ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

虫歯のない会社宣言。

思いついたんだけど、ほんとうはこれ、
会社のミーティングの議題にするべきなんだよね。
「こういうこと考えたんだけど、どうだろう」と、
提案してさ、討議して、
決めるなり、やめるなりすることだとは思うんだ。

だけど、生チョコじゃないけどさ、
まだやわらかいアイディアの段階で、
読者に問いかけちゃってね、
それを社内の人たちも読んで、
ミーティングする前の資料としてもらう。
そうしようと思ったんだ。

まず、前々から考えていたこと。
歯医者にちゃんと行って、
歯のわるいところがなくなって、
歯石とかもきれいにしてもらうと、
じぶんでも歯みがきを熱心にやるようになるよな、と。

逆に、虫歯だとか歯周病だとかがあって、
痛かったり危うかったりしているときは、
へたにさわるとひどいことにもなりそうだし、
「どうせ、おれの歯はひどいもんさ」というふうに
開き直った気持になりやすいので、
歯みがきがいいかげんになってしまう。

これは、かつてニューヨーク市が、
犯罪の街だとか言われていたときに、
そこから抜け出すために、
地下鉄の落書きを徹底的に消したり、
古いビルの割れたガラス窓を修理したりして、
「汚しにくい環境」を取り戻すことからはじめた、
という話にも似ている。

汚い場所は汚してもいいと思いがちだし、
きれいな場所は、きれいにしておきたくなるもの。
そういう心理が人間にはあるらしい。
街も歯も、同じことではあるまいか。

次に最近思っていたこと。
どうも、若いときには
自己愛は強いくせに、
じぶんのからだを大切にあつかわないなぁ、と。
じぶんがそうだったということもそうなのだけれど、
やっぱり、若いときというのは、
「じぶんのからだを大切にあつかう」ことなどは、
かっこわるいと思ってるのだろうか。

優先順位がきわめて低い、
他のいろんなことが忙しくて手が回らない、
というような理由があるのかもしれないけれど、
「意気」やら「意思」やらも、
からだの支えあってのことだ、ということを、
まだ知らないのだろう。
ついでにいえば、優れたアスリートたちは、
じぶんのからだを、見事なまでに調律している。
これを、かっこいいと思えるようになりたいものだ。

あと、ま、ついでに言えば、
「じぶんのからだを大切にあつかう」にしても、
それは無料でできることばかりではない。
限られたお金を、どう使うかと考えたら、
なにかが後回しになることも、仕方がないかもしれない。
そして、このところ痛切に思うこと。
「会社の健康は、みんなの健康とイコールです」
と、最近、社内のメールに書いた。
逆の言い方もできるわけで
「みんなの健康は、会社の健康とイコールです」
ということでもある。

ぼくらのやっている仕事は、
息を止めてがんばりきってやるようなことではない。
最近の流行りことばでいえば、
「サスティーナブル」っていうんですか、
持続可能性のあることじゃないと、いけないのだ。
そのためには、もちろん、
ものごとを考え続けられるようなしつこさだとか、
喜怒哀楽をしっかり感じられることだとか、
とても基本的なことが大事になるのだけれど、
そういう基本のさらに底にあるのは、健康だ。

弱さとか、病気とか、怪我とかがいけないのではない。
しょうがないからね、そういうことは。
ただ、健康が大事に考えられないのは、いけない。
ぼくは、そう思う。
会社が健康であるために、
たいていの会社はそのコストを予算化している。
健康診断だとか、人間ドックだとかも、
そういうことのひとつの例だ。
でも、もっとほんとうに大事なのは、
アスリートのようにとは言わないけれど、
じぶんのからだを調律できることだと思うのだ。

以上のようなことを、
ばらばらに考えてはいたのだけれど、
日曜日の午後、バスタブのなかにいて、
歯を磨きながら思いついた。

いま、オレには虫歯が一本もない。
かつては、虫歯だらけだったし、
虫歯の治療でどれだけ大変な思いをしたことか。
しかし、まじめに歯医者に通って、
しっかり治療をした。
そして、一定の期間ごとに予防的な検診をしている。
そのおかげで、いま、歯についての不安はない。

歯についての不安があるだけで、
「どうせ、おれは」と、からだの健康全般についても、
いいかげんな姿勢になってしまいがちである。

そうだ。
風邪の予防に「ちゃんとした手洗い」が大事だったように、
健康な生活への入り口に、
あんがい「歯」から入るのはいいかもしれない。
「ほぼ日」のなかの、誰ひとりとして虫歯がない‥‥
なんてことは、実現できるんじゃないか?

学校にいたときのように、
歯の一斉検診をして、
悪いところを確認する。
そして、その部分の治療計画を出してもらう。
半年後に、その治療がすべて終わっているとしたら、
その時点で、「ほぼ日」には一本も虫歯がないと言える。
むろん、治療の予約などについては、
いわゆる勤務時間のなかでも行ってもいいとするし、
保険治療の範囲内なら、
会社が「福利厚生費」として支払えるのではないか。

これをすると、歯科医師の団体とかが、
すべての会社で「虫歯一本もない運動」をしたら、
仕事としても歯科治療の啓蒙としてもいいから、
きっと協力してくれるのではないか。
あ、そのへんを、「ほぼ日」のコンテンツにしてもいいか。
題して、『虫歯のない会社宣言』っていうの。

‥‥とまぁ、このあたりまで考えた。
どうだろうね、「ほぼ日」の読者の皆さん、
歯科医の皆さん、「ほぼ日」乗組員の皆さんよ。

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