YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson821
 就職と就社と 2



「就職と就社」について書くきっかけは、
このところ、

就社を否定する人にあいついで出くわすからだ。

まだ働いたことがない学生や、
まだ就社以外経験したことがない人に、
バッサリ就社を否定されると、

私はツラい。

就社も就職もどちらも経験してこそ今の私がある。

定義にもよるが、
ここでは、

美容師、作家、医師、弁護士、看護師など、
腕に職・脳に職、をつけ、

社会に出るとき、「職」に軸足を置く人を「就職」。

会社という船の乗組員になり、
チームの目標をチームで達成する、つまり

社会に出るとき、「組織」に軸足を置く人を「就社」。

と定義して進んでいく。

私自身は、大学を卒業するとき、
無自覚に「就社」を選んでいたことになる。

ふりかえって、それはよかった。

会社を信頼して、自分の進路をあずける
ことがなかったら、

「全国5万人の高校生を会員に持つ
小論文通信教育講座の編集長という仕事」は、

私には思いつきもしなかっただろう。

「教育」がマイテーマだった私は、

職業「小学校教員」をめざすも、
大学の教育実習で「なんかちがう」と想い、

講演会で「編集者」という職業に
ときめくも、

「具体的にどこでどう仕事をするのか?」

まったくあやふやだった。

職業編集者×テーマ教育=小論文編集長

という絶妙な仕事は、
自分では思いつけもしない、
会社にゆだねてこそ、めぐり合せてもらった進路だ。

かりに思いつけたとしても、
自力で小論文通信教育講座を起こそうとすれば、
一生かかってもその規模には到達できなかっただろう。

会社というところは、
大勢で協力もするし、
先人たちの苦労が伝統として積み上がっていく。

だから20代でも全国規模の仕事に触ることができる。

全国規模の職場で、
もまれ、鍛えられ、導かれ、
いつしか、全国規模に通用する、
人の書く力を育てる教育力・編集力が
たたきあげられていった。

これが、私にとっての就社の光の部分だ。

一方で、
なんといっても、毎年2月、人事異動の内示のとき。

全国と海外に支社を持つ会社で、
職種も、編集・営業・総務・物流・経営企画
・介護事業などなど
たくさんあり、グループ会社出向もある。
もちろん希望を考慮してくれる場合もあるけれど、

基本的には、1年先、自分がどこに住んで、
どんな職業についているかわからない。

その不安はたとえようもない。

異動があることは、新人のなにもわからないときには、
どこへ行っても何をやっても経験になるから、
ラッキーだったりするのだけれど。

私の場合、いつしか自分の持ち場の仕事に
生きがいが育っていったので、年、年、
内示のときの不安感は大きくなるばかりだった。

いまから振り返ると、
私が「就社」を選んだことは間違いじゃない、
良かった。間違ってたのは、

「就社を選んだ自覚がなかった」ことだ。

編集の職業に就いた気でいた。
出世にも興味がなく、
編集の職業が好きで、一生つとめたいと思っていた。
そこが間違いだった。

会社を船にたとえると、

だれかが本気で、船全体のことや、乗組員全体のことを
考えなければならない。

ある程度、自分の持ち場がうまくいくようになったら、
そこは若いもんに任せて、

次は、新しい持ち場の立ち上げか、
それまでいた持ち場を俯瞰できる立場に行くか。

少なくともそういう人が組織にいなければ、

そのようにして誰かが、
次々と、より船の全体が見渡せる場へ、
より乗組員を全体を考える場へいかなければ、
航海は進化していけない。

誤解を恐れずに言うと、

「就社」を選んで、一生その会社に勤める覚悟なら、
出世をめざしてよい、のではないだろうか。

組織全体を考えるより、「職」を極めたい
というならば、
40代、50代‥‥と先行き、その職で、

自分の会社に理想とするポジションの先輩がいるかどうか?

もし、いないなら、
将来、その「職」を、どこでまっとうするのが理想か?
考えてみてもいいのではないだろうか。

フリーランスになった今、毎年2月になると、

「人事の内示で、1年先の、
自分の勤務地も、職種も、会社にあずける
ということをよく毎年、毎年、16年もやれたなあ!」

と私は思うのだが、

「なぜ、会社にそこまであずけられたのか?」

と言えば、やっぱりあの会社が好きだった。
それにつきるように思う。

私が16年勤めた会社は、
生まれ育った岡山県で教育の全国レベルの仕事
をしている会社で、
文化や芸術にも造詣が深く、
あこがれの会社だった。

「就職か? 就社か?」

この選択のベースとなるのも、やはり、

「職業×テーマ×世界観」

の3つでやりたいことをイメージすることだと思う。
つまり、

「就きたい職業×扱いたいテーマ×達成したい世界観」

で進路を考えていくことだ。

Lesson815 就活の「やりたいこと」とは?
にくわしく書かれている。)

3つの中で意外に大事なのが「テーマ」だ。

いまから考えると私の一生のテーマと、
16年勤めた会社のテーマはドンピシャだった。

「マイテーマ=会社のテーマ=教育」

これが違うテーマだったら
私は続かなかったと思う。

とはいえ、大学を出たばかりの私には、
まだまだ、職業「編集者」へのこだわりも、
テーマ「教育」への意識も希薄だった。

自分が達成したい世界観すらなんなのかわからなかった。
つまり、

「自分が就きたい職業<扱いたいテーマ<会社の世界観」

だったので、就社を選んでよかったと思う。

その世界観に心からホレた会社に
「就社」していた時期、とても幸せだった。

いまは、自分の想いからわきあがってくる世界観に向けて
フリーランスとして進んでいる。

最後に、この読者の声を紹介して
きょうは終わろう。


<このままじゃ、いやだ!>

大学を卒業してから漫然と仕事をしてきました。

入社前の面談で
「何もわからないので、配属された部署でがんばります!」
と言いました。

こうして始まった営業の仕事は、
ノルマはきつく、勤務時間も長時間に及び、

持ち前の負けず嫌いな性格で
売り上げを達成していた私も、
愚痴が多くなり、
それとともに営業成績は落ち込みました。

ところが、同僚たちは
ちょっとした不満こそあるものの楽しそうに仕事し、
そういう人ほど実績も残しています。

私は営業に向いていない、
社風も合わない、
上司に気に入られるタイプでもないし、
どうせ女だから出世もしないし、適当にやろう。

心の中はいつも卑屈な言い訳ばかり。

「組織」に守られていることに甘えて
「職」の自己研鑽を怠っていました。

そうして年月が過ぎ、子どもを授かり、
ふと我に返ったのです。

愚痴だらけで働いている姿をこの子に見せたくない。
困難があっても生き生きと仕事をしている姿を
見て育ってほしい。

それには、私が変わらなければ。

先に挙げた同僚たちを思い返すと
「会社が決めたノルマ以外に目指すものを持っている」
という点が共通していました。

トップの成績をあげて
もっと大きい仕事ができる会社に引き抜かれたい人は、
そのまま営業「職」の能力を、
他の事を目指している人は、目標に必要な「職」の能力を、
伸ばせるよう工夫しています。

そうして更なる「職」のスキルアップを求めて
颯爽と転職・独立していく姿は、
生き生きと輝いていました。

私もそんな風になりたい。

「組織」に属しながらも自分なりの目標像に向かって
「職」の能力を伸ばしたい。

このままじゃいやだ!

「就社」しながらも、「就職」できるような力をつけたい!
(はる)


ツイートするFacebookでシェアする


山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2017-03-29-WED

YAMADA
戻る