智慧の実を食べよう2
“WONDER S CHOOL!”
学問は驚きだ。へ
智慧の実をとどけます。
『学問は驚きだ』制作中の言葉から。

第7回
東京は、世界の博物館

(※今日からは『智慧の実を食べよう』の単行本から
  川勝平太さんの発言を、引用しておとどけします。
  こういう話は、まとめて本で読んでたのしみたい?
  そう思っていただけたとしたら、さいわいです。
  本も映像も、自宅でじっくり味わう価値があるよ!)



(講演中の川勝平太先生)

江戸時代が終わり、
明治維新になって、
すべての藩を廃止して、
地方分権が廃されました。

そして東京一極に集中するという
システムに変えました。
廃藩置県で、中央政府が任命する
知事さんを藩主にかえて
中央の意向を実施させるシステムに変えて、
今日に至っているわけです。

さて、明治維新以後、
明治、大正、昭和、平成と
時代を経てきましたが、日本歴史では、
奈良時代、平安時代、鎌倉時代、
室町時代、江戸時代と言いますでしょう。

時代の名称はすべて地名です。
日本は地名でもって時代区分している国です。
地名で時代区分している国が
ほかにあるでしょうか。

お家で、世界史年表をちょっと見てください。
そうすると、首都機能を移転した国は
たくさんありますけれども、
首都機能のおかれた地名で
時代区分してはいません。

アメリカの首都も
フィラデルフィアからワシントンに変わった。
そのことはもう歴史に残らないぐらいであります。
場所で時代を区分している国は、
日本のほかにないのです。

しかし日本では、
奈良なら奈良という場所を見たら、
奈良時代がどういう時代であったのか、
ぱっとわかる。

京都を見たら、平安時代の京都と
室町時代の京都をぱっとイメージできる。
鎌倉も同じです。
そのように、日本は、ときどきの
首都機能が置かれているところを見ると、
その時代の性格がよくわかります。

さて、明治、大正、昭和、平成というのは、
天皇陛下のお名前です。
これはこれまでの時代区分からすると
逸脱しています。
首尾一貫させるなら
「東京時代」ということができます。

では、東京時代というのは
どういう時代なのか?

見ればわかるように、
西洋文明の生きた博物館のようなものです。

京都は、最初は、
中国の北の文化を入れて、
ついで、室町時代には
中国の南の文化を入れて統合した場所。

江戸は、最初は中国の文明から自立した
独自の姿をつくりあげ、
江戸百万都市に育てて
「花のお江戸」にしあげました。

ついで、明治以後は、
この地の名称を東京に変え、
江戸時代の日本のすべての力を結集し、
その遺産を食いつぶしながら、
西洋の文物を東京に入れ込みました。
東京には、西洋の文物において、
およそ日本人が欲しいと思ったり
必要と思ったり、
ともかく想像される西洋の文物で、
ないものはない、と思います。

東京は西洋の文明の変電所である、
といえるかもしれません。
西洋から高い電圧をもつ文明が来た。
それを変電して、
日本の実力に合うように電圧を変えて、
それを全国に配電する、
そういう変電所の役割を果たした。
それが東京です。

そして、東京は、
あたかも室町時代の京都をもって、
東洋の文明を入れ切って
その役割が終わったのと同じように、
東京も一つ大きな役割を終えた、
と言うことができます。

東京は
西洋文明の生きた博物館ですから、
仮にテロリズムとか環境異変で、
西洋の近代文明の中心である
ニューヨークやシカゴ等々が破壊されても、
一体、それがどういう文明であったのか、
ということを知ろうと思えば、
東京に行けば、見ればわかる、
ということになるでしょう。

中国では文化大革命のときに、
ほとんどの古い文物を破壊しました。
それでは唐の時代や宋の時代、
明の時代に、
中国がどういう文明をつくったのか。
それは鎌倉やあるいは
京都を見ればわかります。

京都は東洋文明の博物館、
東京は西洋文明の博物館です。
両方を合わせれば、日本はいわば
世界の文明の博物館だということです。

東京時代が終わったということは、
東京はもう不要だという意味ではありません。
それどころか、東京は、
いわばアジアで唯一といいますか、
ヨーロッパ以外の国で
西洋の文物をフルセットで入れ込んだ、
いわば世界史の奇跡みたいな場所です。

しかし、
西洋文明を受容する時代は終わりました。
室町時代が終わったように、
東京時代も終わったのです。

そうすると、新しい日本の形を
どういうふうにしてあらわすか、
という段取りになります。


(つづきます)

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2004-10-12-TUE

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