ITOI
ダーリンコラム

<むだ話。ふたつ。 >


ひとつめ。

じいさまは、言った。

「ほとんどの、人の考えというものには、
 ある特徴がある。
 ほとんどの、人の考えというものは、
 考えているじぶんの、
 生きている理由、
 ますます生きていたほうがいい理由を、
 もっと肯定するために生れてくる。

 じぶんが生きていくために、
 不都合な人や、
 不都合な考えについては、
 じぶんが生きるのに不都合になるから、
 無くしてしまいたいということになる。

 だいたいの人は、
 そういう考え方をしているもんだ。」
 
それは、そう言っているじいさまの考えも、
そうだということかい。

「そうだな。
 ほとんどが、そうだ。
 あんたが、わしの考えにうなずいてくれたら、
 わしは、ちょっとだけ、生きやすくなる。
 そして、わしがいることは、
 そう悪いことでもなかったかと、うれしくなる。」
 
でも、じぶんのためばかりじゃなく、
他人のためや、みんなのためになる考えだって、
あるはずだろう?

「他人のためになることや、
 みんなのためになることが、
 じぶんのためにもなるのでなかったら、
 それは考えとして語られないだろうな。
 ほんとうにいやなことは、したくないものだ。
 ほんとうにいやなことは、
 人間はしないようにできているからな。」
 
じぶんにとって、ほんとうにいやなことで、
みんなのためになること‥‥を、
人間はしないというのかい。

「しないだろうな。
 じぶんの心臓をとりだして差し出しても、
 おおぜいの人たちから辱めを受けても、
 じぶんからそれをしたのだったら、
 それは、ほんとうにいやなことじゃないよ。」
 
じいさまにとって、
ほんとうにいやなことって、どんなことだ。

「そんなことは、考えたことがないな。
 だいたいの人は、そんなことは考えたことがない。」
 
 
ふたつめ。

くまに襲われたら、死んだふりをしろって言うだろう。
あれは、はんぶんだけ、ほんとなんだ。

ただ、くまだって、ばかじゃない。
死んだふりをしているのか、
ほんとうに死んでいるのかくらいは、
試すのがふつうだ。

あんたが死んだふりをしているとき、
くまはあんたの顔色をみる。
そこは心配しなくていい。
くまは、人間の顔色についてくわしくないからな。
でも、そのあとで、
死んだふりをしているあんたの鼻と口のあたりに、
しずかに手のひらを近づけるんだ。
この手のひらは、とてもくさい場合がある。
くさいからって、びっくりしちゃいけない。
いや、そもそも、においをかいじゃだめだ。
あんたは、死んでいるんだから、
息を止めてなきゃいけないんだよ。
これ、気をつけよう。

ここまで、なんとかしたら、
くまは、あんたのことを死んでいると思いこむ。
そして、あんたから離れるだろう。

でも。

ここで安心するのは早いってことだ。
くまは、念のために最後に確かめるんだ。
死んでいるはずのあんたに、
ちょっと離れたところからね、クイズを出すんだ。
‥‥それが、とてもかんたんなクイズなんだよ。

たとえば、こんなだ。
 
 東京にあるタワーは、つぎのうちのどれでしょう。
 1番、東京タワー
 2番、エッフェル塔
 3番、とうちょうタワー
 
あんたは、あっけにとられるだろう。
答えが、あまりにもかんたんなんだ。
答えたくて答えたくて、うずうずしてくる。
くまは、クイズをもう一度くりかえす。

 東京にあるタワーは、つぎのうちのどれでしょう。
 1番、東京タワー
 2番、エッフェル塔
 3番、とうちょうタワー
 
そして、こうつけくわえるんだ

 わかりませんかぁ?
 
うまく死んだふりをしていたあんただった。
うっかりクイズに答えたりはしない。
だがしかし、
ついつい、こころのなかで思っちゃうんだ。
「東京タワーだろう、そりゃぁ」とね。
そのとき、死んでいるはずのあんたのからだが、
ちょっと生き生きしてしまうんだな。

それを、くまは見のがしゃぁしない。
にっこり笑いながら、もどってくるんだよ。

おしまい。 

このページへの感想などは、メールの表題に、
「ダーリンコラムを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2008-09-22-MON
BACK
戻る