東京カリ〜番長・水野仁輔さんが選ぶ カレーの思い出。
#その12

こんにちは。
つい先日、下北沢にある書店「B&B」で開催された、
「カレーの金言」というイベントで
久住昌之さんと対談しました。
久住さんといえば「孤独のグルメ」で有名ですが、
僕にとっては、なんといっても「中華そば 江ぐち」の人。
三鷹にあったシガナイ中華そば屋さんに30年以上通い続け、
店主と会話を交わすことなく黙々と食べながら、
客や従業員を観察し、妄想をし続ける。
そんな久住さんのライフワーク(?)を
一冊にまとめた本です。
僕は初めてあの本を読んだとき、大げさにも
「グルメの本質はここにある!」と感銘を受けました。
食べることの悦びには色々な側面がありますが、
多くの場合、「うまいかどうか」が基準になってます。
でも、久住さんは通いまくった「江ぐち」の中華そばを
「なんともない普通の味」だと言う。
なんともない味を食べ続ける悦びは、
「うまいかどうか」とは別のところにあるんですよね。
カレーを食べ続けている僕もそれをよく思います。
しかもその喜びは極私的なもので、
誰かと共感できるものではなかったりするんです。
「水野さんの好きなカレー店はどこですか?」とか
「おいしいカレー店を教えてください」みたいなことを
聞かれるたびに、このことが頭をよぎります。
でも仮にそれを伝えたいと僕が力説したら、
質問した人はきっと引くでしょう。
「いや別にちょこちょこっと教えてくれればいいんだけど」
って(あ、でも気軽に尋ねてくださいね、
一所懸命答えますんで)。
この「カレーの思い出」コーナーでも、
おいしくないカレーをなぜかおいしいと思えてしまう、
といった思い出にときどき出会います。
そうそう、それそれ! それなんだよな~、と思う。
でもなかなか口で説明するのは難しいですね。
久住さんの「中華そば 江ぐち」は
それを見事に表現していたから、
僕にはグサーッと来てしまったんです。
ああ、いつか僕もああいう本を書きたいなぁ、カレーで。


056
アリサパパ

私は九州の福岡育ちですがカレーの肉といったら
鯨でした。
そのころは肉だと思っていました。
ステーキも鯨、刺身も鯨。
大学で東京に行って初めて鯨のカレーが
一部の地域のものだと気付きました。
多分食べていたのはシロナガスクジラ、
最近こんな話を娘にしたら嫌がられました。
でも日本の文化ですよね。

クジラカレーですか~。
給食でも家庭でも食べたことはありません。
僕は静岡出身ですが、小学生時代を過ごした1980年代は、
すでに給食にクジラの肉自体がなかったと記憶してます。
でも、東京カリ~番長を立ち上げ、
出張料理を始めてから
クジラカレーを作ったことはあります。
調査用に捕獲したクジラの肉を
食用に提供している会社があり、
そこから仕入れた肉でカレーを作りました。
慣れない独特の風味を消すのに苦労し、
スパイスを片手に格闘した記憶があります。
できあがったカレーは、
そんなにおいしい味ではなかったなぁ。

057
羽村/22歳

おばあちゃんの家でカレーを食べた時の事です。
私は夏野菜の入ったカレーが好きで、
茄子の入ったカレーが好きなんです。
おばあちゃんのカレーに何やら茄子っぽいものが
入っており、最後の一口に食べよう! と決心し‥‥。
えぇ、これが茄子じゃなかったんですよね。
おそらく出汁をとるための椎茸が入っていて、
しょんぼりしたことを昨日のように覚えています。
ちなみに一緒に食べた従姉は椎茸 in カレーを
平然と食べてました…。

なすのカレーはうまいですよね。
しいたけのカレーは微妙ですね、確かに。
ただ、スパイスを使って作ればしいたけも
おいしくなりますよ。
カレールウが合わないのかもしれません。
でも、しいたけのだしが効いたカレーは、
なんだかおいしそう。
要するに使い方次第、ってことでしょうか。


058
たま/女性/35歳

小学校4年くらいのときだったと思います。
その日はなんだったか父も兄もいなくて
母のつくったカレーを夕食に食べていました。
なぜだかその日に限って妙においしく、
そしていつまでたってもお腹がいっぱいにならない!
ふだんはおかわりしない私が、
おかわり、おかわり‥‥とついに5杯目。
母に止められるまで食べました。
その日は平気だったのですが、
案の定翌日はお腹が痛くて
学校欠席‥‥とほほでした。
母は笑っていましたが。
なんだったんだろう? あれは、と思いますが、
ひょっとしたら父も兄もいない状況に
浮かれていたのかしら、と今となっては思います。
あと、妙にカレーがおいしい日ってありますよね。

