YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson602
  恐れを伝染させない言葉−4.憶測をやめる



同じ生徒でも、
やる気にさせる先生と、追いつめちゃう先生、
「言葉のかけ方」は、ずいぶん違う。

まずは、このおたよりから。


<不安を消し去った先生の一言>

大学受験のとき、塾を変えて
すごく楽になったことがあります。

最初の先生は、

「もっと勉強しないといい大学に入れないぞ」、
「将来、就職活動で苦労するぞ」
と、自分が受験をなめて第一志望に落ちてしまったことや、
不安をあおることで、
生徒をかりたてていました。

真面目な私は、
先生の教え方がわかりやすく信頼していたこともあり、
すっかり信じこんでしまいました。

どれだけやっても不安で、
休み時間に友達と話すことも止めて、
一分一秒もおしいと勉強するようになりました。

でも、不安で、
歩いていても泣きそうになったり、
ストレスで過食をしたり、
勉強するのが怖くて向き合えなくなりました。

そんなある日、意を決して新しい塾に電話をし、
行ってみることにしました。

そこの先生は、真逆でした。

どこを受けろとは言わず、
基本自習で、
私がわからない問題を持っていったら一緒に考えてくれる、
という気ままなスタイルをとっていました。
だけど、はっきりと言い切ってくれました。

「受験まで、あと7ヶ月で、
 あなたの受ける大学はこういう配点だから、
 この教科でこれだけとれるように
 勉強していったらいいよ、
 焦らなくてもこういう風にやっていけば大丈夫だよ」と。

その瞬間、すごく心が軽くなって
泣きそうなくらい嬉しかった!

なんだそれだけのことだったんだと思って、
なんでこんな当たり前のことに気がつかなかったんだろう?
とも思いました。

それからは心の底に、
「やることやってるし、これでいいんだ、大丈夫」
という自信のようなものができて、
息抜きをしながら淡々と勉強ができるようになり、
受験も乗り切ることができました。
(こっこ)


<大丈夫じゃないのはどっち>

心配されると言い返せないから面倒くさい。

「そんなことされると、
 あたしが嫌な思いするからやめて」

って言ってくれれば、言い返せるんだけど。
こっちの心配をしてるようでいて、その実、
自分の心配してるのかも。
(りえぞー)



昨年、忙しくて
メールの返事をため込んだ期間があった。
その時ムッ! としたメールが、

「お返事がないんですけど、
 どうされたんでしょう?
 いえ、私はゼンゼン急いでないんですよ。
 でも、ズーニーさんがどうかなったんじゃないか、
 ご病気でもされたんじゃないかと心配で
 メールしました。」

困ってるのはどっち?

以前講演でご一緒した心理学の先生の、
「だれが困っているか?」
という問いを思い出す。

そもそも返事をしない私が悪い、
なのに腹を立てるなんてひどい、と重々認めたうえで、

メールの返事がこないとき原因は2通りある。

1つは、「メールを出した自分側に原因があったかも」
と疑うパターン。

送信ボタンを押したつもりが消去していた。
パソコンが故障していた。
自分側のサーバーでトラブルが起きた。
メールの書き方がまずく相手を怒らせてしまった、
などなどだ。

2つめは、「返事をくれない相手側に問題が起きたのでは」
と疑うパターン。

相手側のパソコン・操作・サーバーに問題が起きた。
海外旅行に行っているのかもしれない。
忙しいんだろう。
病気・事故ではないか、などだ。

自分側か、相手側か?

おなじ相手側の問題と思うにしても、
海外旅行など楽しい原因か? よくないことか?

「相手のことは相手に聞かねばわからない。」

なのに、わからないくせに、
多様な選択肢をすっとばして、いきなり、
原因は、自分じゃなくて「相手」に、
しかも「病気」にしてしまうから、
嫌われるのかもなあ。

困ってるのはどっち?

1つめの塾の先生にしても、
しゃにむに勉強しなくて困っているのは生徒、
じゃなくて先生だ。

「きみが、しゃにむに勉強してくれないと、
 先生のほうが、
 昔、第一志望に落ちてしまったトラウマとか、
 あのとき必死で勉強すればよかったという後悔とか、
 受験に失敗したせいで
 人生あれこれうまくいかないことへの恨み・つらみが、
 蘇って、暴れ出して、つらくなって、
 おんなじことがきみに起きたらとおもうと恐くて、もう
 どうしていいかわからないから、
 たのむから先生のために勉強してくれ。」

極端にするとそんな感じで。生徒もまだマシ、

「先生、もう苦しまないで。
 いま、すごく教え方のうまい先生だよ。
 これから人生いいことがあるよ」

と上から目線で先生を励ませるんじゃないか。
それを、「生徒が困るだろうから」と歪めてしまうから、
「恐れ」は解放されないまま発酵し、伝染していく。

憶測をやめる。

あのメール以来、私が実践していることだ。
そして私だったら、返事がこなかったらきっとこう書く。

「先日のメールのお返事、
 そろそろいただけるとうれしいなあ。
 予定が立てられなくて、私が困ってるので。
 せっかちでごめんなさい。」

自分のことなら自分でわかる。

「あなたはああです、あなたはこうです」
で話そうとすれば、
相手じゃなきゃわからないことが多いため、
そこに空白が生まれ、

人は空白に耐えられないから、
詮索・憶測が生まれ、

憶測が恐れを生む。

「憶測」を足場にすれば、
コミュニケーションはグラグラする。

いまの自分が「確実」に言えることを足場に、
コミュニケーションの一歩を踏み出していこう!

