけど、
好きな落語家の噺って、
なんどでも聞きたいというか‥‥。
前田
あ、そうかもしれないですね。
さっき「文化と科学」の
話をしましたが、
トリックがどうなっているかというのは、
やっぱり科学の領域の話なんです。
──
あぁ‥‥。
前田
結局、マジックを
科学的にとらえようとすると、
「どうだ、オレのタネはわからないだろ」とか
「アイツのマジックはバレバレだ」とか、
そういうことを競いはじめます。
ぼくは、マジックの世界というのは、
そういうものじゃない気がするんです。
──
前田さんご自身は
どういうマジックが好きなんですか?
前田
ぼくはマジックをつくるときも、
観客としてたのしむときも、
タネやシカケではなく
「テーマ」を見るのが好きなんです。
──
テーマ?
前田
なぜそのマジックを選び、
なぜそのマジックを、
そのステージでやろうと思ったのか、
そういうところを見てしまいます。

たとえば、
ぼくのマジックのなかに、
「破ったカードを、
お客さんの手のなかでもとに戻す」
というのがあります。
ぼくがなぜ、
そのマジックをするかというと、
人の深層心理のなかに、
「こわれた友情や愛情を、もとに戻したい」
という願望があると思ったからなんです。
──
ほう。
前田
いちどバラバラになった
友情や愛情というものは、
どれだけ人が望んだとしても、
ほとんどのケースで
前と同じ状態にはならないと思うんです。

「あの人との関係がもとに戻せたら」
と思っていたとしても、
「いちど壊れてしまったものは‥‥」と、
これまでの人生経験から、
なんとなく知っていたりします。
──
はい。
前田
でも、マジックの世界なら
バラバラになったカードでも、
ティーカップでも、
目の前でもとに戻すことができます。

もしかしたら、
そのマジックをすることで、
失恋した人をちょっとは、
勇気づけられるかもしれません。
──
見る人が、ティーカップと自分を
重ね合わせるわけですね。
前田
はい。さらに、
テクニック的な話をすると、
そのティーカップは
「その人にとって、
かけがえのないもの」
でなければなりません。
──
なんでもいいわけじゃない?
前田
どこにでもあるカップをもとに戻しても、
人はよろこばないんです。
でも、そのティーカップが
別れた彼がプレゼントしてくれたものと、
まったく同じものだったら‥‥。
──
たしかに、それは‥‥。
前田
そういうマジックには、
「バラバラのものがもとに戻った」
というおどろき以上の、
人の心に届く何かがあると思うんです。

ぼくは、そういうものこそが、
マジックだと思っています。

(つづきます)
2018-01-09-TUE