糸井 |
馬以外に興味持ったこととか、なかったんですか?
ええい、馬なんかやめてやれ!とか。 |
加藤 |
思うことはいっぱいあります! |
糸井 |
それは、あるですか(笑)。 |
加藤 |
はい。
だからといって、
ひとつのことをできない人間が、
何ができるのかな、って‥‥。 |
糸井 |
それさ、言葉ではみんなそう言うけど(笑)。
そう言いながら、みんな、ブレたりズレたり、
回り道したり戻ったりしてるんだけど、
そういう危機はなかったんですか? |
加藤 |
ほんとにマネーゲームだな、と思ったことはあります。
こんなの、スポーツじゃないと思ったので。
揺れ動いた時期はあります‥‥。 |
糸井 |
プレーヤーとプロデューサーを兼ねて
生きてかなきゃなんないわけだから、
大人になりますよね。 |
加藤 |
はい。 |
糸井 |
マネーゲームだって知ったから、
プレーヤーである自分が、俺もやめるぜ、
っていうわけにはいかないわけで。
そこだよね。 |
加藤 |
そうかもしれない!
今まで言われたことはないんですけど、
そうかもしれないですね。 |
糸井 |
つまり、プレーヤーをなだめるために、
もうひとり、
プロデューサーとしての自分を育てていって、
マネーゲームだからって
おまえ引き下がるのかよ、
って、自分の中でやりとりがあるんだよね。 |
加藤 |
そうかもしれないです、ほんとに(笑)。
こんなに大変なのに、なんでやられてるんですか?
ってよく訊かれるんです。
どうしてできるんですか?っていう質問って、
馬が好きだからじゃないでしょうか、
ということになっちゃうんですが(笑)。 |
糸井 |
それしか、とりあえず言えないよね(笑)。
あと、とっても辞め方の難しいスポーツだと
思いますね。 |
加藤 |
そうですか? |
糸井 |
うん、だって、たとえば歌手は、
引退するときにマイクを置いたりするじゃないですか。
野球の選手だったら、バットを置いたとか
言うじゃないですか。
馬はね、置けないんですよ。
一緒に走った馬が、いるんですよね。
明日もご飯食べるんですよね。
そういう意味では、引きずるスポーツだと思う。 |
加藤 |
シドニーが終わって、
大スポンサーになって下さった方が、
「君、オリンピックに出られなかったんだから、
馬を返して」って言われてたら、
たぶん辞めてたと思うんですよ。
売却しろと指令が出ていたら、辞めてたと思う。
でも、ありがたいことに、
そのまま乗せて下さっています。 |
糸井 |
その馬が自分の馬だったら、
やっぱり、別れられないじゃないですか。 |
加藤 |
そうですね。 |
糸井 |
ねぇ。これ、永遠になっちゃいますね。
年取ってもいいんですか?競技を続けるのは。 |
加藤 |
もちろん。年齢制限ないですし。 |
糸井 |
年齢的なピークとか、
いちばんいい時期っていうのは、あるんですか? |
加藤 |
世界のトップランキングの、30位くらいまでは、
だいたい35歳から45歳の男性が
ほとんどを占めてます。 |
糸井 |
それは、ひとつには
プロデューサーとしての腕も
上がっていってるんでしょうね。 |
加藤 |
そうですね。
そういうかたがたは、
スポンサーを引き込んでいったり、
オーナーを引き込んでいく力があります。 |
糸井 |
いいトレーナーとか。 |
加藤 |
場慣れとか。 |
糸井 |
いい練習もできるしね。 |
加藤 |
賞金、全部そっちにいっちゃうので、ずるいんです。
あ、ずるいっていうか、
もう、しょうがないんですけど(笑)。 |
糸井 |
なるほどね。そういうもんでしょうね。 |
加藤 |
はい。 |
糸井 |
来年のアテネで、出られるとする。
選手に予想なんかさせるの失礼なんだけど、
金メダルを取りそうだって、
世界中から思われてる人がいるわけですよね、きっと。
そん中に加藤さんは、今いないんだ。 |
加藤 |
いません。絶対いません。はい。 |
糸井 |
いない。でも、金メダルを取りたいんですよね。
で、要するに、子どもじゃないから、
「金メダルを取りたいです」って、
ただ無我夢中でやってるのとは違う。
そういう中で、どういう気持ちで、
つまり、ガキだったら、
「俺だって優勝するんだ。運で優勝だ」って、
いうことまで含めて言えるけど、
そうじゃないですよね。
でも、優勝を目指さないで
選手になれるはずはないと思うし。
そういう気持ちを、人には何て言うんですか?
