YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson773 基準値を自分にもどす

「バレなきゃいいと思っている、
 バレたらとたんに猛省する」

というのは、

完全にものごとの良し悪しの
「基準が人の目」になってしまっている。

泣いて謝る議員の会見を見ながら、
私は、どうもそこに引っかかっているんだな、
と気がついた。

バレたとたんに、
天地がひっくり返ったかのように、
自分を「軽率だ、人を傷つけた、最低だ」と
痛めつける。

その涙は完全に嘘とも思えない。

そんなにワルかったと泣くぐらいなら、
どうして、これまでそんなワルいこと、
平然とやり続けてこられたの?

バレたからって、
ずっと自分がやり続けてきたことを、
どうして、そんな一瞬で、根こそぎ否定できるの?

バレたかどうかで善悪の基準まで変わってしまっている。

この人は、ほんとに、
基準を人に預けて生きてきたんだな。

人に基準を預けきったツケは大きい。

基準は、知らぬ間に自分の手を離れる。

先日、友人が、
「ママ友に比べて自分は、
 ステイタスが落ちる。
 だから自分はダメなんだ。」

と、落ち込んでいた。
察するに、友人の劣等感とは、そのママ友が、

自分より高価なものを着てセンスも良い。
仕事もできて世間からも注目されている。

というあたりらしかった。

高級なブランド服を、
時代の機微にも敏感に、品よく着こなしている。
それで世間からも注目されている。

というのは、
いまの自分には、あまりにも遠い価値観だ。

でも、だからといって、
友人の競争心を、ばかばかしいと思ってはいけない。
友人の人間関係と文脈においては、
切実なのだ。尊重しよう。

でもそうやって親身になって聞いていくと、
ひとつ困ったことが起きる。

「その優劣のモノサシで、私も測られるの?」

そのとき、ブランドのかけらもない
カジュアルな服装をしていた私を、
友人はどう見ていたのだろうか。

家に帰ってからも、悶々と考えた。

自分だって、
ブランド品に全く興味がなかったわけではない。

昔は、ファッションに大枚を
つぎ込んだ時期もあった。

「これでもけっこう、若い女性の多い職場で、
 服装を褒められていたんだからね‥‥」

「きょうは友人と会うのに、たまたま、こんな
 カジュアルだったけど、
 いつもはもっと違うんだからね‥‥」

「次、友人と会うときは、
 そうだ! 高価に見えるあれを着て、
 バッグは、どうしよう、うーん、いちばん高い
 あれを持って‥‥」

と、そこまで考えて、ハッとした。

「自分は心からそういう格好をしたいのか?」

友人に下に見られているんじゃないかと焦り、
知らず知らずに、優劣競争に巻き込まれていた。

基準値はこうして、知らぬ間に少しずつ自分を離れ、
人手に渡っていく。

「ダメ! ゼッタイ、自分はそっちへ行かない!!」

と強く自分に断言した。

自分はどういうことを美しいと想い、
どういうことは嫌なのか、コツコツそこと通じていこう。

だれかを見返すために目標を設定してがんばる、
ということを、もし、私がやったとしたら、

きっと、そこで目指す、美しさなり成功なり幸せなりは、
人に見せるためにどこか無理をしたものになるだろう。
その分、しなくてもよい苦労を抱え込むことになるだろう。

だから、基準値を自分に!

それで友人が離れていったら悲しいけれどしかたがない。
心が求めるものに向かってがんばろう、
と私は思う。


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2016-03-23-WED
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