がんばれ、加藤麻理子。
障害は、馬と跳ぶ。アテネ五輪への道。

第3回  月に450万円かかります?!



糸井 今生活の拠点になっているのが
ドイツってことですけど、
そこでは練習したりするんですよね。
練習以外はなにを?
加藤 馬も筋肉のトレーニングが必要なので、
週に3、4回は、トレーナーのいる厩舎に通います。
この維持費がすごく高いんですが。
糸井 それは、自分で負担しなきゃならないわけですか。
加藤 はい。ボックス代といって預託料が高いんです。
今世界でも一番って言われてる、
無名の選手を何人もトップに送りだした
オランダ人のスーパートレーナーがいて、
ほんとうは、その人にお願いしたいんですが、
値段も高いし、常にフルブッキングなんです。

だから、そこから5、60キロ離れた、
オランダとドイツの国境に
プライベート・ステーブルがあるんですが
そこがそんなには高くないんで、
馬を置いてるんですね。
で、そこから毎週3、4回、
馬を乗せてトラックでトレーニングに通ってるんです。
だいたい1時間ぐらいの距離なんですけども。
糸井 馬が乗ってると、トラックもゆっくり走るんでしょう?
加藤 そうですね、危険ですしね。
それで筋肉トレーニングや、
獣医さんへの予約の連絡、装蹄、
自炊や洗濯など、色々とやっていると、
1日があっという間に終わります。
平日は、そんな風に、
ほとんど厩舎とトレーニングを行ったり来たりです。

で、週末は国際試合に出てます。
だいたい場所にもよるんですが、
たとえばイタリアの下の方まで行くと、
2日かかるんですよ!
糸井 車でしか移動できないもんねー。
加藤 金曜日から始まる場合は、
月曜日には出ないといけないんです。
糸井 それをひとりでやってるんですか?
なにかチームがあるんですか?
加藤 チームです。でも、チームといっても、寄せ集めで。
F1みたいなチームができれば、
それはいちばん理想なんですけど、
そんなことはできないので、私入れて3人です。
ひとり高校を卒業したばかりの男の子が、
やりたいと言ってくれたので、その子と、
昔から知ってる同級生が、
大型トラックの免許を持ってるので、
アテネオリンピックまでは、
応援してあげようということで、
来てくれています。
糸井 その3人は、臨時みたいな3人ですよね(笑)。
加藤 そうですね(笑)。
糸井 はあ。
みんな日本人?
加藤 そうです。
厩舎から2分くらいのところに
みんなで住んでいます。
糸井 それは、マンションみたいなところに?
加藤 いえ、すごく田舎の村で、
夏だけリゾート地らしく、
そこのコテージを借りているんです。
でも、「あのー、ここがリゾート?」
っていうような(笑)。
糸井 ただの田舎(笑)。
そこは、家賃を払う仕組みですか?
加藤 はい。
糸井 じゃあ、家賃は払わなきゃなんないし、
馬の維持はずーっとあるし、
トレーニングにお金かかるし、
自分が食べてく分もあるし。
もう十分にお金かかってますね。
で、しかも稼ぐ時間はないんですよね?
加藤 そうです。
賞金をゲットしないといけないんですけど。
糸井 賞金がゲットできれば、
そのくらいは何とかなるんですか?
加藤 いや(笑)。かなり勝たないと(笑)。
糸井 かなり勝たないと、だよね!
加藤 毎週勝たないと駄目ですね。
しかも、Aクラスで。
国際競技のAクラスで、グランプリで勝っても、
だいたい賞金300万円ぐらいだと思うんです。
まあ、3000万円ってところも
あるんですけども。
糸井 すごい中のすごい、なんでしょ、それは。
加藤 はい。
それ以外の、各国で毎週やってるところは、
だいたい平均で150万とか、最高で300万です。
優勝して。
糸井 2位、3位になると、ずっと落ちるんでしょう?
加藤 下がりますね。
日本人で、Aクラスで、グランプリ優勝者っていうのは、
今まで一人くらいしかいないんですよ。
糸井 あたー。
じゃあ、その賞金で食ってくっていうのが
できたらいいけども、今はできないですね。
加藤 はい。
糸井 親が大金持ちでも無理ですね。
よく僕ら、噂でしか聞かないけど、
スケートの選手はお金がかかるんだとか、
いろーんな話が聞こえてくるけど、
どのくらい掛かるかっていう
リアリティがないんですよ。
だけど、今の馬の話って、リアルですね(笑)。
馬と自分が共倒れだもんね。
加藤 ええ。緊迫感があります。
糸井 で、そこで、お金が、
スポンサードが、必要になるんですね。
加藤 はい。
糸井 ひと月で、どのくらいかかると考えればいいんですか?
加藤 試合の競技数にもよります。
やっぱり試合に出て行かなければ、
そんなに遠征費がかからないんです。
それから、馬の疲労もないので、
獣医代もグッと落ちるんですね。

でも、今は、アテネオリンピックの1年前なので、
どんどん試合に出ていきたい。
それを考えると、馬が3頭いたとして、
月にだいたい450万円くらいはかかります。
糸井 はぁー!
べつに国の援助があるわけではないですよね。
加藤 そうですね、
ほとんどプライベートで頑張ってくれ
という感じで(笑)。
糸井 プライベートで頑張ってくれと!
ぜひ頑張るように、と(笑)。
競馬協会とも関係ないんですよね。
加藤 ないです。
糸井 じゃあ、450万ずつ毎月なくなりながら、試合に出て。
で、今のところは賞金以外、
稼ぐあてがないという状態を、
どのくらい続けてらっしゃるんですか?
加藤 ええと、今まではまだ試合に、出てないんです。
やはり、試合に出れば、
それだけお金がかかるので、出れないんです。
出ても、月に1回くらい、
国際大会、Aクラスまでいかない、
近場の試合で済ましてるので、
ほんとにお金は、かかってないです。
それから、頭数もいないので、
ほんとに月にその3分の1ぐらいで済ませてますね。
糸井 150万くらいですよね。
それで何とかなってた?
加藤 そうですねー。
生活費といっても、みんな自炊すれば、
そんなに、かからないので。
糸井 うん、うん、うん。
もう、自分のために使うお金のことなんか、
ひとつも考えてないですね。
加藤 興味ないですね。馬に使いたい。
それが自分に使ってることなんですが。

誰もやったことがないことを、
やってみたいと思ってます。
糸井 そうか、ものっすごい金遣いの荒い娘だけどね‥‥。
加藤 (笑)。

(つづきます)

2003-09-17-WED

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