YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson851
   読者の声―「言葉のおすそ分け」について



だれかが、だれかを想って、繰り出した言葉は、
はたで聞いてる第三者にも
愛情をおすそ分けのように配ってしまい、
聞いた人まで幸せカンジる。

きっと誰かを大事に想う人のそばで暮らせば、
そのおすそ分けだけでも、
けっこうほっこり生きられるのかも。
逆に、攻撃の言葉も、聞いたら第三者まで傷つく。

あなたは、どんな言葉にまみれて生きてるか、
どんな言葉が行き交う場所を選んで生きるか。

そう問いかけた先週のコラムに、
読者からおたよりをいただいた。


<職場はそう簡単には選べないけど>

どういう言葉が飛び交っているかによって、
環境が大きく変わる。

「では、いまの職場は?」

と考えると、
厳しい内容でも愛のある言葉を言う人もいれば、
この人からの影響は絶対に受けたくない、
という人もいます。

会社という性質上、
どうしても逃れられない嫌な言葉の積み重ねが
ストレスになっているのがよくわかります。

どういう環境を選ぶかは重要ですが、
「そう簡単には‥‥」というのが実感です。

いまの自分にできるのは、

自分が発信者として
いい環境を作り出す言葉を出せるようにする。

環境のいい所を自分で探し出し、
いい影響を存分に受ける。
この二点だと思っています。

いい言葉のおすそ分けを頂いている場所が
今は2か所あります。

一つは、通っているマッサージのお店。

従業員の方、皆さん明るくて、
マッサージ中の会話も楽しくさせてもらっています。
笑顔もいいし、
ほかのお客さんと従業員との会話も楽しそう。
こちらも、明るくなりそうです。
今度、明るい職場のコツを是非聞いてみたいです。

もう一つは、某ジャズバンドのファンの方々。
そして、そのバンドのラジオ番組。

ファンの方との交流は
主にツイッターを通してになります。

バンドの皆さんの
音楽やライブに対しての真摯な姿勢が、
皆さんを楽しませようとする明るい雰囲気が、
リスナーさんにも伝わっています。

リスナーさんも
音楽を愛しつつ、楽しくまっすぐ生きている方が多く、
本当にいい影響を受けています。

こちらも頑張らないと、
何かあったら皆さんにお知らせしないと、
とポジティブになります。

皆さんいいものには素直にいいと言うし、
嬉しいときには素直に表現するし、
楽しければ楽しいとはっきり言うし、
「よかったね」「ありがとう」も頻繁にいう人が多いです。

いい言葉のおすそ分けを頂くと、
前向きになろうとする元気の素を頂けます。
(かういち)



かういちさんのメール、

きっとジャズバンドは、
音楽を愛し、
自分たちの音楽を愛してくれるリスナーを愛し、

リスナー同士にも、
同じ音楽を愛する信頼と友情が芽生える。

音楽は命や魂に近いから
音楽への愛を源泉とした言葉が行き交う場所は、
つくづく元気がわくなあ。

つい先日のこと、
私は、ある人の言葉にびっくりした!

「普段クールな印象のこの人が、
こんな優しい言葉を言うんだ!」と。

犬を抱いていたのだ、その日、その人は。

私はもう二十年以上もその人を知っている。

陰と陽で分ければ「陰」。
決して冷たくはないが、「クール」な印象がある。
口数は少ないほうで、
人から話しかけられれば話すが、
自分からは「積極的に話しかけない」。

そんなどちらかと言えば暗い感じの人が、

その日は犬を抱いていたので、
優しく、甘く、とびきり明るく、
犬に言葉をかけていたのだ。

その人の犬への愛情が、
言葉にのせられて、みるみるまわりに
おすそ分けされていくのがわかった。

私のもとへも愛がおすそわけされて、
一瞬で、とろーんと、とろけそうになった。

犬は飼い主の愛情を知ってか知らずか、
まったくおかまいなしに、
勝手気ままにふるまうのだけれど、

それがまた、さらに優しい言葉を引き出してしまう。

犬の気ままなふるまいも、つつみこんで
「いいよ、いいよ、自由にしていいよ」という想いの
つまった言葉が、次々あふれて、

「寛容」、というのだろうか。

私に言われているわけじゃないんだけれど、

私まで、許されているような、
愛されて、甘えさせてもらっているような、
ノビノビ、ワキワキ、わーいわい!
とはずんでくるような。

おすそ分けの優しさに、体ごと、空間ごと、ひたされて、

きっといま、この環境で、争いごとは起きないな、
争いの中枢が幸せの砂糖漬けになって
使いものにならんな、と感じた。

「あのクールな人間から、
あんな優しい言葉を引き出すなんて、犬はすごい!」

と感じ入っていたら、
先週のコラムを読んだSさんから
こんなメールをいただいた。


<「言葉のおすそ分け」を読んで>

ほんとに子供とか犬とか、
だいじにされて愛されている場所に行ったあとは、
こちらの気持ちが、暖かくなりますよね。

言葉に乗せている「愛」が、
ストレートで純生だからでしょうか?

うちの犬のトレーナーさんが、
「犬はピュアな利己主義者」といいます。

愛されることが、ピュアにてらいなく好きで、

愛されることを当たり前のように求めるので、

こちらもストレートに愛を渡せる気がします。
なので、ピュアな愛に満たされた空間になるのかも?
(S)



ピュアな愛を人からひきだす。

あらためて犬ってすごいなあ。

読者のかういちさんの言うように
そんなに簡単には職場は選べない。
職場は選べても、生きる時代を選べなかったりもする。

だから、ときに、殺伐とした言葉のおすそ分けにまみれ、
どんなにすさんで家に帰ってきたとしても、

そこに犬がいれば、

自分の中のピュアな部分が引き出される。
かけねのない愛の言葉が口をついて出てくる。

まわりの人にも、
ピュアな愛が言葉にのっておすそ分けされて、
ピュアな自分を引き出される。

動物と人間がともに生きることは
たいへんなこともあるだろうし、
理解しない人もいるのだろうと思うけれども、

犬が人のピュアな愛の言葉を引き出していくこと、

多くの人に知ってほしい
と私は思う。

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2017-11-08-WED

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