YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson366
 お願いのメールを書く


人に何かを頼むときというのは、
エゴが出やすいときだ。

そもそも困ってたり、なにか欲求があって、
せっぱつまってお願いするわけだから。

そこで光るのは、
「相手の身になって自分の文章をふりかえる」姿勢。

むりやり頼みこむのでなく、
メールのどこか一文でも、ひと言でもいい、
相手から、「そうそう!」「いいねそれ!」と
共感してもらって、
相手から喜んで協力してもらえる、
そんな文章を目指そう!

まず、メールの文章は、「一発サビ出し」と心得よう。

中高年の人の中には、
「いきなり本題にはいるのは、はしたない」と
時候のあいさつや、まえおきを長々と書く人もいる。

でもメール社会の住人は、みな忙しい。

せちがらいようだけど、
「形式的な前置きはいいから、
 はやく、単刀直入に本題にはいってくれ」
というような気分で、メールボックスを開く人が多いのだ。

くわえて、メール社会の住人は、みな見切りがはやい。

最後まで、じっくりくわしく丁寧に読んで、
それから、いいメールか悪いメールか判断するのではない。
たいていは、はじまりの数行を読んで、
その印象で、いいか悪いか無意識に判断してしまい、
あとの部分はそのフィルターをかけて読む。

メールには電話のような声の抑揚、
手紙のような文字の雰囲気が出せないから、
読む人の気持ちで、いくらでもいい感情をこめて読めるし、
いくらでも悪意にとって読める。

つまり、書き出しから数行が決して手を抜けない部分だ。

お願いメールは、次の3つの要素で書きはじめ、
できるだけ1と2を短く、すばやく3に入ろう。

<書き出しの3要素>
1.あいさつ
2.名のり
3.志


1の「あいさつ」は、はじめての相手なら
「突然メールで依頼をさしあげる失礼をお許し下さい」
「はじめまして」などでいい。
メールのあいさつはあっさりと。
相手からしてみたら、まったく知らない相手から
「日ごろお世話になっております」
などとえんえん言われるほうが違和感だ。

友人や、同僚には、
「こんにちは」などの慣例のあいさつでもいいし、
「先日は○○をありがとう」と、
短く心のこもった感謝からはいるのもいい。

2に「名のり」。
自分は何者か、ここできちんと名のろう。

友人や親しい同僚なら、「ズーニーです」「山田です」
で済むけれど、
初めての相手にしてみたら、
「何を頼まれるか」と同等以上に、
「だれから頼まれるか」は大事で不安だ。
ここで、「一発で信頼される身分証明」をしないと、
あとの話までうさんくさく思われてしまう。

よくやってしまうのが、
「私は、ジンジントラスト社の管理一課、花崎幸一です」

これだと相手は、おそらく、「は???」だ。
いきなり知らない固有名詞が並ぶのは相手を不安にさせる。

「私は、ジンジントラスト社という<保険会社>で、
 お客様の<名簿を管理>しております、花崎幸一です」

というように、固有名詞だけぶつけないで、
「だれにむけてどんな仕事をやっているのか」
相手にわかる、できるだけ短い、説明で名のろう。

会社の上の人や同僚でも、
従業員数百人以上の会社や、部署が違う相手には、やはり、
自分の仕事が相手にイメージできる「名のり」をしよう。

3の「志」。

少々、唐突におもわれるくらいでいいので、
ここでいきなり、
「何を目指して、何をお願いしたいのか」、
直球で、本気で、時間をかけて考えて書こう。
音楽にたとえれば、
ここでいきなり「サビ」を唄う、そんな感じだ。
この「志」の部分が決まれば、
書き出しは決まったも同然だ。

やってしまいがちなのが、
「このたび、顧客名簿の管理システムの変更にともない、
 10月末までに顧客情報を
 再登録しなければならないことになりました。
 つきましては、まことにお手数ですが、
 お客様に、書類を再提出していただくことに
 なりまして‥‥」
というように、こちらの<都合・内情>からはいって、
相手にお願いをしてしまうことだ。
そうではなく、

「どんないいことを目指して、何を頼むのか」

あらかじめ、はっきりと示そう。
たとえば、
「私どもは、
 お客さまのお問い合わせに、
 よりはやく正確にお答えしたい、
 お客さまの手続きを、より簡単に楽にしてさしあげたい、
 という願いから、
 新しい顧客管理システムを導入することにいたしました。
 つきましては‥‥、」

というように。
文章を書くとき、なかなかエンジンがかからず、
いつも書き出しがくすぶっていて、
終わりごろ冴えるという人は、
ひととおり文章を書き終えて、
あとから前にもってきてもいい。
「結果的にだれにどんな貢献をするのか」というベクトルで
できるだけはじめのほうに、「志」を示そう。

本文は、<WHAT>と<WHY>の2つの問いで書く。

<本文の2要素>
4.あなたに何を頼むのか? WHAT
5.なぜあなたに頼むのか? WHY


4の「何を」で目指すのは、
なにより「相手にわかりやすい」ことだ。

「何をやるのか」の概要を、まず、わかりやすく
ざっくり言ったあとで、
スペースを区切って箇条書きにするか、
添付などで紙を分けるかして、必要に応じて、

・いつ (日時)
・どこで (場所)
・だれに対して (対象)
・何を 
・どのように 
・いくらで (報酬)