浮かれていたんだと思います、きっと。
母親を独り占めできる。
家を独り占めできる。
そして、カレーも独り占めできる。
うまいですよね、そんなときに食べるカレー。
妙にカレーがおいしい日って絶対にありますよね。
そんな日は、やっぱりきっと、
何かに浮かれているんだと思います。
カレーがおいしく感じる要因って本当にいろいろ。
体調がいい、気分がいい、好きな人と一緒‥‥。
味が好みに合っている、という要素は、それらの
ひとつにすぎないんだよなぁと思います。
だから僕はカレーが好きなんですよねぇ。


059
kae

亡くなった主人の父は、戦争中、横須賀で
潜水艦の訓練を受けていたそうです。
何日も潜っていると、曜日の感覚がなくなるから、
火曜日は必ずカレーが出たんだよ、と教えてくれました。
しばらく後に映画「出口のない海」を
夫と3人で観にいったのですが、
涙を流した父を初めて見ました。
戦争の話はあまりしない寡黙な父でしたが、
カレーを食べると「今日は火曜日?」と思っちゃいます。

火曜日? 火曜日でしたっけ?
金曜日じゃなかったでしたっけ?
僕が横須賀海軍を取材させていただいたときは、
「毎週金曜はカレーの日」と聞きました。
潜水艦によって曜日が違っていたのかもしれません。
レシピは船ごとにすべて違うそうですから。
カレーを食べるたびに「ああ、1週間たったんだな」
と思う感覚っていうのは、なんだか少し羨ましいですね。
僕みたいに毎日欠かさずカレーを食べてる身には、
いつまでも経験できない感覚です。
きっと火曜に自宅でカレーを食べると、
父親のことを思い出したりするんでしょうね。
思い出のカレー曜日、大事にしてください。

060
mk/女性/32歳

結婚してすぐ、夫との暮らしが始まったばかりのとき、
ふたりでカレーを作りました。
恥ずかしながら私は料理をしたことのない人間。
夫も同様で、にんじんもまともに剥けない有様です。
悪戦苦闘しながらも、
ルウの箱に書いてあるレシピを見ながら
作りすすめましたが、はたと手が止まりました。
うちには計量カップがなく、水の量がわからない。
「どうする?」
「少ないよりは多いほうがいいんじゃない?」
という会話を経て、鍋たっぷりに水を入れた結果、
うすーい味のしゃばしゃばカレーが
大量にできあがりました。
あげく、
「お米の量はどれくらいがいいんだろう?」
「少ないよりは多いほうがいいんじゃない?」
という会話を経て、
炊飯器いっぱいにご飯を炊いた結果、
五合ものごはんが炊きあがりました。
大量のごはんと大量のカレー(超薄味)を前にして、
ふたりでゲラゲラ笑った新婚当時の思い出です。
なお、今では夫がカレー当番になりました。
ふつうの具にふつうのルーですが、
いつでもとってもおいしいです。
「きみのカレーはいつもすごくおいしいね!」と言うと、
「誰かが自分のために作ってくれたごはんは
 おいしいものなのだ」と言われます。
相変わらず料理の腕はイマイチですが、
たまには私も作ってあげようかな。

誰かのために自分が作ったカレーや
自分のために誰かが作ったカレーは、
本当においしいんですよ。
これは、真実です。
それを僕は、「君カレー」と呼んでます。
僕が君のために作るカレー。
これを越えるものはありません。
おふくろカレーがおいしいのは、たぶん、それ。
それにしても、カレーを作るときの水の量は、
困っている人が多いみたいです。
「少ないよりは多い方がいいんじゃない?」
は大間違い。
「多いよりは少ない方がいいんじゃない?」
が正解です。
途中で水が足りないと思ったら、徐々に足せばいい。
でも始めから多すぎると取り返しがつきません。
これは塩の量も同じです。
始めは多いより少ない方がいい。
ただ、お米を炊く量となると別ですね。
「少ないよりは多い方がいいんじゃない?」
僕もそっちのほうがいいと思います。
いっぱい炊いて大盛りで食べたい。
ああ、カレーライスが食べたくなってきた。

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いろんな思い出をありがとうございました。
では、また次回。
みなさんの“カレーの思い出”をお待ちしています!

2013-09-03-TUE
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