YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson875
 読者の声
 ―最後まで「表現したい何か」を手離さない



表現する以上、どんな逆境でも
最後まで「表現したい何か」を手離しちゃだめだ。
それ失ったら、繰り出されるのは、ただの「自我」。
虚しい自意識のオンパレード。

という先週のコラムに深い反響をいただいた。

読者は、生活の中で、人生の中で、
自分の伝えたいものとどう向き合っているのか?

今週は「読者のおたより」を紹介する。


<息子に伝わってしまっているもの>

先週のコラムを読んで、

「そういう自我がすべて、
言葉となって読者には伝わっている」

という一文にドキッとしました。

私は、息子を、
クドクドと責めてしまうことがあります。

例えば、「片づけをしてほしい時」。

本当は、私の中にこんな気持ちがある、

「汚い部屋は、私が気持ちよくない。
家族みんなの部屋なのだから、
みんな気持ちよく使えるように片づけをしたいし、
一緒にしてほしい」

でも、そういう根底の気持ちに気づくことを
さぼって、

「こんなに散らかして!片づけしなさい!」
「前にも言ったよね!」

と言ってしまいます。

息子は、無視して遊び続けます。
全く聞いていないような様子に、
私は追い打ちのように

「聞いてるの?」
「わかってるの?」

とヒートアップしていく始末。
ですが、先週のコラムの、

「そういう自我がすべて言葉となって伝わっている。」

きっと息子は、わかっているんじゃないか。

伝える努力をしないで、
親という立場を利用して、責め続ける、
間抜けな私のことを。

自分の本当の気持ちを探ることなく、
ずれたことを言っているから伝わらない。

息子は私にとって大切な存在。

だからこそ、
本当の気持ちを探りながら、
つたなくてもいいから、言葉にできる自分で
向かい合っていこうと思います。
(ハハハ)


<かすかな光を信じて>

最近、会合で話し合いをしていた時のことです。

私を含む数人が話していたところ、
段々苛立ちとともにエスカレートして声が大きくなり、
場が荒れる結果になりました。

後で他のメンバーから、
「あなたたちだけ話してて、他の人が話せない」
と言われて落ち込みました。

伝えたかったことは、まるで伝わらず、
伝わったのは、「苛立ち」だけ。

本来伝えたかったことよりも、
伝わらない「苛立ち」の方に引きずられてしまった。

伝えたいことを大事にするというのは、
「かすかな光をともし続けるようなもの」です。

大事にしなければ、
他のまぶしい光にかき消されてしまいます。

伝えたいことが大事なものであるほど、
色々な感情を引き起こすし、

その感情に引っ張られて、
元々の動機が分からなくなったり、
動機の変化に気づかないまま、
どこに行くか分からない表現をしてしまう。

ほんとに大事な思いはきちんと届く。

そこを信じて、
今回は痛い目にもあいましたが、
マイナスからでも伝えられたらと思っています。
(たまふろ)


<やっと見つけた気持ち>

子供の頃から、
家庭で使ってはいけない言葉がありました。

「嫌だ」「悲しい」「残念だ」

自分を生んで育ててくれる両親、祖父母、
周りの人に、常に感謝を忘れず、
ネガティブな気持ちは抱いてはいけない
という不文律があり、

ネガティブな気持ちを抱くとすれば、
それは自分が悪いのだと。

だから傷つく言動をされた際、
自分には思いを伝える盾がない。

人間関係にどんどんひずみができていきました。

ここ数年は、
なぜか人生で傷ついたことをたくさん思い出し、
溜まりに溜まった怒りをぶつけているうち、

どんどん人が去っていきました。

ひとりぼっちになっても怒りは収まらず、

文章にして、心の中の怒りを
片付けて、片付けて、やっと整理しきったとき、
心の奥底に見つけたのは

「傷つけられて悲しい」

という気持ちでした。
この「悲しい」を伝えることならできる。
だって自分が感じたもの、相手は否定しようがない。

想いを真っ直ぐ伝えていこう。

今、少しずつ伝えはじめています。
少しずつ、あたたかな風が吹き始めました。
(S)



ほんとうにシンプルな方法なのだけど、

ひととおり文章を書き上げて、
あるいは、こんがらがってどうにも書きあがらないときに、

「この中でたった1つ、と言われたら、何を伝える?」

と自分に問うてみる。
答えを自分の中に言い聞かせるように念じる。

これ、けっこう使えます。

答えはうまく言葉にできない「何か」でもいい。

「あの高2の部活で失敗したあとの、
帰り道で感じた、あのどうしようもない想い、
あれだけは伝えるんだ」

みたいなものでもOK。
どうしても伝えたい1つを強くイメージしてみよう。

あと1通紹介して、きょうは終わろう。


<何度あきらめが押し寄せても>

私は子育てをしながら働いています。

自らの希望で、他の育児中社員と違う
前例のない仕事に取り組んでおり、
周囲の理解を得られない場面もあります。

「本当にあなたの仕事って意味あるの?」
「他のママさん社員と同じような仕事をしなよ」

そう言われることも多々あるため

私の現在の仕事や今後の展望について
役員の前でプレゼンさせてもらうことになりました。

明日がその発表の時です。

正直、怖いです。

たくさんの上司の前で、
同意を得られるとは限らない発表をする。

当たり障りなく状況報告して終わろうか。
もう諦めて異動希望を出そうか。

ひとりで発表の準備をしていて、
何度もそんな気持ちが頭をよぎりました。

でも、そうしたら絶対に後悔する。

しんどい状況で諦めて後悔するなんて
これまでの人生で何度も繰り返してきた。
今度こそは勇気を出して伝えたい。

私がどんな思いでこの仕事を企画したか。
そしてそれは5年・10年先の会社のためにも
今始めるべき取組みなのだということ。

怖いけど、失敗するかもしれないけれど
自分の譲れない思いを伝えてこようと思います。
(はる)


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2018-05-16-WED

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