最後に、恐れに打ち勝つ読者たちのメールを
紹介して今日は終わろう。


<相手をちゃんと見ているか>

相手をちゃんと見ると、
その人に伝えたい言葉がでてくるのかもしれません。

最近、環境が激変し、
サークルを休止したいと申し出た友人がいる。
メールの文面は痛々しくさえあった。
どう返そうかと一瞬思ったが、私は打つのをやめた。
こんなにすぐに反応したら、きっと、大丈夫? とか
ゆっくり休んでねとか、
薄っぺらなつまらないものになってしまう。

「相手の気持ちになって」ってよく言う。

学校では、ロールプレイの寸劇がよく使われるけれど、
ちょっと劇したぐらいで
簡単に相手の立場になれるものかしら?
(cat)


<情報は多いほどいい、か?>

「受け流すチカラ」、
まだ無い僕にとって、とても参考になりました。

情報が多いことは便利、
しかしどの情報を信じたらよいものか悩んでいました。

「ネットなどの口コミの知識は、断片、断片なのだ。
 また、自分の体験というものは、
 強烈で、まぎれもないから、
 “当事者だから正しい”と、レアな経験を、
 万人に押し付けてしまうということが起こりやすい。」
なるほどと痛いほど感じました。

選択するのも自由、選択しないのも自由。

改めて最近の自分を振り返ってみると、
情報のインプットが多すぎたのかな感じます。
(知)


<日本にもよい言霊が>

口癖に「こわーい」という方がいます。
こわーいこわーい言っているうちに、
本当にそういうことが起こってしまいそう。

英語の「はぶあ ぐっでーい」とか、
いい言葉だな、と思います。
よいことを祈る言霊。
日本語なら、

「ごきげんよう」。

よいことを祈る言葉を口癖にしたいです。
(ひと それぞれ)


<信じる>

受け流すチカラは、自信から。
自分を信じることから。

自信は、少ないながらも能動的に働きかけることから。
受け身だと、巻き込まれる。
(フサコ)


<特異なケースに振り回されないで>

アメリカに住んでいます。
ある会社で、
男性と入れ替わり、
初めて海外出張に来られた女性が、
1人分の仕事にも関わらず、
男性とペアできたことがあります。

女性を海外へ送り出す会社側の親切心は理解できますが、
まだ女性が男性と同じ立場・同じ条件で
仕事ができない事があると感じされられました。

同時に「恐れを受け流すチカラ」が無かった人達の
判断であるようにも思いました。

日本で知る米国のニュースは大抵が
映画館や学校での乱射、有名な観光地での射殺事件等。
植え付けられるのは、
アメリカでは全員銃を持っている。
言葉もわからないしアメリカは怖い。
というイメージですよね。

日本を離れて十数年間、
インターネットで日本のニュースを読んでいますが、
日本でも強盗殺人、無差別殺人等、
日常的に起こらない事件ばかりが報道されていて、
逆にアメリカが安全に感じる時もあります。

便利なインターネット上の情報ですが
エクストリームな事に焦点が当たっていることも
少なくないですよね。

きっとたまたま出会った偏った情報をだけにとらわれて、
決定されている事って沢山あるんでしょうね。
(Aska)


<最悪を知る>

「最悪、これがある」というものを
提示してあげるといいんじゃないかなぁ。

恐れって、「最悪」がどこにあるのかわからないから
生まれてくるものなんじゃないでしょうか。

「最悪でもこの場所」というものを持ち得ていれば、
心配をさららっと受け流せると思います。
(あおい28)


<正しい知識を届けるために>

過剰な心配を「受け流すチカラ」
自分にとっては日常茶飯事です。

私は調剤薬局の薬剤師です。

毎日のように、来局者から、
過剰な心配や、
恐れからくる適切でない行為の話を聞きます。

新型インフルエンザの恐怖。
放射能汚染。
副作用がこわいから薬を飲みたくない。

恐れを取り除く特効薬は「正しい知識」です。

ただ、この特効薬、使用法が人それぞれでして、
皆様同じ使い方では上手く効きません。

使用法。
その人にとっての信頼できる筋からの情報
として得られるのが一番効く。

「より信頼できる筋」の作り方は、
権威好きな方にはより強力な権威から。
マスコミ好きな方には「最新の情報!」と、リーク。
うわさ好きな方には「うわさのタネ」と、
こっそりささやく。
(みろく)


<心配させてあげる度量>

心配するひと、
心配なあまり先回りしてやってくれるひとは、
必要としてほしいのだとおもいます。

家を出て18年になります。
あまり心配させないように、と思ってきましたが、
親はさみしかったらしく、逆に干渉がひどかった。

ちょっと甘えることをしてみたら、ずいぶん変わりました。
以前より心配も減りました。
親が元気になりました。

少し心配させて、
ありがとう、助かったよ。あなたがいてくれてよかった。
といってあげるのも、親孝行だとおもう。
(るうた)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
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2012-09-05-WED
YAMADA
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