「ほぼ日の健康手帳」が ニンテンドーDSi用のソフトになりました。  自分の健康について 考える道具。 岩田聡(任天堂社長)×本田美和子(医師)×糸井重里

糸井 最近うちの会社で流行っている言葉に
「自問自答」というのがあるんです。
岩田 自問自答、ですか。
糸井 もともと、吉本隆明さんの言葉なんですけど、
どういう自分でありたいのか、
その自問自答を
どれだけ繰り返してきたかというのが、
その人だ、ということをおっしゃってるんです。
こうありたい自分と、いまの自分とのあいだに、
何がちがうのか、それをどれだけ
自分に問いかけてきたか、
その対話がその人をつくっているんだという。
岩田 はい。
糸井 その通りだなと思うんですよ。
あらゆることって、自問自答でできてるんです。
たとえば、あの、さっきお話ししたダイエットって、
基本的には体重を1日2回、計って記録する
いわゆる「計るだけダイエット」なんですけど、
それにしたって、体重が動いたことについて、
日々、自問自答するんです。
本田 なぜ減ったかとか、なぜ増えたかとか。
糸井 そう。「なんだっけなぁ」って。
そしてまた、そこに知識が加わると、
格段にわかってくるんですよね。
岩田 つまり、自問自答を経ると、
次におなじことをしたときに、
その経験によって、
自分が得るものの量が増えるんですね。
糸井 そうです、そうです。
で、自問自答するための「種」というか、
きっかけみたいなものがあるんですよ。
岩田 その「計るだけダイエット」でいうと、
1日2回、体重計に乗ることが
自問自答のきっかけになる。
糸井 そうなんです。
その意味では、この「健康手帳」も、
自問自答のきっかけになりますよね。
岩田 なりますね。
「健康手帳」に自分のことを書いていくことで
ふだん考えてなかったことを
考えられるようになるというのが、
もっとも大事なところだと思います。
糸井 書き込むことで自分に問いかけて、
自分でそれを考えて答えて、
ということを、まずやってほしい。
本田 そうですね。
糸井 で、そのときに、見つかるものだとか、
見つからないものがあるというのを、
なにか心に留めておくだけで、
次に見つかるものが変わりますよね。
岩田 そう思います。
糸井 じゃあ、最後に。
岩田さん、時間をかけてじっくりつくってきた、
DSiウェア版の「健康手帳」が
いよいよリリースされるわけですが、
この先の夢といいますか、
この「健康手帳」が、これから
どんなふうに伝わっていってほしいというような
イメージはありますか?
岩田 そうですね。
やっぱり、お医者さんに会うときに、
DSiを持って行く人が増えるというのは
まぁ、ちょっとへんな光景では
あるかもしれませんが‥‥。
本田 いえいえ。
岩田 最初はお医者さんから
怪訝に思われるかもしれませんが、
そこから少しずつ認知されて、
いずれ、お医者さんが、
「これを持ってきてくれると助かるなぁ」
って思うようにならないかなと思います。
糸井 あぁ、いいですね。
岩田 それは、ゲーム機と社会との関わりかたが
変わるということだと思うんです。
糸井 DSって、ゲーム機ってことになってるけど、
すでにゲームじゃないところまで行ってますからね。
岩田 いままでのゲームというのは、
ゲームという決まった枠の中でつくるのがほとんどで、
でもその枠は、自分たちで
決めていたようなものだったんです。
「こうしないとゲームらしくないぞ」って。
本田 はい。
岩田 だけど、そんな古い枠にとらわれずに
もっと広がってもいいんじゃないかと考えて、
開発したのが脳を鍛えるゲームだったり、
犬と暮らすゲームだったり、
英語の勉強をするゲームだったり、
料理をつくるゲームだったりするわけです。
それをゲームと呼ぶのかなと感じる人も
いらっしゃるのかもしれませんけど、
ご褒美がスコアやクリアーじゃなくて
実生活に現れるというだけですから。
糸井 うん。その意味では、この「健康手帳」も
広がったゲームの一環ですよね。
岩田 そうですね。
記入することで自分の健康について
考えるきっかになるもので、
いざお医者さんにかかるというときには
自分の状態を正確に伝える有効な道具になる。
ふたつの大切な要素をもったこの「健康手帳」が
ひとりでも多くの人に
広がっていけばいいなと思います。
本田 ほんとにそうですね。
今回、この「健康手帳」を
無料でダウンロードできるものに
してくださったのは、
その広がりのイメージを
お持ちだったからでしょうか。
岩田 はい、ゲーム機のソフトなのに
自分の健康について考える機会をつくり、
お医者さんのところに行くときに、
持って行ってください、などという、
世の中に前例のない提案なので、
まずは、ひとりでも多くの方に
体験していただこうと考えたんですね。
糸井 そうですね。
これまで、この健康手帳の
存在を知らなかった人にも
さわってもらえるとうれしいなぁと思います。
この『ほぼ日の健康手帳』
というプロジェクトって、
まだまだはじまったばかりだと思うんです。
本田さんの思いが詰まった分厚いバインダーから
ようやくここまで来た、というのかな。
本田 そうですね。
糸井 まだまだ新しい展開があるだろうし、
改訂や改善もあると思うんです。
だから、ほんとに、ここがスタートライン。
岩田 ええ。
本田 はい。
糸井 あとは、ぼくはゲームのファンでもあるので
しっかりと言っておきたいんですが、
なんていうか、ダウンロードして記入した人から
「つまんない」って言われちゃう可能性も
あるだろうなって思って。
だって、『どうぶつの森』とか『脳トレ』とか
さんざん遊んだ人たちから見たら(笑)。
本田 (笑)
岩田 まぁ、これに『脳トレ』のような
おもしろさがあるかといえば、
そうではないですからね。
目指すところがそもそも違うというか、
でもこれは、考えるきっかけを提供する
道具のようなものですから。
糸井 そうですよね。
最後にそれを言っておきたかった(笑)。
今日はどうもありがとうございました。
岩田 こちらこそ、ありがとうございました。
本田 本当に、ありがとうございました。
ぜひ、たくさんの人の
お役に立つといいなと思います。
(おわり)

2010-04-27-TUE