菱川恵佑さん
株式会社シオンテック代表。
20年の歳月をかけて、植物から染料をつくり、
媒染剤を使わずに染色する技術を開発。
アパレルメーカーやブランドと組み、
さまざまな色と商品を提案しつづけている。
哲学や歴史に造詣が深く、
こと植物に関する知識は、博覧強記。
小川ちひろさん
株式会社シオンテックで、染色を担当する。
依頼者の「思い」をくんだ原料の植物選びから、
じっさいに染め上がるまでの
すべての工程にかかわっている。
「やさしいタオル」の
BEGINNINGシリーズの色づくりの
ディレクションも担当した。

 
 
2012-08-29.html

2012-08-29-WED

その1 ひとつの色のなかに、 200もの色が。

── 「ボタニカル・ダイ」って、
いわゆる思い描いていた
伝統的な草木染めとは、
ずいぶん違う印象でした。
もうすこし、くすんだ、というか、
沈んだ感じの渋い色味を想像していたら、
とてもあざやかで、しかも複雑で、
なんだか元気になるような色に仕上がって、
私たちもとてもうれしくて。
菱川 ありがとうございます。
元気が出るような色というのは
じつは、そういうふうにつくった色なんですよ。
その話は、あとでするとして、
色の印象の話ですが、かんたんに言うと、
この染めかたで仕上げると、
光が乱反射するので、
色が複雑に見えるんです。
── ああ! 乱反射の話は、
以前、写真のコンテンツで扱ったことがあります。
桜の花びらは、光を乱反射させているので
人の目にはうつくしく見え、
しかも写真には写しにくいという(*)。

「写真がもっと好きになる。」より
小川 しかも、ひとつに見える色のなかに、
じつは、200くらいの
色素が混じっているんです。
化学的な染料では、赤なら赤で、一色ですが、
ボタニカル・ダイは、
黄色、緑、青、ベージュ‥‥、
いろいろな色が入っていて、
それが総合して赤に見えるんです。
菱川 おもしろいものなんですよ。
化学的に出した赤と、
ボタニカル・ダイで染めた赤を並べて、
どちらがお好きですかとたずねると、
ほとんどのかたが、
ボタニカル・ダイのほうを選んでくださいます。
小川 「見えない色」が入っているのも
逆説的な言いかたですが、
複雑に見える理由かもしれないですね。
── 見えない色?
菱川 これは科学技術の雑誌に
発表されていることなんですが、
自然物に入っている色素でも、
人の目に見えるものと、
たとえば虫の目に見えるものは、違う。
その複雑さもあるんです。
さらに、光も一日の中で変わりますし、
人の思いも、変化します。
朝元気に見る色と、
夜ねむくて見る色は、
同じはずでも、ちがった印象になる。
そんなこともありますよね。
── なるほど。
菱川 しかも、植物はそれ自体が
色を変えていきますよね。
ちょっと難しい話をしてもいいですか?
── はい、ぜひ。
菱川 植物の中には、たんぱく質とか、
そういうふうなものが色素を持って、
植物中を回ってるんですよ、
グルグル、グルグル。
たとえば藍は、藍草を取って、
ムロでお酒吹っかけて置いておくと、
色素が回っていって濃くなる。
原理はすごく簡単で、
芽が出ると白になるんですけど、
そこに光が当たって、フラボノイドになる。
フラボノイドに光が当たって、
クロロフィルっていうグリーンになってくる。
それがやがて、
だんだん黄色っぽく紅葉していくんです。
それがポリフェノールの中の
フラボノイドの特性です。
紅葉してオレンジになると、
ニンジンなんかと同じで、
カロチノイドが増えてくる。
さらにもっと紅葉すると、
アントシアンって赤になる。
葉っぱが落ちると、アントシアンが
タンニンになって、
茶色くなっちゃうんです。
── あぁー!
たしかに難しいんですが、
おおまかに、わかりました。
そうか、紅葉するということは、
植物自体にいろんな色素があって
しかも変化しているってことなんですね。
菱川 それが植物の基本類型なんです。
ほとんど植物の中にはそれらが全部入ってる。
小川 ですから私たちの仕事は、
そこから色素を選んで、
リクエストに応じて、
あたらしい色をつくることなんですよ。
菱川 そのとき「思い」が
大事になってくるんです。
最初に言った
「元気になる色」というのは
ひとつの思いですよね。
── はい、ぜひその話を
くわしく聞かせてください。

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次回「HAPPYになれる色。」につづきます。

 

2012-08-22-WED

ボタニカル・ダイによる やさしいタオル BEGINNINGシリーズは こちらからどうぞ。

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