「ほぼ日」10周年を迎えてのごあいさつ また10年後の自分に、感謝されたい。

とうとう、10周年を迎えることができました。
1998年の6月6日から数えて、10年が経ったわけです。
いや、なにもしなくても10年は経ったのですけどね。

吉本隆明さんの
「どんなことでも、
 毎日10年やり続けられたら、
 一丁前になれる」
ということばを、いちばん信じていたのは、
ぼくたちだったのかもしれません。
信じるというのは、ばかのようになることです。
利口な方法や、知恵のあるやり方を探そうともせずに、
「毎日10年続ける」ということをやってきました。
いや、考えてみれば、
ばかのようにでなければ続けられませんでしたね。

そして、とうとう待ち望んでいた10年がやってきた。
ほんとうにその日が近づくとなったら、
正直なところ、ぼくはさみしいような気持ちになりました。
たのしみにする「その時」が、
「その時」からは、
なくなってしまうのですからね。
それでも、逃げたり避けたりするわけにはいかないので、
ただただその日を待とうと思いました。

で、10周年の日を迎えられて。
果たして、ぼくらは一丁前になれたのでしょうか。
働き人たちの腕の力こぶのように、
仕事師たちの手の胼胝のように、
目に見えるものがあればいいのですが、
どうやら、そういうものもありません。

でも、さぁこれで一丁前になれた、と
思うことにします。
これからは、
自分らが一丁前であることを信じます。

こうなることを信じて、いわば憧れて生きてきたからなぁ。
さみしいばかりでなく、
力が抜けちゃったりしないかと思われることでしょうが、
わはは、そんなことは産毛ほどもない。
実感として、途中だもの、いつも。

だいたい、その「一丁前理論」の元になった
吉本隆明さんに関係する大きなプロジェクトも、
いまやっと動き出したところですしね。
いつも予告編と本編を並行してつくっているから、
ひとつが終われば、ひとつが始まるという具合に、
まるまる止まるということがないんですよね。
おもしろいですよ、ほんと、こういうの。

先日、「ほぼ日」の全員と、
順番にひとりずつ話すという機会があったんです。
話しているうちに、自分の感じていたことだとか、
無意識で思っていたことがだんだん見えてきたりしてね。

「10年も前に、こういう「ほぼ日」みたいなものを
 怖がらずに始めてくれた自分に、感謝してるんだ」と、
本気で言っていました。

10年前のぼくが始めてくれたから、
いま、こんなふうに、
ああでもないこうでもないと、
おもしろいことをやれるわけです。
そこに集まってくれた仲間もいるし、
なによりも、読みに来てくれたり、
意見や感想をくれたり、買い物を楽しんでくれたり、
イベントに参加してくれたり、投稿してくれたり、
よろこんでくれる人たちが、たくさんいる。

10年前だって、怖れる気持ちは、
ないことはなかったんです。
でも、こっちの道のほうがおもしろそうだ、と、
いまよりは10年分若いぼくは、走りだしたのでした。
それでも50歳でしたから、若くはなかったですかね。

無謀といえば無謀だったし、
年相応の分別も足りなかったとは思うのです。
でも、その足りなさが、
いまのぼくらの場所をつくってくれたのですから。
過去の自分たちに、ありがとうと言うしかないです。

そして10年の一区切りがつきそうなところで、
あらためて思ったのです。
ぼくらは、10年後にどうしているんだろう?

つい半年前までは、考えてなかった10年後のことでした。
しかし、「ほぼ日」の乗組員たちひとりひとりと、
なんのこともない話をしているうちに、
「10年後の自分に、また感謝されるかなぁ」と、
想像してみたのでした。
いま自分が、10年前の自分にありがとうと言ってるように、
10年後の(ずいぶん年老いた)自分は、
この2008年の自分に、
「サンキュウよ!」と言ってくれるか。

またまた、なにかが足りないのでしょうけれど、
またまた無謀なことなのかもしれないのですが、
勇気のある舵を切って、
10年後の自分に、言われてみたいです。
「ほぼ日10周年のころの、ばかな自分のおかげでさ‥‥
 いま、こんなにおもしろいんだよなぁ」と。

いろんなことに飽きっぽいぼくなのですが、
ほんとうにやろうと思ったことには、しつこいです。
だって、ほら、「ほぼ日」だって、
こうして「毎日で10年」やってきたでしょう?
ここから先の10年も、たのしみになってきました。 

これからの10年というのは、
これまでの10年とはちがって、
もうちょっと、生きるための運を
必要とする年月になるかもしれません。
だけど、そこまでは行けるような気がしているので、
余計なことは考えずに、
また10年、行こうと思っています。
ご迷惑かもしれませんが、許してください。

まずは、まず1日、進みます。
それを重ねて来年の今日を迎えるようにします。
こんなふうなくりかえしで、10年先の場所に
立ってみたいと考えています。
あんがい、またおもしろい日々になりそうです。

乗組員のみんな、付きあいのある皆さん、
そして読者として集まってくれた方々、
これからも、どうぞ、いっしょにたのしんでください。

今日まで、ほんとうにありがとうございました。
今日からも、ずっと、ありがとうございます。
こんなふうに、たくさんのあなたに会えて、うれしいです。



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