担当編集者は知っているSP。

世の中に「本」と名の付くものは多いが、
ある意味では、どの本だっておもしろい。
『つまらない本はない。
つまらなく読む読者がいるだけだ』
という意見だってあるくらいだ。

どんな本にも担当編集者というパートナーがいる。

「ほぼ日」は、この担当編集者という人々に注目した。
この人たちの担当した「本」や「著者」への愛情を、
できるだけそのまま伝えてもらったら、
本は、もっともっと輝いて見えてくるのではないか。
ベストセラーも、古典も、学術書も、専門書も、
たった数百部しか流通していない本だって、
それの良さが愛情をもって語られたら、
もっと大勢の人たちのところに届けられるだろうし、
もっと深いところまで読みこんでもらえるにちがいない。

今回は特別篇として、
『土と左官の本』編集チームに登場してもらいました。

 




『土と左官の本』
編集:アイシオール
出版社:建築資料研究社
定価:2200円


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「左官」とは、
土壁や漆喰壁を塗る職人のことです。
土、砂、藁、石灰、
そのほかさまざまな材料と水を按配しながら、
機能的にも意匠的にも、
その場所にふさわしい壁をつくりあげます。
日本では長い間、
壁といえば左官による塗り壁を指しました。
土間の床である三和土、かまどづくりも左官の仕事でした。
多くは文字通り、その「土地」を映し出すものでした。

収納物を守る土蔵の厚い壁も、
朴訥としたてらいのない壁も、
上品な光沢をもつ洗練された壁も、
荒々しくひび割れた壁も、
趣向を凝らした味のある壁も、
侘びた風情を演出した壁も、
左官はつくり出すことができます。
材料や価値観、予算などによって、
いかようにもできるというところに、
現場仕事ならではの、
おおさかさ、おもしろさがあります。

しかし、ここ半世紀、本来の左官の仕事は、
私たちの生活から徐々に遠くなってゆきました。
時間と手間がかかる、コストが高い、
標準化できないといった理由です。
壁は新建材やビニルクロスなどによる
乾式工法にとって代わられ、左官材料も既製品となり、
工法は簡略化され、自然素材を調合しながら使うことも
稀になってしまいました。
左官の仕事も、基礎工事を行ったり、
コンクリートの表面を直したり、
タイルやブロックを張るといったように、
多様になってゆきました。

でも、そろそろ変化が始まっています。

私たちは、この取材を通して、何人もの
すばらしい左官の方々とその仕事に出会いました。
そのたびに、いろいろなことを教えられました。
混ぜて、塗って、乾かす、その自由さと無限性。
驚くほどさまざまで美しい、土や砂の色。
手間と時間をかけることでこそ、生まれてくる豊かさ。

応用を可能にするのは技術と経験と知恵だということ。
彼らが垣間見せてくれるのは、
わくわくする新しい世界でした。
こんなに素敵なひとたちばかりなのはなぜだろう、
土に触れているせいなのだろうか、と思うくらいでした。

        『土と左官の本』(建築資料研究社)より


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今日から数回は、
「担当編集者は知っている」特別篇をお送りします。
現在発売中の『土と左官の本』について。

六本木の青山ブックセンターに入ってすぐの
ベストセラーの書棚に並んでいるぐらいの、
かなり好調な売り上げを見せているムックなんですよ。

編集した多田君枝さんたち4人のチームに伺った
この本の制作話が、とてもおもしろかったので、
思わず、数回に分けてご紹介したくなりました。
数回の取材におつきあいいただけるとうれしく思います。

「ほぼ日」は、ここ数か月、
農業やスローライフや手仕事に興味を持って
いくつかの特集をお送りしてきました。
そんな折に、一通のメールが舞いこんできたのです。

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・もしもしお気に召せば(というか是非)
 「担当編集者は知っている」
 に登場させていただきたい本が出ます。
 その名は「土と左官の本」。
 もともとは『CONFORT』(建築資料研究社)という
 建築、インテリアの雑誌を編集していた私たちが、
 同業界ではありながら、土と左官という、
 まったく違う「泥くさい」分野に関心を持ったのは、
 ほんのおつきあいのつもりで参加した
 ワークショップがきっかけでした。
 泥で小屋をつくる、そんなワークショップに
 わんさと詰めかけている20代の若者達!
 え・・なに・・・?
 参加費払って、交通費払って、泥だらけになって、
 藁をなって、スイカかじっている。
 どうやら泥遊びには、
 人を夢中にさせてしまう秘密があるのだと気づきました。
 そのワークショップの指導にきていた左官さんたちに、
 たまたま「世界的」左官がいたり。
 なんだか久々にリアルさを感じました。
 私たちは九州に、新潟に、
 左官さんに逢いにでかけました。
 かかわった編集者、ライター、カメラマン、
 なぜかみんな夢中になってしまいます。
 やや予算無視のきらいもあったほど、
 取材に力を入れました。
 とにかくぜひこの本を見ていただけませんか?
 どうぞよろしくお願いいたします。
 (編集 アイシオール)


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この方たちがもともと編集していたという雑誌、
『CONFORT』は、アカデミックなものも扱う
本格的なものだよなぁ、本屋で見かけたことがあるし。
そのかたたちが、土の本を出す???

あ、おもしろそうだ、と思いました。
メールをいただいた2日後に、
さっそく、お会いしてみました。
出会ってみると、なるほど、こりゃあほんとうに、
予算無視なほどお金をかけた本だったのです。


(次回から、編集の方たちへの
 インタビューをお届けします。おたのしみに!)

担当編集者さんへの激励や感想などは、
メールの題名に「土と左官」と書いて、
postman@1101.comに送ってね。

2002-05-20-MON

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