毎日十時間の仕事をしていても、毎日十時間の家事をしていても、
毎日十時間の勉強をしていても、費やした長い時間が重なる……。
人の時間の蓄積を集める企画に、スペインのサッカー監督が登場!

スペインサッカー史上初の女性監督になった佐伯さんからきいた
「攻撃力を伸ばす方法」は、スペインならではの組織論なんです。
インタビュアーは、ほぼ日スタッフの木村俊介が担当しています。
プロフィール 経験論について
このコンテンツは横にスクロールしてお楽しみください
質問:
さきほど話に出ていたメキシコ代表監督の
すばらしさを、具体的にきかせてもらえますか?
はい。
ハビエル・アギーレさんは
メキシコ代表監督を担当した後に
スペイン一部リーグのオサスナというチームに
監督として招聘されたので
「あの監督が来たんだ」と思って注目していたら、
インタビューでの話がものすごくうまいんですね。
調子がいいわけじゃなくて
無駄のないインテリな話をするんです。
サッカーフォーラムで私がパネリストとして呼ばれた時の
メンバーのひとりにもたまたまハビエルさんがいらして、
「新聞見たよ。君のなしとげたことはすばらしい。
 ほんとにおめでとう」と彼の方から握手をしてくれました。
やっぱりいい人だと思いましたし、
フォーラムの中でも話が抜群におもしろいわけです。
会場も沸きますし、彼への質問は長い……
一般相手にこれだけ話がうまいということは、
ロッカールームで選手二十人を前にした時の
声かけとかメッセージの送り方とか、
強弱のつけ方とかの技が
相当にうまいんだろうなぁと感じて、一度、
彼の選手になってみたいと思わされましたね。
彼の話のおもしろさは
「笑わせればいい」ではありません。
笑いは沸いて一瞬で消えてゆくものなんですけど、
人柄がほんとに言葉にも出ていて、
謙虚さがにじみでていて、重みのある言葉が多いし、
人を惹きつける何かを持っている……
ずっとジャブを浴びているかのように
心にしみてくるんです。
しかも、すばらしいレベルでやられているのに
「ぼくは何者でもありませんから」
と心から思っているのがわかる……その謙虚さが
彼の姿勢だし人間性なのだなぁと思いました。
選手も人間ですから、納得のいかないまま
シーズンを終える人もいるでしょうけれども、
あんな監督がいれば、半分は納得がいかなくても
「彼が言うからにはそうなんだろうな」
と思うかもしれないという監督なんですね。
日本の方には
「佐伯さんはいづれは日本で監督やりたいの?」
とよく聞かれますが、そういう気持ちはありません。
確かに選手希望でも指導者希望でも
ものすごい数の日本人がサッカー留学という名目で
海外に出ていますけど、ただ、
私はその人たちの多くの人が考えるように
「ハクをつけて日本に帰ろう」
と思ったことは一度もありません。
そんなことのために
十三年もスペインで生活しているわけではありませんし、
私はひとりのスペインサッカーの指導者として、
スペインサッカー界に育ててもらったことに
感謝しているだけなのです。
感謝というのはいろいろな意味で、
私のことを叩いたマスコミや、
噂にしたマスコミ、叩いた監督仲間、
無支払いで逃げたクラブ……
いろんなことを教えてもらいました。
私はスペインの地元の人間から
激しく叩かれた経験があります。他の日本人指導者は
おそらく叩かれたことすらないわけです。
叩かれるまでにも行っていないわけですね。
私は嫉妬の対象になったぶん
「少なくとも彼らの害にはなった」
という自負があります。
私の名を聞いてすぐに悪口を言う人は
マドリッドにいますから、
それはひとつの勲章だなぁとは思うのです。
佐伯さんの談話は、今日で終わりです。
ご愛読いただいて、ありがとうございました。
感想などを、ぜひ、お送りくださると幸いです。

感想を送る 友達に知らせる ウインドウを閉じる
2005-08-01  Photo : Yasuo Yamaguchi  
All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005