YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson849
  まず心にあるものを出すことから



表現するというと、どうして多くの人が
「書くのが苦手」
「人前で自分の思いを言うのが嫌い」
というのだろう。

得意かどうかはそんなに重要か。
好きか嫌いかは大した問題じゃない。

下手OK! 嫌い上等!

「私は、書く。」

ただそれだけでいいのじゃないか。

それだけがとても素敵と私は思う。

「伝わる文章を書く人は、少なくとも
伝えたいものを見つけようとしている。」

経験のあるなしにかかわらず、
いざ書かねばならないとなったら

人は3層に分かれる。

「逃げる問い」にすがる人。
「ありきたりな問い」にとらわれている人。
「伝えたいものを見つける問い」を立てる人。

1番の逃げる問いを持つ人とは、

「えー! なんで苦手な私が書かなきゃいけないの?」
「書きたくないから理系に就職したのに、
なんでこんな部署に来ちゃったんだろう?」
「私をこんなに苦しめて、部長は鬼か?」
「みんななんで文句も言わないで書いてるの?
なんか宗教みたい!」
などなど、

停滞、思考停止、受け身、責任転嫁。

「宗教みたい」というのは、
相手をこきおろし、自分を正当化したいとき
良く持ち出されるもの言いだ。
宗教ではない方法でちゃんとやっている人にも、
宗教をちゃんとやっている人にも、
両方に失礼なもの言い、だれも幸せにしないし、
私は言わないようにしている。

逃げようとして、逃げてることにさえ向き合えないとき、

苦手か得意か?
嫌いか好きか?
だれのせいか、悪いのはだれか?
とテーマに向き合うことから
「逃げるための問い」につい、すがってしまう。

2番目の「ありきたりな問い」を持つ人とは、

一般論、表面的、先入観、受け売り。

「一般的に常識的に、
こういう場合どんなことを書けばいいのか?」
からはいってしまっていて、そのことに無自覚だから、
そこに終始し、殻をなかなか破れない。

3番目は「伝えたいものを見つける問い」。

「テーマについて思いあたる自分の実体験はないか?」
「実体験がなかなか出てこない、時系列でたどってみよう、
子供のころは? 小、中、高、大学では? ここ最近は?」
「これを読む人たちは何を求めてるんだろう?」
「テーマについての知識や見聞で
手掛かりになりそうなのは?」
「自分がいちばんひっかかるのは?」
「さいきん発見があったのは?」
というふうに、

「伝えたいものを見つける」

そのために、
過去に戻ったり、社会の出来事に目を向けたり、
時間や視座を移動しながら、
頭を働かせている。

1番目の逃げる問いの人も、
2番目のありきたりな問いの人も、

きっとテーマについて考えることでは、
止まっているか、ラクをしている。

それでいて、テーマについて考える時間と労力は
浪費しているから、
スタートラインに立つまでに、
けっこう疲れてくたくたになる。

書くまでに、
ぼーっとする時間も大事だし、
ああでもなくこうでもなくと
進まなかったり、あがいたりしてもいい。

けれど、それは伝えたいものを見つける
あがきでありたい。

「自分は今どの問いか?」

チェックして、
逃げてるな、紋切り型だな、とわかったら、
いちはやく、自分にこう宣言して
スタートラインに立とう。

「私は、書く。」

そして、

「伝えたいものを見つける。」

先週ここで、
勇気ある「切り込み隊長」の話をした。

いざ人前で表現するとなって、

多くの人が失敗したらどうしようと、
言い訳したり、がちがちにガードを固めたり
自分の身を守るのに必死になりがちな時、

その学生は、恐れず、

「自分のやりたいことをやってみよう」

と、コケたら最もイタイ方向へ
真っ先に切り込み隊長として突っ走っていった。
さらに、

「どうしたらこの場にいる人々が、
ガードをとっぱらって表現しようという気になるか」

と、場を盛り立てることを考えていた。

そんな学生の勇姿に、
読者がこんなおたよりをくれた。


<前のめりで>

私は薬学部に通う五回生です。

昔から自分の考えを表現するのが「苦手」だ
と思っていました。
ミスしたりしても
だから、聞き上手になろうとしてました。

けれど、最近そんな自分を
面白くないな、ずるいな
と思うことが多かったです。

苦手でもいい。
スベってもいい。
まとまってなくてもいい。
前のめりで倒れるつもりでやってみる。
開いてみる。

そういう姿勢ってとにかくこわいし、
失敗して恥ずかしいことも多いんですけど、
そうやって前のめりで失敗した後って

不思議と爽やかで、
傷を負ったって大げさですけど生きてる感じ

がするんです。
その実感がたまらなくて、
今日も前のめりで生きています。
(healthy)



心にあるものを素直に出して、
大コケしても勲章! ここからはじまる!

恐れず心にあるものを素直に出すことからはじめてみよう。

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2017-10-25-WED

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