質問:
佐伯さんはどんな監督になろうと思って
これまでやってきたのですか?
私はプロ選手出身でもないですし、
闇雲に上を目指すというよりは
「自分が指導者としてどこに向いているかの見極め」
をしなければいけないと思いました。
ですから約十年でスペインサッカーの
すべてのカテゴリーにおける指導を見てきました。
今はスペイン三大サッカーチームのひとつ、
アトレティコ・マドリッドの
女子部の監督をしています。
女子部のBチームを担当しているので、
若い子の育成が中心になっていますが……
そろそろ成人男子の
いわゆるコンペティティブに戦える
リーグの指導に戻りたいなぁと考えて
希望をチームに伝えているところです。

二〇〇三年の末には
男子プロチームの監督も経験しましたが
(佐伯さんはこの時スペイン男子サッカー史上
 初のナショナルリーグ女性監督になりました)
今の私が成人男子リーグの監督の椅子に座ることは
むずかしいですから、ヘッドコーチとして
あの独特の雰囲気と感覚の中に
身をおかせてもらいたいという意志があるのですね。
今私が所属しているのは
すごく大きなクラブの一部なので、
そこに籍を置けるという
安心感はあるのかもしれませんが、
そこで成長しないまま安泰でいいのか
という葛藤がありまして……
女子部を担当してみると
「選手にどこまで高い要求ができるか」
というところでやはり限界がありました。
男子のナショナルリーグを指導した時と違い、
サッカーのことだけ考えていればいい、
というわけでもなく、練習や試合で
鳥肌の立つような瞬間も少なくなるんです。
男子のナショナルリーグでの数か月は
ほんとに無駄のない濃い時間を過ごしていました。
「こうしてほしい」と思って用意した練習で、
自分の狙いがスパッと形になって実演される瞬間も、
選手ひとりひとりと心が通じあう瞬間も、
他の場面では味わえないもので……
選手と共に九十分にすべてを賭ける現場には
醍醐味があるし、
うまい選手やうまいチームというのはおもしろいなぁと、
やはり指導者としては思ってしまうわけですよね。
女子チームでは理想を形することはなかなかできないし、
十代の女子の育成も兼ねているので
学校の成績がどうとか、親と喧嘩したから
練習に行けませんとかいう問題に対する
「教育者」としての要素を求められるわけで……
指導者としては消耗しましたね。
私の尊敬する監督は、まず人として尊敬できる方です。
人として惹かれた後に
「監督としても優秀だろうなぁ」
と学びたくなる、といいますか。
ただしメキシコ代表の試合を見た後のように
「このチームの監督はいい監督だろう」
と思わせるチームもあるのですが、
やはり最後には監督の人間性です。
後にお会いしたら、そのメキシコ代表監督も
やはりすばらしい人格者でしたし。
サッカーのよしあしの判断は
見ている人の好みに、左右されると思うんです。
私はスペインサッカー界に育ててもらったので、
スペインサッカーがよしとするものを好むんですね。
それは正解ではないわけですよね。
イタリアにはイタリアがよしとするサッカーの形があり、
イングランドにはイングランドがよしとする
サッカーの形があり、日本には日本の形があるから
「イタリアのサッカーは駄目だよね」
とか言うべきではないと思うんですよね。
私はスペインのサッカーしか知りません。
イングランドもドイツもイタリアも日本もわかりません。
メキシコ代表を見ていいと思ったのは、
スペインがよしとするサッカーをしていたからなのです。
実際にそのメキシコ代表監督の
ハビエル・アギーレさんは
選手時代にスペインリーグでやっていたから
そうなるのですが、イタリア人が見たら
「なんてリスクの大きい
 あぶなっかしいサッカーを」と思うのかもしれません。
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2005-07-28
Photo : Yasuo Yamaguchi
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