YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson737
    未知のものが会話に出たとき


「言えば言うほど、
 わかってもらえない」

そんな会話になったことはないだろうか?

先日、
なにげない会話をしているうちにどうしてか、
相手に、
私がやっている「文章表現教育」ってどんなものか、
説明する流れになった。

ところが、
一つ説明するごとに、
自分と相手の距離が遠のく。

「これはいかん」

と私は焦り、身をのり出し、
言葉をつくして説明しだした。

相手もただならぬ感じを察して、
背筋を正して真剣に聞き始めた。

けれどそうすればするほど、
「わかってもらえない」
という失望の色が濃くなっていく。
失望しかける寸前に、

「まてよ、私はなんでこんなに落胆してるんだ?」

と自分に問うた。

どうも、
私が一つ説明する、
相手がそれに一つ受け答える、

その「受け答え」が、

いちいち、自分をガックリと
落胆させているようなのだ。
なんで?
と考えたら、

相手は私の話を「カテゴライズ」して聞く、

そのカテゴライズがいちいち外れていて、
いやなんだ、

と気がついた。

カテゴライズっていうのは、「分類」すること。

たとえば、
友達と好きな音楽の話をしていて、
友達が、まったく知らないバンド名を
出してきたときに、

「それってアイドルグループ?」
「ロック?」
「ヒップホップ?」

と自分の知っている分類の引き出しを
次々出していって、
相手が、「ヒップホップ」と答える。

まったく知らないバンドが、
すでに自分が知っている「ヒップホップ」
という引き出しにおさまったことで、
ちょっとわかったような気になってくる。

でも、この「カテゴライズ」が難しい。

自分が大好きなバンドを、
相手が知らず、

「どんなバンド?」

と聞かれて、たまたま
持っていたCDのジャケットを見せたら、
相手に、

「なんだ、ビジュアル系ね!」

とひとくくりにされ、ムッ、とした
なんて経験はないだろうか。

「CDのジャケットこそおしゃれだけど、
 ビジュアル系じゃないぞ、
 中身で勝負してるバンドなんだぞ」
という具合に、

「カテゴライズされて、はずされたら悲しい。」

でも、それ以前に、
あたっていようが、はずれていようが、

「カテゴライズされること自体が悲しい。」

という心理が、どうも自分にはあるようだ。
自分にとって大切なものについて語っているときに、
相手に、それを
カンタンに分類されてしまって
オシマイにされてしまっては、
なんだか、大事なものが、
縮められたような違和感がある。

自分にとって大切なものっていうのは、
他に似たものがない、かけがえがない、と思っているから
大切なのだ。

じゃあ、なんで相手は「カテゴライズ」したがるのか?

と考えたときに、意外にも
わきあがってきたのは、
「感謝」だった。

相手は、「わかろう」としてくれていたのだ。

私が、
言えば言うほどわかってくれないと感じていた
その相手は、

私が、話していることがわからないから、
相手にとって「未知」だから、

相手は、「既知」のものに位置づけて、
どうにかなんとか、わかってやろうと、
がんばってくれていたのだ。

相手の知識も経験も総動員して、
ありったけの分類の引き出しを思い出して、

私のわかりづらい説明を1つ聞くたびに、
それは、この引き出しか、と
1つカテゴライズして、

理解しようと努めてくれていたのだ。

その、気持ちがわかったときに、
さっきまで、「わかってくれない」と
焦燥感にかられていた
胸中が、スーっと穏やかになった。

さっきまで、わからずやに見えていた相手が、
温かい人に見えてきた。

反省すべきはこっちだ。

そもそも、その話題は、
私にとってコアの部分だ、アイデンティティだ。

軽い会話で扱えるような内容ではない。

その場で、言葉で全部をわかってもらおうとするほうが、
どだいムリな話である。

私が一気に、あまりに真剣に、たくさん
「未知」を投げかけるから、
相手に「不安」を与えてしまったんだな。

その一件以来、

「安易なカテゴライズをつつしむ」

それが、会話に未知のものがでたときの
自分なりの尊重の表し方になった。

とくに相手が、
相手にとって大切な人・もの・ことについて
語っているとき
カンタンに分類されてオシマイにはされたくないだろう。

未知を未知として扱う不安から、
人は既に知ってるものに区分けしたがる、
私も分類して安心したがる人間だけど、

「それはそれとしてかけがえないかもしれない。」

そんな目で、
未知との遭遇を面白がっていきたい。

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2015-06-17-WED
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