Dear DoctorS ほぼ日の健康手帳 --医師の本田美和子さんといっしょに、  「自分を大切にするための道具」をつくりました。
本田美和子さん×糸井重里対談
本田美和子さんはなぜ、
健康手帳が必要と思ったか。
2008-12-10
糸井重里はなぜ、
健康手帳をつくろうと思ったか。
2008-12-11
ゆっくり育てていきましょう。 2008-12-12
糸井 まず、本田さんが
こういうものが必要なんだと
思ったところから話していきましょうか。
本田 「ほぼ日」で健康についての連載
9年以上つづけさせていただきましたが、
もともとわたしは一読者で。
アメリカの病院でレジデントをしていたころに
「ほぼ日」を知って、すごくおもしろいなと思って、
メールを出したんですよね。
そのときに自己紹介として
少し自分のことを書いたんですが、
それから、健康のことについて書いてみないかって
糸井さんにお誘いいただいて。
糸井 ええ、そうでしたね。
本田 わたしは臨床医になって16年めになりますが、
研修医の1年目から今日まで、
ずっと変わらず思っているのは、
わたしたちが知っている
健康を守るために役立つ知識を
じょうずに患者さんにお伝えすることが
とっても大事だということです。
そして、それがうまくできていないことに
いつももどかしさを感じていました。
わたしたちが知っていることを、
お役に立つから、ぜひ知ってください、
そういう気持ちが、あの連載だったんです。
糸井 ええ。
本田 自分を守るために、
自分の健康や生活を守るために、
ぜひ役立ててもらえるとうれしいなと思う、
医療の現場で働いている者がもつ知識や経験、
それをお伝えする場として、
「ほぼ日」は最高の場です。

なぜかというと、わたしたち医者が
ふだんお目にかかるかたって、
みなさん「患者さん」なんですね。
糸井 なるほど。
本田 すでに病気になってしまったかたにしか
お会いできません。
でもほんとは、もっと前に、
ここをもう少し気をつけていたら、
病気にならずに済んだかもしれない。
そういうことが、たくさんあります。
それをお伝えできる場所として、
あの連載があって。
とくに健康に興味のないかたでも
たまたまクリックして読んで、
感想を送ってくださることも多くて、
ほんとうにありがたかったんです。
糸井 ブログのない時代だったからね。
本田 そうなんですよね、ほんとうに。
糸井 機能としてのブログができてからは、
自分がひとりで思い立ったことを
しゃべる場所というのができたんだけど、
「ほぼ日」をはじめたころは、
まだブログのない時代だったから。
じゃあ書いてみたら? みたいな感じで
あの連載をはじめたんです。
本田 最初のころは、前日の夜に原稿を送ったら、
その数時間後にはそれがアップされていて(笑)。
糸井 すごいことしてたよね(笑)。
本田 ほんとに。そんなふうにしてわたしは、
一般のかたに健康のことをお伝えするということを
あの連載で実現できたんですが、
インターネットとはまた違う媒体で、
自分の健康を管理するようなものが
できるといいなということをずっと考えていたんです。
自分の健康についてふだんからまとめておいて、
書きながらも役に立つし、誰かに見せても役に立つ、
「おとなの母子手帳」のようなものを
つくりたいと思っていました。
糸井 なるほど。
本田 その考えをまとめたのが、
アメリカでの生活を終えて日本に戻った後に
東京大学の「医療政策人材養成講座」という講座に
通っていたときです。
その講座は、医療政策について話し合う1年間のコースで、
わたしはその2期生です。

だいたい40人くらいの人が集まるんですが
その40人は、医療に関する4つのグループから
バランスをとって採用しています。
医療従事者、医療を受ける立場、
メディア、行政の立場から医療を考える政策立案者、
そういう立場の違う人たちが集まって、
レクチャーを聞いて話し合い、
自分たちでなにかテーマを決めて、
プロジェクトとして形にするんです。
糸井 その講座はどのくらいの頻度で集まるんですか?
本田 週に1回、3時間くらいですね。
そのプロジェクトとしてわたしが考えたのが、
自分の健康状態を知るための道具をつくるということ。
それまで自分であたためていた
「おとなの母子手帳」のようなものをつくりたい、
ということでした。
それに賛同して集まってくれたのが、
消費者センターの相談員のかたと、
健康雑誌の編集者のかた、
医療問題を扱っている弁護士さん、歯医者さん、
それからソーシャルワーカーのかた。
わたしも含めた6人が意見を出し合って、
1年かけて、手帳のようなものができたんです。
糸井 ははぁ。
本田 講座では賞もいただいたんですけど、
でもそれを見てみても、おもしろくないんですね。
これを実際に使ってもらえるものにするには、
いったいどうすればいいかなと思いながら、
講座が終わったあとも2年間、
自分で書き足したり、抜いたり、熟成させて。
ようやく今年のはじめに、
これくらいあれば不足なく、
役に立つと思うものができたんですけど‥‥
こーんなに厚くて。
糸井 (笑)ええ、見ました。
本田 書けば絶対に役に立つものにはできたんですが、
ぜんぜんおもしろくないし、
分厚くて、見返すのもめんどうくさい。
実際にみなさんに使っていただけるかどうかは
きわめて難しい、と思いました。
それぞれのエレメント、内容については、
ものすごく自信があるんですが、
使っていただく自信も
これが役に立つものだということを
みなさんに知っていただく自信もない。
3年かけてつくってみたものの、
届ける方策が、わたしにはないということに
気づいたんです。

それで、ほぼ日手帳という、
あれだけたのしい手帳をつくっている糸井さんに、
何かしらお知恵を貸していただけないかと思ったんです。
糸井 そこで、ぼくらがその分厚いファイルを
見せられたわけです(笑)。
本田 はい(笑)。
糸井 それは本田さんが心からやりたいものだったし、
本田さんの、ものすごく大事な友だちみたいなものとして、
健康手帳の原型があったんですよね、まず。
これはいったい何なんですか、というときに、
ぼくが、あ、もしや、と思ったのが
そのなかにあった、
「転ばないでください」という項目だったんです。
転ぶということが、どのくらい危険なことで、
ひとつのサインになるのかということが書かれていた。
それが、本田さんのその分厚いファイルのなかで、
ものすごく目を引いたんですよ。
高齢者が転ぶと危険だということを、
知らなかったわけじゃないけども、
ほんとうに重要なことなんだな、と思って、
「これ、なんですか?」って
聞きたくなったんです。

(明日につづきます)



2008-12-10-WED