「簡易版」が生まれるきっかけを作ってくださった人、 NHKアナウンサーの武田真一さんと話しました。  武田真一さん×本田美和子さん「簡易版」が生まれるきっかけを作ってくださった人、 NHKアナウンサーの武田真一さんと話しました。  武田真一さん×本田美和子さん

「NHK ニュース7」のキャスターとして
おなじみの武田真一さんは、
「ほぼ日の健康手帳 簡易版」の
きっかけを作ってくださったキーパーソン。
本田美和子さんとは、高校、大学と同窓で、
旧知の仲というおふたりですが、さて、
「武田さんのニュースを聞いていなかったら
 たぶん思いつかなかったと思う」と
本田さんがいう、そのニュースとは?





本田 武田さん、きょうはありがとうございます。
武田 いえ、こちらこそ。
夏にお会いして以来ですね。
本田 わたしのほうはいつもニュースで
会ってる気になっているので
久しぶりという気もしないのが
なんだか不思議ですけど(笑)。
どうぞ、よろしくお願いします。
武田 よろしくお願いします(笑)。
本田 NHKのアナウンサーとしてご活躍の
武田真一さんにきょうお越しいただいた
経緯から、まずお話させていただきますね。
震災のときに
「健康手帳 簡易版」を作ったのですが、
そのきっかけになったのが、
武田さんのお伝えになった「ニュース」でした。

3月11日に東日本大震災が起きて、
それからしばらく、武田さんは出ずっぱりで、
スタジオからニュースを
伝えつづけていらっしゃったんですが、
たしか、「ニュース7」も時間を拡大して
放送されていましたよね。
武田 ええ。午後7時から9時、
2時間に拡大して放送していました。
本田 日々、いろいろと大切な情報が
発信されていたと思うのですが、
そのなかのひとつに、
「避難所にいて体調を崩された方は、
 救援診療所を受診するときに、
 いま飲んでいる薬の袋でもいいので、
 お持ちください」
という内容の、呼びかけがあったんです。
震災の翌日、土曜日に
武田さんがお伝えになったニュースでした。

被災されて避難所に入られた方々のなかには、
けがをした方や体調のわるい方が
すくなからずいらっしゃるだろうし、
不安と寒さのなか、これからさらに、
体調を崩される方は増えるのではないか、
とても心配な状況がつづいていたときのことです。
武田 はい。
本田 持病のある方にとっては、ご病気が悪化したとしても、
いつも通っている医療機関を
受診するのはむずかしい状況があって。
ふだん薬を飲んでいる方が、
一時的にかかる救援隊の医師に
自分の病気は何か、飲んでいる薬は何かということを
自分で伝えるということは、
ほんとうに、大事なことなんです。

そのためにも「薬の袋が役に立ちます」という
呼びかけは、すごく大事な情報提供だと思いました。
そして、「薬の袋より、もうすこし役に立つものが
つくれるな」と思ったんです。

もちろん、その方に処方されている
薬の名前と飲み方が書かれている袋は、
とても大切な情報源です。
これに加えて「もっとからだを守る情報のあるもの」
ができそうだなと思いました。

先日、武田さんにも見ていただきましたけれど、
手元には『ほぼ日の健康手帳』という、
からだの情報をまとめておく
「大人の母子手帳」のようなものがありました。
その手帳のなかから、とりわけ、
いまの被災地で役に立つ項目を抜粋して、
1枚に書き込めるものを作ってみたんです。
それを糸井さんにご相談したらすぐに賛成してくださって、
できあがったのが、この、
「ほぼ日の健康手帳 簡易版」です。
「ほぼ日」の東日本大震災関連の特設ページから、
ダウンロードできるようになったんですが、
スタートがたしか、翌週の火曜日、
(ほぼ日に)でしたよね?
ーー はい、3月15日、火曜日でした。
本田 うれしいことに、
避難所にいらっしゃる方も使ってくださったし、
医療救援隊として被災地に入った先生方が
これを使ってくださったということがあって。
武田 あぁ、そうですか。
本田 日本循環器病学会と
日本プライマリ・ケア連合学会などの、
学会の先生方や病院から派遣された医師団が
被災地で使ってくださいました。
茨城県つくば市に設けられた避難所では
これを問診票とカルテの代わりに
使ってくださったとうかがっています。