などといった要項をこれも極力短くまとめる。

5の「なぜあなたに頼むのか」で目指すのは、
相手の「やる気」をふるいたたせることだ。

理想を言えば、「相手の長所への理解」から
説明するのがいい。
「あなたはこのような、かけがえない経験・能力を
 もっている。だから他ならぬあなたに頼みたい」と。

ただ、これは初めての人にはなかなか難しいことだ。
相手の欠点にしても、長所にしても、
批評モードになってしまうと、
どうも上から目線になりがちだ。

たとえば、自分の上司である部長に、
企画のラフを見て意見をもらいたいという
メールを出すときに、

「部長の意見には、
 たたきあげの人にしかない薀蓄がある。
 だから、ぜひ、部長のご意見をうかがいたいと‥‥」

とやっても、ほめているのだし、非難はされないだろうが、
どうも上の人に、「あなたはこういう人間」と
批評目線になると、
なんとなく僭越な感じがしてしまう。

そこで、初心者の人には、
相手にそれを頼みたいと思った動機を、
「自分側が受けた感銘として」説明すると、
素直な印象が伝わるし、
何しろ自分が感じたことだから見当違いもない。たとえば、

「春の企画のときに、
 部長に○○○○というご意見をいただき、
 大変感銘を受けました。
 あの部長の言葉がなかったら、
 春の企画は別物になっていたと思います。
 そこで、今回の企画も、
 どうしても事前に部長のご意見をうかがいたいと‥‥」

というようにだ。

文章のしめは、次の2つで構成する。

<しめの2要素>
6.返事をうかがう方法
7.あいさつ


頼んだことについて、相手は、
「いつまでに、どんな方法で返信すればよいか」を書く。

原則的には、返事は頼んだほうからうかがうのが筋。
同僚であれば、のちほど返事を聞きに席まで行くとか、
外部のはじめての人にお願いするのであれば、
「何月何日に、こちらから電話をいたしますので、
 ご不明な点はなんでもおたずねください。
 お返事は、そのときいただければ幸いです」
といった手順を踏むのがのぞましい。

ただ、メールの場合、メールで返信したほうが、
かえって相手の負担にならない場合もあるので、
「何月何日までに、このメールに返信する形で
 お返事をいただければ幸いです」
と伝え、返信がこなければ、
こちらから電話をするというのでもいい。

できるだけ、
「‥‥してください」という言い方をつかわずに、
「‥‥していただければ幸いです」「嬉しいです」
という言い方にすると、押し付けがましくない。

しめのあいさつは、
「以上、ご検討よろしくおねがいします。」
などのシンプルなものでもよいし、
同僚や友人なら、
「日ごろの感謝をこめて」
など、末筆に感謝をそえるのもいい。

ふりかえっておこう。


●お願いメールの構成要素●

<書き出しの3要素>
1.あいさつ
2.名のり
3.志
<本文の2要素>
4.あなたに何を頼むのか? WHAT
5.なぜあなたに頼むのか? WHY
<しめの2要素>
6.返事をうかがう方法
7.あいさつ



このうち、もっとも時間を注ぎたいのが、
3の「志」の部分だ。

最近私は『AERA』という雑誌の取材依頼を受けた。
実はそのころ、メディアにでることに消極的だったのだが、
そのときに、依頼をしてきたライターさんは
1のあいさつ、2の名のりを、
手短にわかりやすくすませると、いきなり、

「山田さんは、
 なぜ山田ズーニーという名で仕事をして
 独自の仕事の領域を切り拓いてこられたのか?」

という自分の問題意識を、スパッと切り出した。そのあと、
「山田ズーニーの誕生」をテーマに取材をしたいと言った。

私は、「この問題意識に一票!」とばかりに即、共感した。
自分でも、会社員を辞めて、
再びどうやって社会にはいってこられたのか、
その謎を解明したいと思ったからだ。

ごく最近、講演を引き受けた依頼文には、
やはり1・2のあとに、
ある農業生産者に向けて、
コミュニケーション力を引き出す講演を
してほしいという志が、
熱意をもって語られていた。

多くの農業生産者は口下手で、後継者も不足している中で、
でも農業生産者たちが、
直接言葉で消費者に伝えていけなければならない現状が
切実に伝わってきて、
この志にも、「即、一票! 私がやらなければ」と
ふるいたった。

「志」の言葉化には、時間をかけてほしい。

いま、人を惹きつける依頼文を書いている人も、
最初は、1本の手紙を書くのに
1日も2日もかかったという。

時間がかかるのは、考える量の多さ、
決して悪いことではない。

「自分が相手だとしても、
 こんな依頼がきたらうれしいし、受ける」
初心者の人は、まずそこを納得ラインに書いていこう。

その「願い」、叶いますように!

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-09-19-WED
YAMADA
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