- 滝川
-
糸井さん、最後に質問してもいいですか。
いつも、お話の最後に必ず訊く質問があって、
糸井さんにとって、お仕事とは改めて何なのかを、
簡単に教えていただきたいのですが。
- 糸井
-
うーん、仕事ねぇ‥‥、
生きることそのものじゃないですかね。
- 滝川
- 生きること。
- 糸井
-
うん。
ご飯を食べるだとかの
延長線上にあるものだと思いますね。
仕事はおもしろいし。
昔は仕事するのが嫌で、泣いた人なのにね。
- 滝川
- そうなんですね。
- 糸井
-
勤めるのが嫌だったんだと思います。
昔、漫画家になりたいと思っていた理由は、
上司がいないからなんですよね。
- 滝川
-
上司の下に自分がいるのは、
合わないという気持ちがあったんですね。
- 糸井
-
一度だけ勤めていたときには、
上司と仲良くやってましたけどね。
ぼくは、ドラマに出てくるような会社が
嫌だったんでしょうね。
上下があって、そういうのは嫌ですね。
- 滝川
- 本当にフェアな感じがいいと。
- 糸井
-
フラットなほうがいいですね。
上にいる人に対しても敬意は持っていますけど、
あんまり、特別に大事にしようとも思わないし。
ぼくにとって、
ユニフォームを着た野球選手以外は、みんな平等。
- 滝川
- えっ、野球選手?
- 糸井
-
ユニフォームを着た野球選手は、
神々だと思って見ています。
大統領よりも偉いんです。
普通の服装になっちゃったら、そうでもなくて。
- 滝川
-
ご自身の中で、
独特な順番で成り立っていますね。
- 糸井
-
野球は特別ですよ。
でも、それ以外にあまり順番とかありません。
- 滝川
-
糸井さんは、ご自分で
何が本職だと思われていますか。
- 糸井
-
本職はないですね、本当に。
全部本職じゃない人間として
やっている気がします。
- 滝川
- 全部が本職じゃない。
- 糸井
-
うん。
本職って、仕事用に自分が
変形しちゃっている人のことですよね。
指先を酷使する職人さんの節が太くなっているとか。
たとえば、エッセイストという人だったら、
エッセイを書く種を、歩きながら無意識で探しますよね。
それはもう、変形しちゃっていますよね。
本職になったことで、悲しいことでもあります。
ぼくは、本職以外の人が、
本職以上の答えを出すこともあり得ると思うんです。
だけど、ずっと同じことをやってねって
期待されたら逃げ出しちゃう。
- 滝川
- 飽きちゃうんですか。
- 糸井
-
本職になると、
定石で進める時間が長くなるから。
将棋でいえば、必ず角道を空けるとか。
あの時間、つまんないですよ。
- 滝川
- セオリーが嫌なんですね。
- 糸井
-
そうですね。
セオリーとして必要な部分は大事だし、
ぼくらにもきっと、その要素はあります。
だけど、そうじゃないところを、
いつでも見つけていたいから。
原子物理学者の早野龍五さんが、
うまいことを言っていました。
- 滝川
- どんなことでしょう。
- 糸井
-
早野さんは『知ろうとすること。』という本を
一緒につくった原子物理学者です。
早野さんが、こんなことをおっしゃっていました。
「『アマチュアの心で、
最後はプロの仕事としてまとめること』。
そして、もっと大事なことは、
『楽しそうにやること』」ということでした。
いつでも楽しくやれるとは限らないけれど、
楽しそうにやることはできるから。
これは、自分にも合っているなと思えたんです。
- 滝川
-
『知ろうとすること。』の中で
書かれていたのでしょうか。
- 糸井
-
この間、東大の先生を退官する最終講義があって、
そこで、これまでを振り返っての発言でしたね。
その後で早野さんに会ったら、
ちょっとおもしろい話を教えてもらいました。
もう20何年の間、
早野さんは311号室という研究室にいたんです。
奥さんから聞いたんですけど、
研究室を引き払うにあたって、
家にどんな荷物を持って来たかというと、
これが、カッコいいんですよ。
‥‥猫の置物ひとつだった。
- 滝川
- ひとつだけ。
- 糸井
-
本棚に本がザーッとあったのに、
なにも持ってこなかったんです。
奥さんも、家の中に一応スペース空けておいて、
覚悟していたらしいんです。
そしたら、猫の置物ひとつ、紙袋に入れて帰ってきた。
- 滝川
- すごい。
- 糸井
-
おしゃれですよね。これはマネできない。
プロとかアマチュアとかを越えて、
凄みがありますよね。
- 滝川
-
そうですね。
まさに、人間の凄みですね。
- 糸井
-
そんな人と、チームとして
一緒に仕事ができることも、仕事のおもしろさです。
ぼくとは全然違うタイプの人なのに、
一緒のチームがつくれるんです。
- 滝川
-
私も、いつかチームで
糸井さんと何かができたら。
- 糸井
-
はい、ぜひ。
なにか、声をかけてくだされば。
今日は、ありがとうございました。
- 滝川
- はい。ありがとうございました。
(以上で、滝川クリステルさんと
糸井重里の対談はおしまいです。
ご愛読いただき、ありがとうございました!)
2017-06-27-TUE