YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson904
   人は波のように良くなっていく



体調にしろ、状況にしろ、
一度わるくなって、そこから順調に回復していって、

あともう少しで全快!

という所でブリかえすと、人はかなり落胆する。

でもそれは、
直線的に良くなるという思い込みからくる。
これも、波。

人は波のように良くなっていく。

ブリ返しはあっても、
波の間隔は長く、波は小さくなっていく。


「どうして体調が悪いと言えないのか?」

私は、自分のことながら首をひねっていた。

出版社の編集者さんから、
筆の進み具合はどうかとメールが来たときのことだ。

私は、体調が悪いとき、ハッキリと言う。

ボヤかして言うと、まわりによけい気をつかわせるし、
いろいろあらぬ想像をさせてしまったりする。
だから病名とか症状とか、具体的に、すぐに、ハッキリと
関係者に知らせるようにしている。

勇気! 正直! を発動して、ちゃんと伝えている。

ところがそのときだけは、気が重く言いづらい。
なぜ? と考えて、

「がっかり、させたくない。」

という気持ちの正体が浮かんできた。

めったにカラダをこわさない私が、
疲れによって、体調を崩した。

そのときは、まわりにすぐ、ハッキリ言えた。

すぐ良くなると思い、
実際、順調に良くなっていった。

ところが、あともう少しで全快!というところで、
ブリかえしたのだ。

ブリかえしたなら、ブリかえしたと言えばいい、
でも、最初に体調を崩したときより、
まったくもって、言いづらい。

人はこのタイミングで病気を隠し、嘘をつく
のではないか、と思った。

「すっかり良くなったもの、と信じ、期待している人たちを
がっかりさせたくない。」

いや、それ以上に一番がっかりしているのは私だ。
なんでこんなに落胆してるのか?
と考えたら、
あまり病気をしたことのない人間の、
経験不足からくるあさましさ、

「病気は直線的に良くなるという先入観」

に自分がとらわれていたことに
気がついた。

「はっ! これも波。」

体調も波のように良くなる。

ブリかえしたり、下降したりはあっても、
徐々に波は小さく、波と波の間隔は長くなっていく。

そう考えたら、余裕あるまなざしで自分を見ることができ、
よけいな不安や落胆もなく、
カラダは上向いていった。

わるいことが起こって、

徹底的にメスを入れたり、本人が心底改心したり、
そこから飛躍的に良くなっていくことがある。

それは、遅刻の常習犯を改めさせるようなことから、
職場の体質改善まで、いろいろある。

「どんどんよくなっていくぞ」
「あともうすこしで完全に良くなる」

とだれもが信じて疑わないとき、
「一度上向いたら直線的に良くなっていく」
という思い込みにとらわれやすいように思う。

だから直線を逸脱すると、
つまり一度でもブリかえすと、

「しょせんアイツは変わらない」
「全ての努力は水の泡だ」と、
過度に落胆したり、失望してしまったりする。

でも、波は以前よりちいさくなっていないか?
波と波の間隔は長くなっていないか?

「人は波のように良くなっていく」

そう思えば、自分も人も長い目で見て、
人間的に余裕を持って良くして行ける、
と私は思う。

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2018-12-19-WED

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