ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

しょうがの国・日本へ。

「しょうが王」になるというホラは、
挑戦さえせぬままに、終結宣言をだしてしまったが、
王になるとかならないとかは別として、
「しょうが」そのものががんばるには、
最高の状況がやってきているように思うんだ。

とにかく、人々の身体はしょうがを求めている。
それはもう、まちがいないわけで。

ただ、じぶんがしょうがを求めているということを、
まだ知らない人たちがいる。
そして、しょうがを手に入れること、
しょうがを食べたり使ったりする方法を知らないまま、
しょうがとすれちがっている人たちがいる。
そういう「いま」なのだ。

まだまだ、しょうがを「常備」している家は少ない。
ひっきりなしにしょうがを食べたり飲んだりしている人も、
うちの近くには多くなってるけれど、まだまだ少ない。

しかし、しょうがは、
いずれ、「しょうが王」を存在せしめるほどに、
人口に膾炙するであろう。
人口に膾炙する、という表現は、
漢字のテストで習ったけれど、
じぶんで使ったことはなかった。
今日は、はじめて使ってみたが、うれしくもない。

韓国の人たちが、キムチを山ほど食べるだろ。
食う食う、使う使う、売る売る、漬ける漬ける!
韓国という国が、海に浮かんだ船だったとしたら、
嵐が来て難破しそうになったとき、
おれなら言うね、
「船内のキムチを捨てろ!」
この命令が実行されたら、
そのおかげで、どんだけ積載量が減ることか。
そのくらい、韓国にはキムチがあるわけよ。

日本には、そういうものが、かつてはあった。
たぶん、それは「たくわん」だったのだ。
しかし、いまは日本中の「たくわん」すべてを捨てても、
日本はさほど軽くはならないことであろう。
「梅干し」も、いかにも大量にありそうだけれど、
そうそう多くもないだろう。

しょうがだって、これまでは
ただのひとつの付け合わせだった。
鮨屋のガリだったり、焼きそばの紅生姜だったり、
うどんの薬味のすりおろししょうがだったり、
主役になる気もなければ、
名脇役として称賛されることさえ少ないような
「ただのいいやつ」だった。

しかし、そんな歴史は、もうおしまいだぜ!

しょうがは、韓国のキムチみたいになるんだ。
「日本に旅行したら、どこにでもしょうががあってさ」
なんてことを、イタリア人だとかエジプト人だとかが、
地元に帰って言うようになるんだよ。
「イタリアもさぁ、
 もっとしょうが使うといいんじゃない?」
なんてことを、イタリアの家族がしゃべるようになるんだ。
スパイスとしておいしいし、殺菌作用もあるし、
胃腸のクスリにもなるということのみならず、
「とにかく、あったまるのよね」なんてことを、
来日経験のあるエジプト人が語るようになるわけだよ。

日本中の家庭に、「しょうがシロップ」はある。
日本中の人たちが、「しょうがスライス」を持ち歩く。
ごはんの友は、しょうがの漬け物だとか、
しょうがの佃煮だったりもする。
入浴剤には、「しょうが湯」が大人気。
そういうふうになるわけさ。

まぁ、主婦がそれぞれの家で
自家製の「しょうがシロップ」を作り置くのは常識だね。
でも、独り者だとか、仕事で忙しい家では、
買ってくる「しょうがシロップ」だって悪くないよ。
どこでもふつうに売ってるし、
いろんなヴァリエーションのものも商品化されてるしね。

なんでもないような変化だけど、
こうなるまでには、少しだけ時間がかかるかもしれない。
「しょうが農家」が、「しょうがで稼ぐ」つもりで、
じゃんじゃんしょうがの作付けをしてくれなきゃね。
幸い、キムチの素材である白菜なんかに比べて、
重さも軽いし、体積も小さいからね、
広々とした畑が必要なわけじゃないんだ。
小さくてもピリリと辛いのは、山椒ばかりじゃない。
しょうがも小さくても、人気商品に育つからね。

あらゆる「飲みもの」「食べもの」に
「しょうが」を使ったものが出てくる。

「コカコーラ・ジンジャー」だとか、
「キリンレモン・しょうが」だとか、
「ハウス・ジンジャーカレー」だとか、
「ハーゲンダッツ・ジンジャーシナモン」だとか、
「ガリガリ君・しょうが」だとか、
「つけ麺・しょうが野郎」だとか、
「ヤマザキ・しょうが食パン」だとか、
「キッコーマン・しょうがしょうゆ」だとか、
「しょうが大福」だとか、
「しょうが肉まん」だとか、
「しょうが大福」だとかね。
いくらでも出てくるよ、そのうちには。
だいたい、そんなにむつかしいことじゃないんだし、
なにせ、からだにもいいんだから。

あ、このへんで、
時代の流れに聡く、リスクを覚悟して、
「よし、おれはしょうがに賭けるぞ」なんて
立ち上がった農業事業家が、
「しょうが王」になっちゃうのかもしれないなぁ。
もちろん、そういうナマの素材だけじゃなく、
しょうが加工商品で大当たりする人も出てくるね。
永谷園さんとか、ちょっとばかし先行してるもんね。
投資に興味のある人だったら、
しょうがで先行している永谷園とか、
もう目を付けてたりしないもんだろうか。

農家で作る人が増えて、
国民全体のしょうがの知識が増えて、
売れば儲かると小売店が知れば、
2年もあれば、じゅうぶんに
「しょうがの国・日本」ができあがるんじゃない?
そのころには、どうなってるかも想像しよう。
みんなの身体が温まってるから、免疫力が上がってて、
「国民総健康値(ってなものがあるとして)」が、
ぐんとアップしちゃうだろうな。
体温があがって、カロリー消費が増えるから、
メタボとかも減っちゃうね。
つまり、医療費なんかも下がっていくわけよ。
いやぁ、このへん、冗談みたいに読めちゃうかなぁ。
そんなことないよ、本気だよ。
韓国のキムチよりも、簡単なはずだしね。

ぼくが遠慮したというか、
何もしないうちに挫折した「しょうが王」計画も、
あちこちで、たくさんの人たちが実現してるんじゃない?
2012年くらいのところで。
可能性、あると思うんだよなぁ。

これを読んでる企業とか、農家とか、
やってみたりしないかなぁ。

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