ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

草食の恐竜は怖くないか?

恐竜のことなんか話していると、
どういうわけか、恐竜の大きい小さいのことになり、
やがて、「大きいからといって恐ろしいわけじゃない」
ということを言い出す者がでてくるんだよね。
いや、正直にいえば、おれもそうだったよ。

体長が30メートル以上もあるような恐竜は、
その大きさがゆえに花形の資格がある。
展覧会だの、博覧会だのっていうときには、
こういった20メートル30メートルの、
見上げるような大きさの恐竜が欠かせない。

しかし、いつのころからか言われるようになった。
「ブラキオサウルスとかって、草食なんだよな」とね。
乏しい恐竜の知識をひっくり返してみても、
そういえば、そうなのだ。
でかい恐竜は、植物食というか、草食が多い。

同様に、派手なかたちをした恐竜たち、
つまり、いかにも絵になりそうな装飾的な恐竜の
ステゴサウルスとかトリケラトプスというようなやつらも、
大きくもなく、「草食だろ」ということで、
なんだか「実は安心安全な恐竜」
みたいな言われ方をしちゃう。

その逆に、小さかろうが、
かたちがシンプルで面白みがなかろうが、
「肉食」の恐竜は、一目置かれちゃうんじゃない。
襲う、というイメージがあるんろうだなぁ。
その王者が、ティラノサウルスだ。
このへんのは、「怖い」だの「強い」だの言われる。

さて、言いたいのは、この先だ。

「草食」は怖くないのか?

‥‥これだけのことだ。
草食というのだから、肉食じゃない。
だから、目の前にあんたやおれがいても、
エサとして食おうとはしないだろうよ。
でも、それだけのことなのだ。
よく考えてみてくれ、ゾウは草食だぞ。
アメリカバイソンだって草食だし、
サイだって草食だ。
だけど、十分に怖いじゃないか。

30メートルの草食の恐竜が、
草食であるというだけで、
なんとなく怖さが少ないと思われているのは、
おれには、なーんか不満なんだよねー。
30メートルじゃなくていいよ。
5メートルで、2メートルでもいいよ。
2メートルで、しかも草食の恐竜‥‥どう?
ちっとも怖くない?
人間はエサじゃないけれど、
彼らに危害を加える可能性がある生物だからね。
あっちだって、なにかをきっかけに、
過剰に防衛的になるかもしれないだろう。
そしたら、ぶつかってくるよ。
押し倒されるかもしれないよ。
草食なりの平らな歯で噛むかもしれない。

山岳地帯のヤギが、なわばり争いをしている
ドキュメンタリー番組を見たことあるけどさ、
壮絶だよー。
まるまった三日月みたいな角だから、
刺さりゃしないんだけれど、
そいつを激しくぶつけ合うんだ。
そりゃぁもう、恐ろしいような迫力だった。
ご存じだろうけれど、ヤギは草食だからね。

ちょっとは、わかってもらえたかなぁ。
草食と肉食の区別では、
恐竜の怖さ強さはわからないのだ。
さらに言えば、逃げ足だとかね、
土に潜って隠れるだとか、
そういうことまでも含めて、実力だから。

つい、数年前まで、
じぶんが思っていたことに対して、
注意をうながしてみた。
「ああ、草食かぁ‥‥」って、思ってたからね。
草食というのは、食性であって、
それがゆえになめちゃぁいけないぞ、とね。

恐竜のことを書いているうちに、
このごろ、へんな流行り方をしている
「草食系男子」っていうことばを思い出してしまった。
これも、恐竜とまったく同じことが言えるじゃない。
ウシだのヤギだのを、なめないほうがいいよ。
弱いライオンより、強いヤギってことは、
言えると思うよー。

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