YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson852
       しかえさない



いわゆる「しかえし」のようなことはしない方がいい。
しても1ミリも自分にいいことはない。

人に向けた憎しみはまた新たな憎しみを生み、
必ず自分に返ってくる。

しかえしする気力・体力・時間があるなら、
全部自分の好きなことに使う。
好きな映画を見るとか、
自分のために好きな料理を作って食べるとか。

憎む気持ちはどこからくるのだろう?

これも波のようだ。

傷つけられた直後はヒンパンに大波がくる。
おさえては、ぶりかえし、またおさえては、
またぶりかえし。

でも、しばらくすると忘れる。
忘れたことさえ忘れて暮らしている。
なのに、ふと、ぶりかえすことがある。

先日もふと、ぶりかえした。

根も葉もないまったくの中傷だった。
私が大事にしてる部分なので尊厳が傷ついたように感じた。
「嫉妬じゃないか」と言ってくれる優しい人もいた。

腹が立ったが、おしよせる波を、
こらえ、またこらえ、さらにこらえ、していたら、
よくしたもので、いつか、忘れていた。

ところが先日、風邪をひいてはいけないと、
体をやすめがちにしていたとき、

ふと、よみがえった。

ほんの小さなぶりかえしだった。

「こんど、その人にあったら、
ちいさく、かわいく、でもチクッと言ってやろう」
という小さなイジワルが心にわいた。

「どう言ってやろうか」
と考えていたら、だんだん波が大きくなった。

「さらに相手に刺さる、
相手が自分で悪かったと感じるような言い方は」
と考えていけばいくほどに、
憎しみの波はどんどん荒くなっていった。

そのとき、

「人に向けた憎しみはまた新たな憎しみを生み、
必ず自分に返ってくる。」

という、自分の経験則からくる
心の声が聞こえた。

波がスーッと凪いだ。

しかえししても、自分に1ミリもいいことはない。
言ってやっても、ちっとも心はスカッとしない。

実際、
相手にチクッと言う言葉を考えていたとき、
自分は楽しかったか?

逆だ。

考えれば考えるほど、どんどん憎しみがつのり、
どんどん苦しくなっていった。

小さくともしかえしの言葉を吐けば、
そんなちっちぇー自分に、
ゲンナリする、引く、ドン引きする。

相手を傷つけたことへの罪悪感も抱えこむ。

しかえしの言葉は空気に吐くのではない、
人の心に働きかける。

小さくともそれがまた、新たな憎しみを生み、
相手の中で、さざなみ、小波、大波を呼んで、
いつかかならず自分に帰ってくる。

そんな連鎖はごめんだ。

大きな憎しみの連鎖は、
もしかしたら、こんなごく小さな憎しみの記憶のぶりかえし
から始まるのかもしれない。
そこに小さな魔が誘惑しているのかもしれない。

しかえしはわりにあわない。

その道にはいいことは1つもない。

相手のために気力・体力・時間を使うのはごめんだ。
相手のオモウツボの嫌な人間になりさがるのもごめんだ。

そんな気力・体力・時間があるなら、全部、
自分の好きに使わせてもらう。
自分を楽しませたり、癒したり、磨いたり、学んだりに
使わせてもらう。

ぶりかえすのは、前に進んでいないとき。

憎しみが小さくぶりかえしたら、
くるり、つま先の角度を変えて、

「前に進もう!」

と私は思う。

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2017-11-15-WED

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