YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson817
  やりたい仕事を3つでイメージする



「やりたい仕事」とひとくちにいっても、
人によってとらえかたは違う。

看護師になりたい=「職業」で考える人

マスコミにいきたい=「業界」で考える人

トヨタにはいりたい=「会社」で考える人

あなたは、やりたい仕事をどれでイメージ
しているだろうか。
職業? 業界? 会社? それ以外?

こんかい提案したいのは、

「職業×テーマ×世界観」

この3つで、
やりたい仕事をイメージしてみることだ。

この話、いま、授業を受けた学生や講演先で、
なるほど!と反響がいいので、
初期にこのコラムで触れたが、もう一度、
ブラッシュアップしてお伝えする。

私自身は、

やりたい仕事を、学生のとき、
なりたい「職業」=編集者、でイメージした。

しかし実際、職場に出て、
編集者になりたくてなった人が、
「これは私のやりたい仕事ではありません!」
と辞めていくのをまのあたりにした。

人は、やりたい職業に就けても、
それだけではダメな場合もあるんだ、
と衝撃を受けた。

彼女は、会社を辞め、
アウトドアの出版社に再就職した。
そこで初めて知った、

仕事には「テーマ」がある。

編集者×アウトドア
編集者×経済
編集者×ファッション
編集者×医療

「職業×テーマ」

私自身は、
全国に年5万の高校生会員を持つ
小論文通信教育講座の編集長をしていた。
だから、

「編集者×教育」

人が育つ匂いのするところが好きで、
ちいさいころ先生になりたかった私にとって、
「教育」というテーマはとても合っていた。

だから続けていられるんだな、
と納得したのも、つかの間、

またしても!

「教育の編集者になりたい」、
と言って入ってきた人が、
「これは私のやりたい仕事ではありません!」
と辞めていくのをまのあたりにした。

「職業×テーマ=編集者×教育」

2つとも達成できているのに、
なにが気に入らないんだろう?

「知育偏重。」

と、彼は言った。
私のいた会社の教材は、
子どもの成績がよく伸びることで評判だった。

編集者たちは、研究・検証を重ね、
もっとも効率的にチカラが伸びるように、
それをたのしんでできるように、工夫していた。

しかし彼は、知力の伸長よりも、
「こどもの心や情緒を豊かにしたかった」
そうなのだ。

「達成したい世界観」

同じ職業×同じテーマを扱っていても、
どんな世界観を達成したいか?
は、会社により、上司により、人により、
まるでちがう。

編集者×教育×知力の伸長
編集者×教育×心を豊かにする
編集者×教育×芸術性の開花

私自身は、
小論文編集長として、
高校生が、自分の頭で考えて、自分の想いを、
自分の言葉で書くことができるように。
「考えるって面白い」、
と自ら考える日常をおくる高校生が、
1人でも、2人でも増えたら、社会は面白くなる、
それを志して働いていた。

それが会社にも許されていた。
だからやりがいを持って続けられたのだ。

もしも、「世界観」の真逆の上司が来たとして、

「高校生に自分の頭で考えさせるなんてしなくていい、
小論文入試の勝ちパターンをひたすら暗記させろ!」
と私に強制したとしたら、

もしもではあるが、
やりたい「編集者×教育」ができるとしても、
続かなかっただろう。

「就きたい職業×扱いたいテーマ×達成したい世界観」

この3つでイメージしてみるといい。

3つ全部がかなうということはなかなかないが、
どれか1つでもかなったら、

「好きなファッションの編集者になれなくて、
教材の編集者になったけれど、編集者には変わりないし、
編集のスキルはしっかり身に着けられるからいいぞ」

とか、

「なりたい編集者になれなかったし、
ファッションのテーマも扱えない。だけど、
日本中の人をおしゃれにしたいと思っている私は、
この会社のおしゃれな世界観に
心から共感できるからいいぞ」

というように、1つが挫折しても、
どこかでつながっていけて、
しなやかに夢ににじり寄っていける。

とくに「就社」を考えている人は、
その会社が達成したい世界観に共感できるかどうか
は重要になってくる。

同じ職業を志望する人が多い学部に行くと、
学生ひとりひとりの「テーマ」「世界観」の違いが
よりはっきりする。

たとえば、看護学部。

やはり「看護師」になりたい人が多い。

フライト・ナースなどの
「救命救急」をテーマにする学生。

助かる見込みのない患者さんを最期まで支えたいと
「終末医療」をテーマにする学生。

これから生まれる命とその母親、
「助産」をテーマにする学生。

国境なき医師団など、
「国際医療」をテーマにしている学生とでは、

やはり、テーマの持ちようも、
見ている世界観もまるで違う。

ある学生は、

最初、病気の患者さんの「根治」を支えたい、
と思い、そのためにどうするか、と考えて、
「早期発見」、さらにそのためにと考えた末、

「自分は病気の治療よりも、
病気を未然に防ぐ予防をやりたいんだ」

と気がついて、志望する「職業」を、
「看護師→保健師」に変更した。

「職業×テーマ×世界観」

看護師×救命救急×1人でも多く助かる命を救いたい

看護師×終末医療×尊厳を持って最期まで生きられるように

看護師×助産×母子ともに健康に安心して出産できるように

看護師×国際医療×世界の人が平等に医療を
受けられるように

保健師×予防×地域の健康意識を高め病気にならないように

こんなふうに、同じ職業を目指す人でも
テーマと世界観の持ちようで、
1人1人、全く違う。

もちろん、他の学部に行くと、
「職業」そのものも多種多様になり、
さらに違いが幅広い。

文章を書きあげたすえに、
何十人と一気に発表すると、

あまり進路について考えてこなかったという人も、
やりたいことがないと言っていた人さえも、

「意外としっかりした独自の考えがある」

ことに気がつける。

「就きたい職業×扱いたいテーマ×達成したい世界観」

この3つで、
やりたい仕事をイメージしてみよう。

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2017-03-01-WED

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