YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson623
  アイドルは恋愛しません


「アイドルは恋愛しません」

これは、「サンタクロースはいる」、と同じ
現代のファンタジーです。

ファンタジーには、
ファンタジーを愉しむ「流儀」があります。

まず、暴きません。

「スクープ! サンタはオトンだった」
とだれも暴きませんし、
そんな記事、見向きもしません。

オトンも謝りません。

プレゼントを買う姿を証拠写真にとられたとしても、
認めませんし、ごめんなさいと言いません。
「忙しいサンタに頼まれた」と
じょうずに煙にまきますし、
「サンタはいる」と言い通します。

子供も大人も、全てわかった上で信じ続けます。

「アイドルは恋愛しません」
それは現実ではない、
と言う人がいるかもしれません。
でも、現実に向かう力になるときがあります。

私たちがもし、1分1秒たりとも
現実以外に生きられなかったとしたら、
窒息するかもしれません。

私たちは、すさんだり、腐ったりするとき、
空想の力で、
現実の外に飛び出すことができます。
そこで安息を得たり、
華やぎを見つけたり、
活気を取り戻したりします。

現実逃避はいけないもののように言われます。
でも現実の外に飛び出し、そこから現実をみるからこそ、
客観視できたり、相対化できたり、見える現実があります。

それは、現実に戻って生きようとする余裕になります。

ファンタジーを生かすもの、それは「心」です。

ここに、幼い女の子がいて、
ざぶとんをまるめ、
赤ちゃんに見立てて、抱っこしています。
話しかけたり、ゆすったり、
歌を歌ってあげたりしています。

それをただの布きれと見るか、赤ちゃんと見るか。

女の子は、布きれを心でくるんでいます。
だからそこに命を吹き込むことができるのです。

「アイドルは恋愛しません」

芸能リポーターのリポートは、占いのように、
当たるも八卦、当たらぬも八卦がいい塩梅です。
すべて的中するようになってしまったら、
そこに空想の入り込む余地はありません。

見る人も、片目をあけて片目をつむって見ます。

なぜならそれらは、プリンセスとプリンスのあいだに、
ロマンスはあるか、ないのかと、
ハラハラ、ドキドキするためだからです。

目を閉じ、心の目で見なければ見えないものがあります。

証拠写真がすぐ撮れ、一瞬で大勢に通報できる時代。
でもそれは、

私たちが選べる時代です。

なにもかも全て暴いてしまって、
サンタクロースすら、住めない世界にしてしまうのか。
かなしいとき、しぼんだとき、
いつでもファンタジーがやってこれる世界にするのか。

選択は自分たちの手の中です。

「アイドルは恋愛しません」
これはファンタジーですが、
あなたがファンタジーを信じる限り、

アイドルはきょうも、あなたのために、
歌を稽古し、踊りをトレーニングし、
浮き沈みが激しかったり、競争が激しかったり
プレッシャーがきつかったり、
寝る時間がなかったり、心ない人に傷つけられたりしても、
へこたれないで、芸も、外見も、心も磨きます。

つらいとき、かなしいとき、
親や友達でも、駆けつけるには時間がかかりますが、
一瞬であなたのもとにきて、
いやなことを忘れさせ、
別世界につれさってくれます。

「アイドルはいつもあなたのことを想っています」
「つらいときあなたにまほうをかけます」

これは心であり、創造性です。

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2013-02-06-WED
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