あわててつくったものでしたが、
すこしでもみなさんのお役に立てたなら
ほんとうにうれしいなと思っていて、
武田さんの伝えたニュースが、
これを作るきっかけをくださったことに
とても感謝しています。
ごめんなさい、一方的にしゃべってしまって(笑)。
武田 いや、よくわかりました(笑)。
ーー わたしも「健康手帳」をとおして、
薬の名前や自分のからだの情報を、
自分で知っておくことが大事だと、
わかっているつもりだったんですが、
これほどつよく実感したのははじめてでした。
薬の袋を持ち出す余裕のなかった方や、
ご自宅が津波の被害にあって、
薬の袋も流されてしまったという方が、
たくさんいらっしゃって、
さらにその後のニュースでは、
その方たちが別の医療機関で薬を処方してもらうときに
薬の名前や量がわからなくて困ってしまった方も
すくなくなかったと聞いて‥‥
ほんとうに「自分のために必要なんだ」と、
あらためて知ったきもちでした。
本田 そう、そうなんですよね。
武田 薬の名前って、たしかにぼくなんかもまったく‥‥
ふだんは家のなかに薬の袋があって、
それを見ればわかると、思ってしまってますね。
本田 ええ。そういう方はめずらしくないと思います。
武田 それがなくなると、
何もわからなくなってしまうという‥‥。
なくなったのは、薬の袋なんだけど、
薬の袋という「もの」だけじゃなく、
自分にとって「大切な情報」まで、
一緒に失われてしまうということなんですよね。
本田 ほんとうに。
さきほどお話した手帳のほうは、
ご自分の健康のことをふだんから
いろいろ書いていただければと思って
作っているものなんですが、
この簡易版のほうは、それとは別に、
とりあえず書いておいていただいて。
これ1枚なら、たたんでお財布のなかにでも
入れておくこともできるので、
いざというときに、役に立てていただけるかな、
と思っています。
武田 なるほど、そうですね。
‥‥たしか、震災のあと、直後くらいに
本田さんからメールをいただきましたよね。
こういうものを作った、と。
本田 ええ、そうでしたね。
とにかくお礼を伝えたくて。
武田 じつを言うと、ぼくはそのとき、
あまりピンときていなかったんですよ。
本田さんがいったい何に反応して、
どういうものを作ったのか、
よくわかってなかったんです(笑)。
本田 あぁ(笑)、無理もないです。
わたしも興奮していて、うまくつたえられなくて。
すみません。
武田 そのあとでお会いしたときに直接お話をうかがって、
作られたものも見せていただいて。
すごく、よかったと思ったんです。
本田 それを聞いて、安心しました(笑)。
武田 作られたものも、すばらしいなと思いましたし、
個人的にも、すこし救われた思いだったんです。
というのは、ぼくらは、なんというか、
すごく打ちひしがれていたんです。
今回の震災で、あまりにも多くの方が
犠牲になってしまいました。
報道に携わるものとして、
テレビは「ライフライン」だ、
人の命を守るんだ、と思って
ふだん息巻いてやってきていて‥‥
しかも、停電で、肝心の被災地に
放送自体が届いていないという現実があって。
放送が、命を救うということに、
どれだけ資することができただろうかと考えると、
どうしても、無力感を感じずにはいられなかったんです。

それが、こういうふうに、ぼくらのお伝えした情報が、
被災地の方々の役に立つことにつながっている。
つなげてくださっている方々がいることが
ありがたいなと思いましたし、
すこしは役に立つことができたんだろうかと。
本田 それはもう、間違いないと思います。
ニュースを聞いて、わたしが
「わたしにも何かできるかも」と思ったように、
みんながいろんな形で自分にできることを考えて、
つながっていったということがたくさんあって、
放送がそのきっかけになったことって、
きっと、ずいぶんありますよね。
武田 ありがとうございます。
そうやって、みなさんをつなぐ、
「ハブ」というのかな、そういったものに、放送がある。
それも、放送の役割のひとつなんだということは、
ぼく自身もあらためて実感したことでもありました。
一方で、ぼくらとしては課題となることも多くて、
毎週のように会合を重ねてきているんです。
アナウンサーの伝え方もそうですし、
ハードウエアの整備とか、体制の組み方などですね。
いろんな課題がありますので、ひとつひとつ見直して、
もっとよりよいものにしていこうと
報道局全体で検討しています。
本田 先日お会いしたときにも、
さまざまな緊急情報の取り組みを検討されていると
うかがって、きょうはそのことも
すこしお聞きしたいと思っていたんです。
いろいろあると思いますが、
たとえば「アナウンサーの伝え方」では
どんなことを検討されていますか?
武田 そうですね、いろんな見直しをしているんですが、
ぼくらの課題のひとつとして、
今回のような未曾有の災害のときに、
「とんでもないことが起きているぞ」ということを、
どのくらい切迫感をもって伝えられるか、
ということがあるんです。
本田 地震のあと、かならずといっていいほど、
「津波に注意してください」という
呼びかけがありますものね。
武田 そうなんです。
津波警報も過去に何度も出ていますし、
じつは震災の数日前にも、
東北地方で津波注意報が出ているんです。
そういう津波注意報、津波警報が出たときに、
それを伝える放送の、伝え方の肌触りというのかな、
雰囲気は、同じようなトーンなんですね。
落ち着いて、淡々と伝える。
もちろん、正確に伝えるということが第一で、
そのためには冷静であることは必要なんですが、
そのうえで、さらにできることは
ないだろうかと考えています。

たとえば、なんですが、
「いち早く、避難すること」。
そんなふうに、命令形でいうのはどうかとか、
そういう表現も、検討してみています。
本田 「ただごとではない」と
受け取ってもらえるようにですね。
武田 震災以降、ぼくらはいろいろな専門家の方の
お話を聞いたりしているんですが、
群馬大学大学院教授の片田敏孝さんという、
防災工学の専門家がいらっしゃるんですね。
片田先生とお話ししたときに、
とにかく細かい表現はどうでもいいんだ、と。
「人を動かすのは、人の言葉でしかない。
 熱意をもって、とくかく、
 逃げてくれと懇願するしかない」
そうお話しくださって。
それにぼくは、すごく意を強くしたんです。
それは、アナウンサーだからできることです。
日々、視聴者のみなさんと接して、
言葉というものに対して思いをもっていて、
その表現について、
誰よりも深く考えていると思っていますので。
人をほんとうに動かす表現は、
ぼくらが考えなきゃいけないことなんだ、と。
本田 自分を守るために
何をすればいいのかを知りたいとき、
伝える言葉のもつ力は
ほんとうに頼もしいものなのですね。
きょうはとても良いお話をありがとうございました。


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2011-12-29-THU

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