きっと、オリンピックが近くなると
色々な取材を受けますよね。
で、「どのくらいが目標ですか?」って、
言われちゃいますよね。
あれ、嫌な質問だと思うんですけどね(笑)。
だって、答えは金メダルしかないと思うんですよ、
ほんとうはね。
だけど、どっかで何かを、折り合いをつけた答えを、
みんながするの聞いてて、なんか変だなぁ、
と思うんだけど、加藤さんだったら、何て答えますか? |
加藤 |
‥‥ああ、シドニーの後、
アーヘンの大会があったんですけども、
アーヘン大会のときも、
私はまったくのダークホースでした。
でも、自分なりには自信はあったんです。
ここで成績を残さないと、
先につながんないというときに、
思い出して支えになったのが、
あのシドニーの大転倒だった。
失敗が、自分をすごく冷静にしたんですね。
そこからさらに、
ほんとの意味での経験を一個一個着実に積んでいけば、
これから1年間あるんだから、大丈夫だと。
馬と人間の世界なので、
奇跡はかならず起るんですよ。 |
糸井 |
うんうん。 |
加藤 |
障害の数は、20コです。
で、確かに難易度も高くなり、障害も高くなり、
雰囲気も、まあ、特異になる。
けれども、自分を失わずに、馬とのコンビで、
国際大会で練習はできるので、
そういう経験で場慣れをしていけば、
パフォーマンスはできると思うんです、
自分のベストの。
ベストのパフォーマンスができるということは、
減点ゼロ。
ということは、入賞圏内、
優勝圏内には入るんですよね。 |
糸井 |
なるほど。うんうん。 |
加藤 |
そういうふうに思えてるので、
まあ、そういう答えになると思うんですけども、
金メダルとか銀メダル、銅メダルということでは
言えないんですけども、
そういうベストのパフォーマンスができれば、
減点ゼロで、ジャンプオフに残り、
勝負にいける、って思ってるんですね。 |
糸井 |
なるほどなあ。
ほんとは選手はみんな、
そこまで長く答えたいんですよね、
あらゆる競技でね。 |
加藤 |
そうですね(笑)。 |
糸井 |
8位ぐらいだったけど、日本記録を出した人とかね。
でも、そういう人の気持ちって、
ほんとうには、理解してやらないじゃない?
報道するときでもさ、
「おしい」とか言うじゃないですか。
そいつが今までで一番いい記録出してるのに(笑)。
ほんっとにすごいことだと思うんですよね。
だから、そういうの、なんていうんだろう、
ちゃんとこう、言いあえる場があるといいね。 |
加藤 |
ええ、ほんとうに。 |
糸井 |
今の答えは、みんな言いたいと思う。
他のやつもそう言ってんだよ、
って意地悪な言い方もあるんだけど、
ほんとうに、そういうもんだと思うんですよね。
そういう見方で、スポーツを
みんなが見たらいいのにねぇ。
清水選手の練習風景で、
選手が、走って帰ってきたときに、
時計なんか見なくても、首かしげたり、
いいぞ、みたいな顔したり、っていうのを見たんです。
時計見なくても、時間をぜんぶわかってるんですって。
で、それはなぜですか?って訊いたら、
要するに、ピッチと速さ。
その2つの動きが、自分の体に染みついてるから、
どのくらいの時間走ったか、っていうのは、
時計見なくてもわかる。
で、どのくらい遅れてるのかも、ぜんぶわかる。
その話訊いて、すっげぇなーと。
乗馬もそっくりですよね。 |
加藤 |
そうですね。
馬は、一日中練習に付き合わすわけにいかなくて、
こっちが納得いくまでやらせるわけにいかないので、
そこは他のスポーツと違うところでもありますね。 |
糸井 |
ああ、そうだよね。 |
加藤 |
そこが、やっぱり頭数を持っている人が
上位にいってしまう理由でもあります。
たとえば素振りだったら100回ずっと、
納得いくまでできますけど、
馬は、そういうわけにはいかないんですね。 |
糸井 |
へぇ〜。こんだけ知るだけで、
ぜんぜん見方が違ってくるね。
でも、普段は、そんな映像とか、
ぜんぜん見ないもんね。
どこで見られるんですか? |
加藤 |
試合自体はいろんなとこでやってますよ。 |
糸井 |
ビデオとか出てるんですか? |
加藤 |
それは出てないと思います。 |
糸井 |
きっと、スポンサーなんかでも、
今みたいな話を知らない人は、
スポンサーにならないわけですよね。
なりようがない。
そんな世界で、迷いはあっても、
辞めなかったっていうだけでも、すごいね。 |
(つづきます:次回の更新は、