YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson329 エントリーシートが書けない


メールでも、レポートでも、企画書でも、
「文章が書けない」ってどういうことなんだろう?

たとえばこの時期、
エントリーシートが
書ける人と書けない人の差は歴然としている。

会社からエントリーシートを渡され、
「10日後にこれを書いて提出してください」
と言われたら、
書けない人は9日間なにもしない。

そして9日目の夜になって焦る。
「きょうは徹夜だ」と覚悟する人も出る。
例えばシートに、
「当社に入って何をやりたいか」という質問があるとして、
この問いにはまり込んで悩む。

まるで無から有を生み出すように、
白い紙にむかい、
答えをウンウンひねり出そうとする。

いざ書きはじめると、今度は語尾や言い回しなど
こまかいところに気をとられる。
書いては消し、書いては消し、と「表現を練る」。
思うようにはかどらず、時間切れになり、
エイヤーで埋め、イチかバチかと提出する。

一方書ける人は、
エントリーシートを渡されると、その日のうちに読んで
ひととおり質問を頭の中に入れておく。

そこからの何日間か、
OB・OGに会いにいったり、会社の資料を見たり、
新書の一冊も読んだり、
自分のことをふり返ったりしながら過ごす。

期限が来てシートに向かったとき、すでにネタはあり、
あとは、集めた情報をどう整理するか、
言いたいことの優先順位をどうつけるかの作業にはいる。

書くうえでも、まず、
「表現を練る」のでなく「思考を練る」。

つまり、語尾や言い回しではなく、
「ここは具体例をあげたほうがいいな」とか、
「ここは問題点 → 意見でなく、
 問題点 → その原因→ 意見
 でないと伝わらないな」とか、
足りない要素を探し出したり、
説明の手続きに頭を悩ませる。

エントリーシートが書けないという人に、
私は次の4つを各200字で整理してみてと言う。

1)自己理解
 どのようなことに興味やこだわりを持って生きてきたか。
2)現代社会認識
 目指す業界をめぐって、
 今の社会をどのように考えているか。
3)志望する会社に対する理解
 社会や業界の中で志望する会社を
 どのようにとらえているか。
4)将来の展望
 上記3つを踏まえ、将来、自分は何をしたいのか。

「当社に入って何をやりたいか」
の問いに、いきなりはまり込んで
ゆきづまっていた人も、
1)、2)、3)で頭を整理したあと、
「やりたいこと」を言ってみると、
意外とすんなり出せたりする。

エントリーシートが書ける人というのは、
実は、何も言われなくてもこれをやっている人だ。

つまり、「当社に入って何をやりたいか」と問われたら、
この問いにタコツボ的にはまり込んでもがくのではなく、
「この問いに答えるために自分には何が足りないか」
と自分で考えて、1)、2)、3)を準備する。

行きたい会社についての知識が足りないなと思ったら、
OB・OGに会いにいったり、
業界をめぐる社会背景がわかってないと思ったら、
新書を読んだり。

何か課題を与えられたら、それを書くために何が必要かと、
自分で発想して、自分で動ける。
だから白い紙に向かったとき、すでに差がついている。

これとまったく同じ光景を、大学入試の小論文に見る。

私は、難関と言われる小論文入試に合格した人
複数にインタビューしたことがある。その全員が、
「小論文の学習法を自分の手であみ出す」ところから
スタートしていたのに驚いた。

学校で小論文を十分ケアしてくれないところも多い。

だから自分で、
「合格レベルの文章を書くためには何が必要か」
と考え、
「他人の目から評価してもらうことが必要だな」
と思ったら、添削指導を
どこでどう受けるか考えて、受けられるようにして。
同様に、テーマへの知識はどうやって仕入れるかとか
書きやすい文章構成はどう準備しておくかとか。
みんな自分で考えて、自分で工夫してあみ出している。
「それは受かるわ」と腑に落ちた。

この差はなんだろう?

ある文章を書けと言われ、
ただ白い紙とにらみ合うだけで、うまく書けない人と、
書くために必要なことを自ら発想し、自ら動ける人と。

この差は会社に入ってからもついてまわる。
たとえば
企画書を書くにも、依頼書を書くにも、プレゼンにも。

ある情報が足りないために、その文章が書けない人に、
何々が足りませんよと教えることはできる。
難しいのは、なにも言われなくても、
書くために必要なことを
自分で発想して動けるようにすることだ。

いま、書けなくて手こずっている文章、
一歩引いて、それを書くために足りないものは何だろう?

どうすれば自分でそれに気づけるだろう?

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
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2006-12-20-WED
YAMADA
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