YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson221 彼らの未来

いま、職場では、
20代の若者と、
40代、50代の大人たちが
ほんとうに通じていないようで。

あちこちから、痛みに満ちた声を聞く。

いまの若い人は、
会社にも、企業社会にも、
ぜんぜんリスペクトしていなくて。

基本的に考えているのは「自分」のこと。

体裁をとりつくろうことさえなく、
「自己実現のためにだけ働く」と言い切る。

「他に面白いことがあればいつでも会社を辞める」と。

かといって、
「私利、私欲」のために動くということではない。

生まれたときから物質が豊かで、
金にも、出世にも、権威にも、たやすくなびかない。

けっこうよく考えているし、
いろんなことも知っている。
素直で、優しい心が垣間見える。

人につくすとか、
組織や社会に貢献するとか、
より高い目標数値をかかげるとか、

そういう煽りにいっこうにノッてこない若者は、
中年から見れば、何を考えているかわからず、
さぞ、心をつかみかねていることと思う。

若い人の方も苦しんでいる。

私も、今年ばかりは、
若者が、自分とはまったく違う理屈で動いていることに
衝撃を受けずにはいられなかった。

最初、ショックであり、
次第に、けしからんという気持ちがわきおこり、
教えてやらねば! とおもった。

ところが仕事で、
数多くの20代と接するうちに、
むしろ、教えてもらうのはこっちの方だ、と思いはじめた。

そういうと、
「若いものに味方して、自分だけイイ子になって」
と言われそうだが、そうではない。

未来は、若者の脳にある。

好むと好まざるとに関わらず、
あと20年、30年して、
彼らが世の中を動かすようになったら、
彼らの頭の中にあることが、
社会に出現する。

若い人が自分とはちがう理屈で動いているとしたら、
自分とはちがう理屈の世の中が出現する。

だから、なんとかして、
彼らの頭の中を理解したり、
自分の考えを伝えたりして、
そこにコミットしていかないと、

未来に居場所を失うのはこっちの方だ。

そこで、私がとった方法は、
いったん、自分の握りしめてきた価値観を手離して、
若い人の価値観にダイブすることだった。

勇気がいったが、得るものも多く、
より、若い世代と心でつながれるようになったと思う。

若い人の思考の流れ、時間の流れに
身をゆだねるようにして、ものごとを見てみると、
いまの大人たちの社会は、
あまりにせかせかと、忙しく見えた。

もっと効率よく、
もっと段取りよく、
もっと生産性をあげて、

速く! はやく!

とかりたてる。

私自身、気がつくと、若い人に、
とどのつまりは、「速く!」と言っていた。

そのための方法論は、どこから来ているかというと、
多くは、過去の自分の成功体験だ。

人はいったん成功すると、その方法にとらわれがちだ。

煎じ詰めると、と若い人に
過去に私が成功した方法で、
速く、それをやれ、と言っている。

でもそうやって、若い人を自分の歩いてきたカタチにはめても、
少なくとも私自身は、予定調和にはまっていって、
仕事はつまらなくなっていくだけではないか?

過去に自分がやった、自分ができることなら、
若い人とチームを組む時、
自分が知っていればいいことだ。

もっと自分にない、若い力に期待するということは、
若い力を活かすとは、この時代にあって違うと思う。

私はいま、それを模索している。

私が企業にはいった1980年代は、
まだまだ仕事に泥臭い部分がたくさんあって、
効率的なしくみをつくったり、
効率をあげていくこと自体に、
面白さや美しさがあった。

でも、さまざまなシステムが整理されつくし、
効率化が進みきった時代に、
会社にはいっていく、いまの若者はどうだろう?

このままさらに、さらに、
生産効率をあげて、会社はどこへ行こうとしているのか?
速く、社会は、どこへ向かうのか?

私たち大人は、面白そうな向かう先を
若い人に提供できるのだろうか?

どうも、若者から見て、
生産効率をつきつめた企業社会の向かう先は、
面白そうな、いい匂いがしないようだ。

では、若い人は、そっちではない、
いま、どっちを見ているのだろうか?

若い人に接するには、
「過去の目」でみていてはだめだ。
「いまの目」でも、まだ足りない。
その意識や思考から、
どんな未来のスタンダードが見えるのか?
「少し未来」をのぞきながら接するくらいでちょうどいい。

若い人が目をきらきら輝かせるところ、
新しい、面白そうな、未来の匂いがする。

私は、若い人の面白いものを嗅ぎ分ける感覚を
とても信頼するようになった。

それは、今年、前期42本の講義をはじめ、
若い人にライブで接する数多くの機会を通じて
築かれた信頼で、簡単には揺らぎそうにない。

いまの若い人は小さいときから、
非常に多くの情報を取り込み、選別してきた。
よいものがわかる。

うそを見抜くし、
こどもだましにはのらない、
本当にいいものにはちゃんと反応する。

私の講演を聞いていたある先生が言った。

「若い人は自分の価値観を生きる。
 大人は与えられた価値観を生きる。
 両方をあわせたら素敵かも。」

たとえば、20代と40代が想いの部分で通じ合えたら
ものすごく素敵な仕事ができると思う。




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2004-10-27-WED
YAMADA
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